電車は行ってしまった!
電車に置いて行かれたヴェンゲン駅はラウターブルンネン谷を見下ろす静かな山里
ユングフラウ(以下Y)鉄道でユングフラウ・ヨッホ(3454m)へ。電車は坂道を登る時ゴーゴー、ヒューヒューと風の音がする。前席の客はアメリカ人、シカゴから来た感じのよい若夫婦だった。暫く言葉を交わした後この夫婦が「これから歩きます」と電車を降りた。見ると立派なストックを置き忘れている。登山電車はのろい。停車時間も結構ある筈と咄嗟に忘れ物を持って追っかけたがその夫婦は見当たらない。そればかりかなんと電車はす~っと動き始めた。自分で押す開閉ボタンを押したがもう動き出した電車は止められない。客は電車の中から気の毒そうな表情で筆者を見る。夫の切符は筆者が持っていた。検札は頻繁だ。夫と何の打ち合わせもせず一途な親切心で電車を下りてしまったのだ。「あ~あ、なんて馬鹿だった!」次の電車は30分後と確かめ周辺を見渡した。Wengenという駅だった。夫は次の駅で待っているだろうか。石垣に腰かけ観念して足をぶらぶらさせ次の電車を待った。何と目的のアメリカ人は次の電車が来る5分前に現れた。下り歩きを登り歩きに方針変えしたという。彼女のストックを差し出して微笑んだ筆者に「You are so sweet!」を連発した。それを渡すため電車に置いて行かれたと知って「日本人は何て親切だ」と思ってくれたようだが実は単なる「お馬鹿さん」。ラウターブルンネン谷を見下ろす山里、ヴェンゲンはユングフラウやメンヒ等、純白の山々に囲まれ、シャレーが集まる空気清澄なリゾートだった。次の電車に乗った。クライネ・シャイデックで夫は待っていた。めでたし、めでたし。(彩の渦輪)