芸能、芸術というものを、単純に「労働」と捉えてよいものかどうか、議論の分かれるところだと思います。
確かに、労働と言い切ってしまうには違和感を感じる点は多々あるでしょう。しかし、これを仕事として賃金が支払われている以上、タレントは事務所に「労働者」として雇われている側面はある、といえるのではないでしょうか。
労働者が待遇改善を求めるのに最善の方法の一つしとして、労働組合、ユニオンの結成があります。現在芸能界には、芸能界全体をカバーするような大きな労組は存在しません。
作ろうにも作れない……というのが実情のようですが。
戦後の芸能界を牛耳っていた芸能事務所はWプロダクションです。Wプロダクションは、映画界の「五社協定」に倣い、タレントの引き抜きや事務所移籍、独立を阻止するためのカルテルを作ります。
これが「音事協(日本音楽事業者協会)」です。
この音事協が中心となって、戦後日本の芸能界は動かされてきたといっていいようです。この音事協所属の事務所において、先に挙げた「枕営業」などが横行していた、いや、現在も横行している、と見てよいようです。
この音事協に対抗するわけではないでしょうが、音事協に所属していない中小の芸能、音楽事務所によって結成されたのが「音制連(日本音楽制作者連盟)」です。こちらはアーティスト系、バンド系を手掛ける事務所が中心となっているようで、出来る限りアーテイスト寄りの、出来る限りクリーンな運営を旨としているようで、その点、音事協とは一線を画す存在のようです。
かの超人気アイドルグループ、MCZが所属する芸能事務所、SDプロモーションは比較的大手の芸能事務所ですが、音楽事業に参入するにあたり、あえて音事協を選ばず、こちら音制連に加入することを選びました。私はここに、SDプロモーションの芸能に対する「姿勢」を見たような気がします。
このために、超人気アイドルグループMCZは、音事協主催による「日本レコード大賞」にはノミネートすらされたことがなく、紅白歌合戦を3年で「卒業」する羽目になったのも、おそらくは音事協側がNHKに圧力を掛けたからではないかと、私は推測しています。
話が逸れましたね(笑)。労働組合の話に戻ります。
まあ、この音事協はもちろんのこと、音声連にしても、あくまで事務所による連合ですので、必ずしも芸能人の待遇改善に寄与しているわけではない。やはり、芸能人自身による組合結成が急務のようです。
しかし、それがそう簡単にはいかない。
人気俳優のOが、ある雑誌において「芸能人による組合結成の構想がある」と語ったところ、途端にOの女性スキャンダルが発覚し、結果Oは組合について完全に沈黙してしまいます。
タレントにとってはイメージの失墜こそがもっとも恐ろしい。そのスキャンダルが本当か嘘かなど、どっちでもいいのです。
つまりこれは、「組合の事など口にだすな!」という脅しなんです。
戦後日本の芸能界を牛耳ってきたWプロダクションは、様々に芸能人を縛り付けていましたが、ヤクザとだけは手を組もうとしなかった。
そのWプロダクションの勢いも、近年では凋落傾向にあるようで、Wプロダクション所属の大物歌手W.Aが、10数年に亘って出場し続けていた紅白歌合戦から去年落選したのは、このWプロダクションの力が落ちたことの、一つの証明かもしれません。
そのWプロダクションに代わり勢いをつけてきたのが、Bプロダクションで、この事務所の会長S氏は、ヤクザとも積極的な交流を行っているようで、このヤクザによる「力」と「暴力」で、芸能界に強い影響力を与えているわけで、状況はWプロダクション最盛期の時代より、寧ろ悪くなっていると言えるのではないでしょうか。
このような連中が、自分たちに都合の悪い要求を突き付けてくるであろう組合の結成を赦すはずもなく、当然潰しにかかるでしょう。場合によっては「暴力」を使ってでも。
暴力による組合潰しなど、まさに「前近代的」という他ないのですが、芸能界はそれがまかり通ってしまうところ。
しかしだからこそ、なんとかしなくちゃならない。
人気お笑い芸人、岡村隆史氏は、ご自身がパーソナリティを務めるラジオ番組『オールナイトニッポン』において、「枕営業」を行わざるを得ない環境に置かれたアイドルたちが、一定数確実にいるという状況について、「しゃあないやんけ!みんなアイドルになりたくて頑張っとるんや!」と、この状況を肯定するような発言をしています。これは芸能界の裏を知る岡村氏なりの、後輩たちにたいする悲痛なエールなのだろうと、私は受け取っています。
しかし、当の芸能人自身が、現在の状況を「しゃあないやんけ」とあきらめてしまっている、そんな気分が芸能界に蔓延している、とも受け取れるわけで、このままでは、唯々状況は悪くなっていくばかり。
本当に「しゃあない」んやろか?これでええのんか?
いや、断じて、
断じて、良いわけがない!
現在、某弁護士事務所が中心となって、芸能人救済のための組織を立ち上げようという動きがあるそうです。詳しいことは分かりませんが、これが契機となって、なんとか良い方向に回って行って欲しい。
そう願います。
しかしそのためには、芸能界内部からの、芸能人の皆さん自身からの、「変えよう」という想い、動きが必要です。
どうか諦めないでほしい。明日の芸能界のために。
もう少し、続きます。
※音事協系事務所がすべてろくでもないわけではないでしょうし、音制連系だからといって、すべて「まとも」だというわけでもありません。どちらにも所属していない事務所もたくさんあるし、結局は個別に見ていくしかありません。この点、誤解無きよう。