ぬえの能楽通信blog

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活動報告書(2014.04.27~28)

2014-05-28 23:49:11 | 能楽の心と癒しプロジェクト
能楽の心と癒やしプロジェクト
第21次被災地支援活動
(2014年04月27日~28日)


 〔活動報告書〕

【趣旨と活動の概要】

 東日本大震災被災地支援を目指す在京能楽師有志「能楽の心と癒やしプロジェクト」では、能楽の持つ邪気退散、寿福招来の精神を被災地に伝えるべく、2011年6月よりすでに20度に渡り岩手県釜石市、陸前高田市、宮城県石巻市、気仙沼市、南三陸町、女川町、東松島市、仙台市、大崎市、および福島県双葉町の住民が避難していた旧埼玉県立騎西高校避難所にて能楽を上演することによって被災者を支援する活動を行って参りましたが、このたびプロジェクトメンバーのうち能楽チームの八田、寺井は、去る04月27日~28日の2日間に渡り宮城県・登米市および気仙沼市にて寺社での奉納上演を行いました(※注2)。

今回の活動は東北の桜の季節の訪問ということで、大変楽しみにしておりました。被災地での上演曲ではやはり『羽衣』が群を抜いて頻度が多いのですが、『羽衣』の季節は春で、まさに桜の季節に似合う能なのです。折しも登米市の横山不動尊さまでは春祭りが開かれるということで、そこでは昼には住民さんの演芸大会も行われますが、宵から夜にかけては音楽家による奉納演奏も行われるとのこと。寺院の祭典としては賑やかやで、プロジェクトも奉納させて頂くことになりました。

横山不動尊さまは大徳寺というのが正式な寺号ではありますがご本尊・不動明王坐像が「お不動さま」として古来当地で崇敬を集め、また親しまれております。明王像は国の重要文化財として指定されていますが、震災の地震に遭って損傷し、京都にて修復されていました。昨年その修復が完了し、同じように被災して修復された仏像・神像とともに東北歴史博物館で「神さま仏さまの復興」と題された特別展覧会で一堂に公開されました。この展覧会も終了して像は3年ぶりに大徳寺に戻り、今回はそれから初めての春祭りということで盛大なお祝いとして開催されました。横山不動尊のおとなりには仮設住宅も建っていて、住民さんも楽しまれたことと思います。

また気仙沼の北野神社も桜の名所として著名だそうで、ここでの奉納は気仙沼市民でありプロジェクトの良き理解者・協力者でもある村上緑さんが交渉してくださり、実現に至りました。震災後はボランティアの拠点としても使われた神社の境内に昨年新築なったばかりの神楽殿は、鏡板のような老松を描いた緞帳が設えられていて、大変立派なものでした。前月の活動で直接宮司さまとお会いして打合せも整っており、当日は開演前に小雨が降ったにもかかわらずチラシによる宣伝もあって70名ほどのお客さまにご参集頂きました。終演後神楽殿の上で簡単なワークショップを行い、またお客さまからは活動資金のための募金を頂戴致しました。関係各位に厚く御礼申しあげます。

なお北野神社での奉納上演は「気仙沼ケーブルネットワーク」さまにより取材が行われ、上演の模様は市内ケーブルテレビにて放映されたことを併せてご報告申しあげます。

【出演者】
八田達弥、寺井宏明(能楽の心と癒やしプロジェクト)
【協力者】(敬称略)
 村上緑/横山不動尊(大徳寺)/北野神社/気仙沼ケーブルネットワーク/門田慶之
【主催】
 能楽の心と癒やしプロジェクト/横山不動尊

【活動記録】(敬称略)
 4月27日(日)
八田・寺井早朝東京出発、往路福島県三春町の「滝桜」を見に立ち寄るも、前日の大風によってすべて散ってしまったあと。残念ながら宮城県を目指すも、時間が早いため石巻に立ち寄り関係者に挨拶を済ます。東京在住の建築家ながら石巻で活動を続ける天野美紀さんが経営する、地元の食材を活かす料理を提供するレストラン「日和キッチン」を初めて訪れることができた。

その後登米市に向かう途次でもあったので石巻市の大川小学校、またこちらは2年ぶりになる長面地区を視察。また翌月にワークショップを開催させて頂く柳津虚空蔵尊にお伺いして打合せを済ませ、ようやく登米市に到着。

◎横山不動尊 春祭り 奉納出演
18:00 ~ 能「羽衣」 出演(八田・寺井)
修復が済んだ不動明王坐像の帰還をお祝いする意味も込めた恒例の春祭り。不動堂のとなりに設けられた特設ステージでの上演。事前にご祈祷を受けて奉納上演をしました。露店も出て大変な賑わいで、能の上演の後高橋日出子さんとその友人のコンサート、仙台を中心に活動する母娘のユニット「Sonido del Viento」のコンサートも行われました。ステージの上方には桜の枝が伸び、四方には竹が立てられて竹灯籠が灯され、宵闇の中、桜の下での『羽衣』の上演が叶いました。

終演後大徳寺さまのお計らいで夕食を頂戴し、追分温泉の宿泊も手配頂きました。また大徳寺さまからは活動資金の提供を頂きました。何から何までご厚意を頂き大変感謝しております。

