激しく吹く風の事を、昔は「野分」と呼んでいたようです。
野の草花を風が激しく「分け」ながら吹き抜けていく。だから「野分」なのでしょうな。
黒澤明監督の映画『乱』には、本物の台風の中で撮影したシーンがあるのですが、野の草が暴風で激しく揺れる光景は、まさしく「野分」というべきものでした。
「暴風」なんていうと、味もそっけもない、ただただ怖いだけの感じがしますが、「野分」などというと、なにやら趣のようなものを感じさせますね。
実際、激しく風が吹き荒れる光景というのは、なにか心惹かれるものがあります。大自然の猛威の中に、日本人は「なにか」を見、感じていたのかもしれない。
それは「畏怖」でもありまた、「興趣」でもあり。
つまりは「神」でもあり。
相米慎二監督の映画『台風クラブ』などは、そんな自然の猛威に対するある種のワクワク感を映画化したものといっていいかもしれません。もっとも台風は災害を伴うことが多い。能天気にワクワクとばかり言っているわけにはいきませんね。
ただ日本人はこうした自然の猛威の中にさえ、ある種の「興趣」を感じる感性を持っていたのだし、そこは大事にしたいなと思いつつ、
「畏怖」を持って、自然災害には注意をしていかなければなりません。
また新たな台風が発生したとか。気は抜けませんね。
この度の台風被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。
黒澤明『乱』
「野分」が吹いていますね。