ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

研能会『春日龍神』無事終わりました。

2007-06-22 21:52:46 | 能楽

昨日、梅若研能会6月例会で ぬえは無事『春日龍神』を勤めることができました。自分では「まあまあ」だと思いますが、後シテはバテる直前まで行って、あ~、歳かいなあ。ただ、前シテはとても気持ちよく勤める事ができたのではないかと思っています。それは、すべて使わせて頂いた面のおかげだったと思っています。

この日使った前シテの面は、これはとっても不思議な面でした。ぬえも「小尉」は持っているのですが、この日は師家から拝借させて頂きました。師匠は稽古の際に ぬえが使っていた「小尉」を見ておられたので、「あれでいいんじゃない?」とおっしゃったのですが、ぬえ、じつは『春日龍神』の前シテに「小尉」はあまり似合わないのではないか、と思っていたのです。

なんと言うかな、『春日龍神』の前シテには、威厳と神々しさがある。それも『高砂』などの、衆生を祝福する脇能の神とは違った、荒ぶる神の姿を感じるのです。誤解を恐れずに言えば、ぬえは『春日龍神』の前シテの稽古を重ねているうちに、どうも自分が掛けている面のイメージとして「大童子」を思い描いていました。あの赤々と燃えるような眼が、強い意志を持つ『春日龍神』の前シテには似つかわしい。。もちろん子どもの姿で前シテを勤めるわけにはいかないから、あくまで ぬえが持つ前シテのイメージ、という話です。

だから ぬえには『春日龍神』には「小尉」は、どうも違うんじゃないか? という気持ちが押さえられなかったのです。師匠に前シテの面を拝借させて頂きたい旨をお願いしたところ、師匠は「ふうむ。。」と少しお考えになって、そしてお装束蔵から大変不思議な面を出してきて下さいました。

これはとても変わった面で、「小尉」でもなければ「阿古父」でもない。伺ってみましたが、師匠も「これは何だろうね。おそらく舞尉の一種ではないかと思うんだが。僕もまだ一度も使ったことがないんだよ」というお返事でした。どの尉面の範疇にも入らない面で、あえて言えば「木賊尉」に雰囲気は一番近いのではないかと思いますが。。

ところがこの面、手にとって見ると、なんだか垂れ目に見えるのです。「ん~~?これも少し違うかなあ」とは思いましたが、自分の「小尉」よりはずっとハッキリした表情があるので、半分「仕方なく」(師匠には失礼千万!)拝借させて頂いたのです。

しかし当日、楽屋で『春日龍神』の前シテの装束を着けて、いざこの面を掛けると。。あら不思議、突然この面は怒りを含んで見えるのです!それも相当の威厳と品格を持って。これには驚きました。まさに燃える眼を持った「大童子」が老人となった姿そのものなのです。これには参った。もうおワキは舞台にお出になったとのなのに、ぬえはこの面からものすごいパワーを頂きました。

この面だからこそ出せる声がある、そんな感じで前シテを勤めたことを覚えています。終演後、師家にてお装束をしまうのをお手伝いするとき、師匠に「もう一度、あの尉面を拝見させて頂けませんか?」とお願いして、見せて頂きました。この舞尉?は。。また元の、ちょっと垂れ目の平和な表情に戻っておられました。神。。なのでしょう。ああいうのが。。

ちなみに真っ白になってしまうのではないか、と困っていた前シテの縷狩衣ですが、ぬえの所蔵品の中に、神主さんから譲って頂いた本物の狩衣があることを思い出して、当日はこれを着ました。なんと、この狩衣。。もうずっと以前ではありますが、譲って頂いたときの値段は。。1まんえんだったのですよ(!)。ちょっと小ぶりではありますが、でも色合いも風合いも、この姿にはよく合っていたと思います。



後シテでは、先日このブログでご紹介した「能面作家」の新作の「黒髭」を使いました。稽古の段階から先輩からも好評だったのですが、目線がとってもハッキリしているので、型に注意しなさい、と先輩からアドバイスを頂きました。まあ『春日龍神』の後シテは動きが激しいし、また囃子の手組も拍子あたりもよくよく熟知していないと囃子方に迷惑を掛ける恐れがあるので、うまく気を回せるのは至難ではありましたが。

また飛び安座で面が少し下がったので、最後の方は床を見ながら舞うような事になりました。ただ、終演後に録画を見ても面が下がった事は分からない程度だったようでしたが。先輩から「あ、下がった?僕の時も下がったんだよ。あの人の『春日龍神』でも面が下がった、って言っていたな。この曲ではそういう危険があるんだね。あらかじめ言っておいてあげればよかったね」と言われました。1年前の『鵜飼』での飛び安座ではそういう事故? は起こらなかったので、「黒髭」という面の造作から来るものなのかも知れませんね。



まあ。。万全ではなかったけれど。。やっぱり ぬえは切能が好き。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ご無沙汰してます。 (九曜)
2007-06-26 19:36:25
ぬえどんこんにちは。
渡辺国茂さんからメールを頂き、立ち寄らせていただきました。素晴らしい・・・お二人とも細部にかなりこだわりがあるので、被写体とカメラマンとしてはバッチリだと思います。じつによく写ってます。
単狩衣の襟留がトンボ?だと思ったら、やはり能装束ではなかったのですね☆普通の写真じゃそこまでわからないですもん。
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アナタこそ~ (ぬえ)
2007-06-27 01:09:04
あ~九曜どん、お久しぶり~
だんだんニフの同窓会っぽくなってきた昨今。

渡辺国茂さんと九曜との仕事については渡辺さんから聞きました。本も頂きましたよ~。次回の黒川能には ぬえもぜひ見に行きたいな~。。

渡辺さんは ぬえから見ても能楽写真の「スゴ腕」だと思います。そんで、悪口を聞かない人ですね。「渡辺さんの写真は良いですよ」「あの人は良い人でね~」なんて、ぬえが渡辺さんを知っているとわかると、わらわらと ぬえに言葉を掛けてくる人が現れるありさまで。。(^◇^;)

「細部のこだわり」という点では専門分野の研究におけるアナタの態度も同じじゃね。渡辺さんから頂いた本を見てもアナタが書いた文章はすぐわかるもんねえ。。

今後ともご活躍をお祈り致します~
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