 4月28日(月)

笛のTさんの東京の生徒さんも伴って気仙沼へ。被災地を訪れるのは初めて、とのことだったので、途中で志津川の防災対策庁舎を訪れる。いわゆる震災遺構が気仙沼にはすでになくなっているので、このように初めて被災地を訪れる人に被害の実態を感じてもらう場所を紹介するのに苦労するのですが、やはり人命の被害があった場所を残すのには決着のつかない複雑な問題もあります。石巻の大川小学校の校舎は遺族から保存の声があがり、女川町でも中学生が声を上げたと聞いていますが。。

気仙沼で村上緑さんをピックアップ、まずは夏の活動のために気仙沼市内の中央公民館を訪れ、利用団体登録について相談。プロジェクトの資料をお渡ししたところ、館長さまのお計らいで団体登録のご許可を頂くことができました。

その後急いで北野神社へ。社務所にてご挨拶を済ませてすぐに神楽殿にて上演準備。だいたい用意ができたところで正式参拝を受けました。その後小雨が降ってきて心配するが、お客さまは70名ほど集まってくださいました。

◎北野神社奉納出演
13:30~ 能「羽衣」 出演(八田・寺井)
菅原秀紘宮司さまのご挨拶のあと笛のTさんの解説に続き能の上演。終了後、せっかくの機会なので神楽殿にて簡単な能楽ワークショップを行う。気仙沼ケーブルネットワークの取材あり。お客さまより活動資金の募金を頂戴しました。また終演後社務所にて菅原宮司さまのご厚意により昼食をご馳走になりました。まことにありがたく、感謝申しあげます。

これにて今回の活動は終了、Tさんの生徒さんが東京に帰ってから自宅に帰る交通機関の心配もあるので、急いで気仙沼を後にして帰京致しました。深夜にならずに東京・新橋に到着、ここにて解散となりました。


【収入・支出】

震災から3年が経ち、ほとんど募金が集まらなくなり、プロジェクトの活動資金は大変厳しい状況にあります。また一方この4月から消費税が増税となり、また高速道路利用料も休日・夜間割引の大幅な縮小が行われました。益々活動の継続は困難な状況にあり、プロジェクトではイベントに類する上演の場合やワークショップは有料で行う方針を立てています。

今回は過渡期で、2カ所の寺社での上演は奉納であるので無料ではありますが、北野神社では終演後に急遽ワークショップを行ったため募金を呼び掛け、お客さまは快く応じて頂けました。

プロジェクトの活動資金としては、前回活動の繰越金が 55,601円という大変厳しい状況での活動でしたが、八田の生徒さんからの募金1件10,000円が事前に届けられました。また活動中は大徳寺さまからもご厚志を頂き、また往路に立ち寄った石巻でも仮設商店街のお店から募金を頂戴致しました。これによって今回の活動の中で頂いた募金の総額は57,929円となり、繰越金を含めた活動資金の総額は123,530円となります。

一方支出は、増税によるガソリン価格の高騰も現在までのところ影響は見られず、また東北までの往路は日曜であったため高速道路利用料は休日割引の対象となりました。さらに宿泊は横山不動尊さまのご厚意によってご用意頂きました。これによって支出はかなり切りつめられ、ガソリン代、高速道路利用料、チラシ印刷費の総額で41,429円に抑えることができました。

プロジェクトの訪問公演の支出につきましては節約を旨としております。交通費節約のため、できるだけ深夜割引の制度を利用して終夜運転をして早朝に現地に到着するなど工夫はしておりますが、体力や公演スケジュールによって、必ずしも深夜走行ができない場合もあります。宿泊につきましては、従来は住民ボランティアさま等のご厚意により無料、または安価での宿泊ができましたが、街が落ち着きを取り戻しつつある昨今では旅館などに宿泊する機会も増えてきました。この場合にも宿泊費はおおよそ5,000円まで、素泊まりを旨としており、食費については酒食の区別がつきにくいため、すべて自己負担としております。

【成果と感想・今後の展望】
今回は寺社での2回の奉納上演のみの活動となりましたが、いずれも隣りに仮設住宅があったり、震災時にはボランティアを受け入れて復興の拠点となった場所です。プロジェクトとしてはここに敬意を払いつつ、桜が咲く時期に被災地にて『羽衣』を上演できたのが何よりもっての喜びです。活動資金の枯渇は活動の継続の可否を左右する大変大きな問題ではありますが、今回はお客さまや寺社のご厚意によって募金を頂戴することができ、活動の展望も開けてきたように思います。また今回も気仙沼市民の村上緑さんの活躍はめざましく、北野神社との交渉、宣伝チラシの配布などに尽力頂きました。改めまして御礼申しあげます。

震災3年目を迎え、仮設住宅や仮設商店街もいずれは解消されて、いずれは次の段階へと進んでいくことになりますが、我々の活動もその時々の状況に応じて形を変えていく事になります。息長い支援のために皆さまの変わらぬご支援をお願い申し上げる次第です。

平成26年5月28日
                             「能楽の心と癒やしプロジェクト」

                               代表   八田 達弥

                             (住所)
                             (電話)
                             E-mail: QYJ13065@nifty.com