風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画 『宮本武蔵』 昭和36年(1961)

2017-05-10 04:46:34 | 時代劇








吉川英治原作による『宮本武蔵』の映画化。全五部作制作されており、吉川英治作品の映像化としては、おそらくこれが最高傑作であると思われます。

なんといっても主演の中村錦之助が素晴らしい!色々な方が武蔵を演じておりますが、これほど説得力のある武蔵は他にいませんね。


ただの乱暴者であった新免武蔵(しんめん たけぞう)という男が、いかにして兵法家宮本武蔵(みやもと むさし)となっていったかを描く物語。


出演は他に、木村功。三国連太郎。入江若葉。浪花千栄子。風見章子。小暮美千代。花沢徳衛など。








作州宮本村の郷士、新免武蔵(中村錦之助)と本位田又八(木村功)は、天下分け目の関ケ原の合戦に、西軍の武将の下について参戦、負け戦となり、落ち武者狩りの対象となってしまいます。

累々と横たわる死体の中を、泥にまみれながら這いずり回り、逃れようとする二人。と、そこへ、死体の鎧などをはぎ取っている娘・朱美(丘さとみ)が現れ、二人はその娘と娘の母親・お甲(小暮美千代)に匿われます。


数日匿われるうち、又八とお甲がすっかりいい仲になってしまう。そんな折、母娘が盗んだ鎧兜を目当てに野武士が襲ってきます。これを迎え打つ武蔵。

この時の錦之助さんの動きが凄い!カメラのフレーム内を縦横無尽に走り回り、棒切れ一本で野武士どもを次々と打倒し、叩き殺していく。この動きの凄まじさ!武蔵という男の腕っぷしの強さと、人を殺すことになんら躊躇する心の無い男だということがよくわかるんです。

武蔵は自分の強さに慢心しており、自分は「正しい」ことをしているのだから、誰にも文句を言われる筋合いはないと真から思い込んでおり、人の気持ちというものをまるでわかっていない。だから村中の嫌われ者になっているわけですが、自分が何故嫌われるのか、武蔵はまるで理解できないわけです。

お甲もまた、そんな武蔵を嫌っており、いい機会だとばかりに、武蔵が野武士と戦っている隙をついて、又八と朱美を連れて逃げてしまう。これに諾々と従う又八という男もまた、なんというか、情けない……。



武蔵は宮本村に残してきた姉・お吟のことが気にかかり、又八のことを又八の母親・本位田のお杉ばば様(浪花千栄子)に知らせねばならぬと、命がけで村に戻ります。しかし村には姫路の殿様に派遣された落ち武者狩りの兵隊が派遣されており、武蔵を嫌っている村人は、武蔵捕縛に協力します。

村人の中でも特に本位田のおばばは、息子・又八の不出来をすべて武蔵のせいにして、殊の他武蔵を憎んでいます。又八の事を知らせに来た武蔵に対し、優しく接するフリをして武蔵を風呂に入れ、その隙に兵隊たちを呼び寄せる始末。

騙されたと知った武蔵の、脱兎の如くに逃げ去る俊敏さ!身の軽さ!錦兄生来の身体能力の高さを十二分に発揮して、武蔵という男を演じていきます。



村人の中で唯一、曇りなき目で武蔵を見ていたのが、又八の許嫁・お通(入江若葉)でした。また、村の寺の住職・沢庵和尚(三國連太郎)は、武蔵を不憫に思い、これ以上死人が出ないようにするため、自ら武蔵を捕まえるため、お通を連れて武蔵の潜む山中に入り、鍋を焚き始めます。


空腹と人恋しさに苛まれていた武蔵は、人声と鍋の焚ける匂いに誘われて、沢庵らに近づきます。これを目ざとく見つける沢庵。

逃げようとする武蔵を沢庵が呼び止め、自分に任せてみないかと武蔵を説き伏せます。沢庵の真剣さに心を動かされた武蔵は沢庵に従い山を下ります。



沢庵が武蔵にしたことは、武蔵を寺の庭に聳え立っている杉の巨木の上に吊るすことでした。

騙したなー!と喚き叫ぶ武蔵。これを村人たちはざまあみろとばかりに見上げ、嗤います。


この作品での武蔵は、とにかく大声で喚き散らすんです。弱い犬ほどよく吠えるとはいいますが、どんなに腕っぷしが強くても、実は武蔵の心は常に孤独と不安に苛まれているんです。そんな自分を認めたくないが故に、益々力に頼り、俺は強い!俺は強い!と喚き続け、益々嫌われていく悪循環を繰り返しているわけです。


巨木に吊るされた武蔵を見上げながら沢庵が言います。「お前は本当の強さというものを知らぬ」

「今のお前はただのケダモノだ。せっかく人として生まれながら、ケダモノのまま死んでもよいのか」



最初は反発していた武蔵ですが、徐々に死の恐怖に目覚めていく。そうして初めて「助けてくれ!俺は死にたくない!」と叫びます。

これを不憫に思ったお通が、縄を切って武蔵を下ろし、二人は村から逃亡します。許嫁の又八に捨てられたお通もまた、武蔵と同様に行き場を失っていたのです。


山中に逃れる二人。武蔵は自分を捕まえるために人質にされた姉・お吟の身を案じ、お通に行かせてくれと頼みます。武蔵の想いを汲み、武蔵を行かせるお通。二人は姫路城下の橋のたもとで会うことを約束します。


結局武蔵は姉に合うことが出来ず、お通は約束の橋のたもとで竹細工を作り売りしている老夫婦(宮口精二・赤木春恵)のもとに身を寄せ、武蔵を待ち続けます。

そんなお通を見届け、沢庵は山中を彷徨う武蔵を発見、武蔵を姫路城主・池田輝政(坂東蓑助)の下へ連れて行きます。


新免家は赤松氏に連なる家筋。赤松氏は元々姫路城主であったこともあり、そうした縁と武蔵の不敵な面構えを気に入った輝政は、沢庵の頼みを聞き入れ、武蔵を天守閣頂上にある書庫へ幽閉させます。


この書庫にて、武蔵は3年の間ひたすら書物と向き合う生活を続けます。そうしてケダモノの如くであった武蔵の心に


「智慧」の光が灯り始めたのです。

(第二部『般若坂の決斗』に続く)











『宮本武蔵』
制作 大川博
原作 吉川英治
脚本 成沢昌茂
   鈴木尚之
音楽 伊福部昭
監督 内田吐夢

出演

中村錦之助

木村功
入江若葉
丘さとみ

小暮美千代
風見章子

浪花千栄子

花沢徳衛
阿部九州男

坂東蓑助
加賀邦男

宮口精二
赤木春恵

汐路章

三國連太郎

唱和36年 東映映画