
Photo by Ume氏
颱風の予兆か、風の音がする。木々を大きく揺らす音や、時々悲鳴のような突風の音がが割り込み、不安を誘う。それでもまだ雨が降っていない分だけ気が楽だと、外に出た。
もう牛もいないのに、こんな天気の日に上がってきて何をするのかと聞かれそうだが、山を下りるまでの1ヶ月の間にやっておきたい牧柵補修に備え、その見回をしておきたかったのだ。
この仕事は嫌いではない。4か月一緒に〝旅″をした牛たちのことを思い出したり、この仕事を始めてからの11年間のことを振り返ったりしながら放牧地や、森の中をゆっくりと歩く。だから、実際の風景に気を取られるよりかよりか、残像のような心象とか、脈絡のない記憶を相手にすることの方が多いが、しかし逆らわない。それが今の季節、一人で山の中を心地よく歩く秘訣だ。

第4牧区から少し離れた落葉松の林の中に、そこだけ岩がゴロゴロとした場所があって、碑のような人工物があるのを前から知っていた。まだ、北原のお師匠にさえ教えてない。
行ってみると、いつのころか誰かが明らかに建てた簡単な石塔のようなもので、二つあった。建てたというよりもいい石を選んで、据えたという感じがした。三つ目を、という誘惑に少しかられたが、手だけ合わせてその場を離れた。
その後でふと、滅多に行くことのない入笠の山頂に行ってみたくなった。こんな天気では誰もいないと思ったからだが、ダケカンバやクマササの密生した道のない森の中を歩いて上に出ると、やはり茶色の地肌をした頂上に人気はなく、雨交じりの風が吹いているだけでだった。味気のない、といってしまえばそうだが、しかしそれが良かった。
登っていくときに小入笠の山頂近くで50頭ばかりの鹿の群れを見た。綺麗な弧を描いて牧柵を超えていったが、帰りに注意深く点検したところ、切られた箇所はなかった。敵ながらあっぱれ、だった。
KRさん、嬉しく、有難いコメントでした。
これからの季節は時代遅れの山小屋がオススメ。キャンプ場及び山小屋の営業内容につきましては、「H29年度の営業案内」と「続H29年度の営業案内」を参考にしてください。