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ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

足利薪能。。と足利家の事ども

2006-09-04 02:41:38 | 能楽
ぬえの能楽講座にわざわざ沖縄から参加してくださった ぐりこさん。コメントを頂いてありがとうござました。ぐりこさんの九州のご実家が「丸に二つ引き」の紋で、足利家と関係がある、とのことで、思うところがあり、コメントへの返信ではなく、こちらの本文でちょっと書いてみる事にしました。

じつは ぬえの師家では今週末にその「足利氏」の出身地「足利市」で薪能を催すのです。足利市というのは栃木県の南西部にありまして、日本最古の学校で国宝の典籍も持つ足利学校でも有名です。

足利市というと、能楽師としては足を向けては寝られないほどの恩がある足利氏の出身地。足利氏はどうも学校で習う日本史では突然東国から京都に上った尊氏が室町幕府を開いたかのような印象を受けるかも知れないのですが、じつは源氏の傍流で、保元の乱にも清盛・義朝軍に参加しているし、頼朝の挙兵にも参加。鎌倉時代には源家が滅びた後にも北条家と姻戚関係を続けるなど、なかなかの政治力を持ちます。(なお源頼政が以仁王とともに清盛を倒そうとして失敗、宇治で自害した際に宇治川の先陣を切った人物は能『頼政』では「田原又太郎忠綱」となっていますが、『平家物語』では「足利」姓ですね。このへんは未調査なので事実関係は分からないのですが。。)

さてところが足利氏は鎌倉後期には不遇だったようで、ついに尊氏が後醍醐天皇の挙兵に応じて北条氏を攻めて鎌倉幕府を倒し、その後は今度は後醍醐天皇と疎遠になって戦乱となり、後醍醐を退位させて室町幕府を開いた、という経緯があるんですね。。なかなか複雑。

ちなみに尊氏は後醍醐天皇が差し向けた新田義貞・楠木正成軍との戦に破れて一時九州に逃れ、そこから体勢を立て直して京都に進撃したので、ぐりこさんのおうちが足利家と関係があるのはここに関係するのかも。

能の世界では、もちろん室町幕府の三代将軍義満が観阿弥・世阿弥親子を見いだして寵愛してくださったために、まさに現代まで能が生き残れたので、義満は能にとって最初の大恩人です。ちなみに義満は金閣寺を造った事で有名ですが、南北朝を統一したり、花の御所を造営したりと多才な人で、禅宗や水墨画が流行した「北山文化」の大パトロン。禅の影響を受けた唯一の演劇と言われる能も、世阿弥とこの文化の出会いがなければ今のような形ではなかったかも。

あ、話はそれますが、狂言『附子』で砂糖を食べ尽くした言い訳に太郎冠者が、主人の所蔵品である掛け軸を破り、台天目をうち割る、というアイデアを思いつく話が出てきますが、掛け軸は「牧渓(もっけい)和尚の墨絵の観音じゃと言うて秘蔵された」と表現されています。ところがこの牧渓という人は南宋(日本では鎌倉時代)の画僧で、日本に伝えられた軸は現在多くが国宝に指定されているほどの名品。そんで、北山文化に比較される東山文化を作り上げた足利義政の所蔵品「東山御物」のリストにこの「牧渓の墨絵観音像」が載っています。え~~それを破ったの~~? ぬえ、これを知ってからは『附子』を見るたびに「ああ。。また今日も国宝を破ってるのね。。」と思ったりします。ちなみに台天目の方もこの軸に匹敵する茶碗だったとすると、国宝の「曜変天目」みたいなものだったのかも。。

さて今週行われる薪能は、まさに足利家の旧邸宅だった鑁阿寺(ばんなじ)で行われるものです。ここはお寺なのに周囲に土塁と壕を巡らせていて、まさに中世の武家屋敷らしい、要塞のような面影を今に伝えています。ちなみに鐘楼・本堂・経堂は国指定の重文で、輪蔵を納めているその経堂の前に舞台を設えて薪能が催されます。経堂はずうっと砥の粉の塗りっぱなしで黄色いままだったんですが、最近新たに丹塗りが施されました。

今年のこの薪能の演目は師匠の『熊野』と、先輩の『鞍馬天狗』です。ぬえの伊豆での薪能と同じように、地元の子どもたちが大勢出演するそうで、こりゃまた楽しみな催しです。


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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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なるほどー (ぐりこ)
2006-09-04 10:02:36
どうして九州の片田舎に足利の家紋が伝わっているのか疑問でありましたが

尊氏さん、九州に逃げてこられた時期があったのですね

交通機関のない時代に日本をあちこち駆け回っているパワフルさがすごいですねー

それにしても能というすばらしい日本文化に今出会えるのは義満大パトロンのおかげなんですね

義満さんも精神的に深~いおヒトだったのでしょうか。

大パトロンばんざい♪♪
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