今日は師家の1月初会に出勤して参りました。上演中にちょっとしたアクシデントもあったようでしたが、それでも正月の初会は、舞台にも注連縄が張り巡らされ、演者も全員裃姿。やはり気持ちの良いものです。
この日『翁』の異式演出「父尉延命冠者」が上演されましたが、師家としても数十年ぶりの珍しい上演で、ぬえもこの日が初見でした。珍しい上演とあって事前に ぬえもこの小書? についていろいろ調べてみまして、これも面白い事実がわかりましたし、この機会に「父尉延命冠者」を中心に、『翁』の異式演出についてしばらく書いてみたいと思います。
まずは「父尉延命冠者」の舞台進行についてのレポートです。
そもそも『翁』の異式演出「父尉延命冠者」とは「父尉」(ちちのじょう)と「延命冠者」という二人の登場人物の名前そのものでもあり、またその役に扮するために役者(大夫と千歳)が掛ける。。ということはすなわちこの曲の「ご神体」としての二つの面の名称を並記した表記でもあります。
通常『翁』ではシテ。。というか。。ん~、どうも「シテ」という言葉は『翁』に限ってはしっくりこないな。。やっぱり「大夫」(たゆう)でしょう。。は、通例は「翁」と総称される「白色尉」もしくは「肉色尉」の面を掛け、ツレに当たる千歳は直面で演じます。ところが観世流ではことに『翁』には異式の演出が他流と比べても多くありまして、その中には使用する面にも大きく違いがある演出もあるのです。
現在 観世流では『翁』の異式演出として「初日之式」「二日之式」「三日之式」「四日之式」「法会之式」「十二月往来」「父尉延命冠者」「弓矢立合」「舟立合」の、合計九つの演出があります。で、これが通常 上演される『翁』のほかに九つの演出があるのかというと そうではなくて、通常はこのうち「四日之式」というバージョンの『翁』を上演しているのです。
かつて能は、勧進能など入場料を集める目的とか、将軍宣下能などめでたい記念の催しなどでは、数日間~十数日間に渡って演能が行われました。そのときは最初に『翁』を上演し、引き続いて脇能~修羅能~鬘能~四番目能~切能の順で曲の「カテゴリー」ごとに5番の能を演じて、ところが切能は鬼退治などの殺伐とした能が多いので、終演に際しては「祝言能」と呼ばれる めでたい短い能を追加し。。あるいはもう一度脇能(神様が登場するめでたい能)を半能形式で上演して、円満にその日の上演を終える、という形式を持って毎日 演能が続いたのです。ついでながら能と能との間には狂言が演じられましたが、狂言の曲もやはり「カテゴリー」に分類されています。たとえば脇能のあとに演じるのは、やはりめでたい結末を持つ「脇狂言」で、現代でも正月によく上演される『末広』などがそれに当たります。
さてこのように数日間を掛けて上演する能の催しを「日数能」と言い、祝言の意味を込めて「日賀寿能」などとも表記されました。そこでは毎日いろいろな能が、重複を避けながら選曲されて上演されるわけですが、それでも冒頭には必ず『翁』が上演されます。このとき連続上演される『翁』には、それぞれの日によって詞章に小異を加えて、これを以て「非同一」が図られました。「初日」~「四日」までの式は その名残を留めている、と言われています。なぜ「五日之式」以降がないのかというと、それは日数能の五日目以降は「四日之式」を繰り返して上演したから、だそうで、それだから結果的に最も上演頻度が高くなる「四日之式」が現在では『翁』の通常の上演例となって固定化された、と説明されます。(一説には日数能の五日目は「初日之式」に還って上演した、とも言われていますし、どうも『翁』の上演形態の変遷は、そう単純なものでもなさそうではありますが。。
この日『翁』の異式演出「父尉延命冠者」が上演されましたが、師家としても数十年ぶりの珍しい上演で、ぬえもこの日が初見でした。珍しい上演とあって事前に ぬえもこの小書? についていろいろ調べてみまして、これも面白い事実がわかりましたし、この機会に「父尉延命冠者」を中心に、『翁』の異式演出についてしばらく書いてみたいと思います。
まずは「父尉延命冠者」の舞台進行についてのレポートです。
そもそも『翁』の異式演出「父尉延命冠者」とは「父尉」(ちちのじょう)と「延命冠者」という二人の登場人物の名前そのものでもあり、またその役に扮するために役者(大夫と千歳)が掛ける。。ということはすなわちこの曲の「ご神体」としての二つの面の名称を並記した表記でもあります。
通常『翁』ではシテ。。というか。。ん~、どうも「シテ」という言葉は『翁』に限ってはしっくりこないな。。やっぱり「大夫」(たゆう)でしょう。。は、通例は「翁」と総称される「白色尉」もしくは「肉色尉」の面を掛け、ツレに当たる千歳は直面で演じます。ところが観世流ではことに『翁』には異式の演出が他流と比べても多くありまして、その中には使用する面にも大きく違いがある演出もあるのです。
現在 観世流では『翁』の異式演出として「初日之式」「二日之式」「三日之式」「四日之式」「法会之式」「十二月往来」「父尉延命冠者」「弓矢立合」「舟立合」の、合計九つの演出があります。で、これが通常 上演される『翁』のほかに九つの演出があるのかというと そうではなくて、通常はこのうち「四日之式」というバージョンの『翁』を上演しているのです。
かつて能は、勧進能など入場料を集める目的とか、将軍宣下能などめでたい記念の催しなどでは、数日間~十数日間に渡って演能が行われました。そのときは最初に『翁』を上演し、引き続いて脇能~修羅能~鬘能~四番目能~切能の順で曲の「カテゴリー」ごとに5番の能を演じて、ところが切能は鬼退治などの殺伐とした能が多いので、終演に際しては「祝言能」と呼ばれる めでたい短い能を追加し。。あるいはもう一度脇能(神様が登場するめでたい能)を半能形式で上演して、円満にその日の上演を終える、という形式を持って毎日 演能が続いたのです。ついでながら能と能との間には狂言が演じられましたが、狂言の曲もやはり「カテゴリー」に分類されています。たとえば脇能のあとに演じるのは、やはりめでたい結末を持つ「脇狂言」で、現代でも正月によく上演される『末広』などがそれに当たります。
さてこのように数日間を掛けて上演する能の催しを「日数能」と言い、祝言の意味を込めて「日賀寿能」などとも表記されました。そこでは毎日いろいろな能が、重複を避けながら選曲されて上演されるわけですが、それでも冒頭には必ず『翁』が上演されます。このとき連続上演される『翁』には、それぞれの日によって詞章に小異を加えて、これを以て「非同一」が図られました。「初日」~「四日」までの式は その名残を留めている、と言われています。なぜ「五日之式」以降がないのかというと、それは日数能の五日目以降は「四日之式」を繰り返して上演したから、だそうで、それだから結果的に最も上演頻度が高くなる「四日之式」が現在では『翁』の通常の上演例となって固定化された、と説明されます。(一説には日数能の五日目は「初日之式」に還って上演した、とも言われていますし、どうも『翁』の上演形態の変遷は、そう単純なものでもなさそうではありますが。。
此の記事を大変楽しみにしております(照)
自身にとって「翁」は夏に拝見しても御正月の印象がする番組で御座います。(番組…と記入すると何か違うような(汗))其の「翁の異式」…存じ上げませんでした。
是非機会があれば拝見したいです。
何卒今後とも宜しく御願い申し上げます。
時節柄御自愛くださいませ。