
みなさまにご心配頂いている伊豆の国市の綸子(りんず)ちゃん。今日は2週間ぶりの伊豆の国市での「狩野川薪能」の稽古でした。いや! 綸子ちゃんはよく勉強してきました!
「狩野川薪能」(8月23日開催)では毎年 ぬえがシテを勤める能の子方を地元の小学生から抜擢しているのですが、今年 ぬえが決めた上演曲は『嵐山』。ん~~、能楽師の子弟でない子方にこの曲はどうかな~、とと ぬえ自身ちょっと危惧してはいました。なんせ「下リ端」の登場楽を、笛の譜を聞きながらそれに合わせて歩んで、定められた譜のところで定められた位置~橋掛り一之松~にピタリと到着しなければなりません。そのあとの型も左右やら打込やら。。サシ込ヒラキは当たり前で、サシ廻シやら中左右やら、はては雲ノ扇やノリ込七ツ拍子まであって、これらは み~んな能楽師やその子弟が稽古の段階を経ながらひとつ一つ覚えてゆく「舞」の動作なのですから。言うなれば十分に経験を積んだ役者が演じる役で、子方であればなおさら いくつもの子方の役を経た後に勤める役でありましょう。『嵐山』を選んだ ぬえが酷だったかもしれないけれど、綸子ちゃんならば最終的にはちゃあんと習得するとは思っていました。
ところが。。まあ最初の方の稽古では見るも無惨で。。
「どうしてよいかわからない」。。ひと言で言ってしまえばそういう気持ちでしょう。でも、そんなの ぬえは先刻承知しているから、プリントやらDVDやら懇切丁寧な資料は作って送ってあったのですが。でもやっぱりそれだけで習得するのは難しかったらしい。それだけならば理解もします。でも、実際の稽古で注意した点をその場で直せず、何度も同じ注意を受けているのでは心構えの問題もある、と言わざるを得ないです。たとえ小学生とはいえ、薪能当日はプロとして扱う、と ぬえが宣言して、ほかの子どもたちとは違う厳しい稽古になるよ、と説明したうえで引き受けたお役です。そして去年も先輩が同じ大役を勤めているのも見ているし。
綸子ちゃんには2度に渡って ぬえは「今日の稽古は0点だよ」と言い放った。その時はつらそうな、疲れた顔をして帰ったけれど、今はそれで良かったと思っています。そして次の稽古にも笑顔で現れる綸子ちゃんは ぬえよりも偉いと思う。
前回、自宅でしっかり稽古を積んできた綸子ちゃんは、めざましい進歩を見せてくれました。もう、ぬえが要求した事は全部出来上がってる。まだ細かいソフィスティケーションの作業はこれからだけれども、少なくとも地謡が謡う文句にちゃんとシンクロして型をこなすレベルでは完璧でしょう。それで、その時の稽古では2回の0点を凌駕した、として300点を綸子ちゃんにあげました。
でも、そこまでの稽古は、まだこの子方の役としては半分までしか進んでいないのです。ぬえも改めて後半部分の模範演技のDVDを送っておいて、そして今日の稽古の日を迎えました。
そうしたら、どうでしょう、彼女はまだ ぬえが実際に目の前で教えるその前に、すでに ぬえが送った資料を研究して、後半部分の型をとっくに習得してしまっていました。もともと賢い子だと ぬえは思っていましたから、驚くこともなかった。この日は綸子ちゃんに200点をあげました。前回の300点よりも低い数字のように思えますが、1度の稽古で100点の倍、という意味です。だって ぬえが説明する前に出来ているんだから。
見よ。綸子ちゃんの勇姿を。

。。あ、ちょっと大人びた感じに写っていますが、本人はまだちっちゃいんですけどね。(失礼>綸子)
いや、本当によくやってきたと思います。
。。だから。。ぬえはまた、試練を与えてしまった。
本来この役は「天女之舞」を舞うことになっているんですが、今回は綸子ちゃんのキャリアを考えて、それは割愛しました。でも、この5月の段階で最後まで舞えるのならば。ん~天女之舞は難しいけれども、もう少し短い舞ならば綸子ちゃんなら舞えるかも。師匠のお許しを得てからですけれども、これから勉強して綸子ちゃんは もっとジャンプアップできると思います。そこまで到達できれば出演する能楽師も驚くよ。
今の状態そのままで真夏の薪能に突進して行ってもいいんだけど。。まだその日までは3ヶ月あります。ぬえは、彼女がつらく思うほどではなく、もっと高いところに行けると思う。可能性は引き出してみたいと思います。
がんばれ綸子!