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ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

活動報告書(10/20~21、11/2)

2013-12-23 21:43:30 | 能楽の心と癒しプロジェクト
20日間以上に渡ってブログの更新ができずにおりました。申し訳ありません~
師家の催しで大役を頂いていたり、新作能の公演があったり、はたまた年末に被災地に行く予定を立てて、その準備に追われたり。。こうしている中にも今月初旬に石巻での活動も展開しております。
それらのご報告も進めなければなりませんが。。
とりあえず、10月下旬~11月初旬に掛けての活動の報告書をようやくまとめる事ができましたので、こちらを公表させて頂きたいと思います。



能楽の心と癒やしプロジェクト
第17次被災地支援活動(2013年10月20日~21日、11月02日)


 〔活動報告書〕

【趣旨と活動の概要】

 東日本大震災被災地支援を目指す在京能楽師有志「能楽の心と癒やしプロジェクト」の4名(※注1)は、能楽の持つ邪気退散、寿福招来の精神を被災地に伝えるべく、2011年6月よりすでに16度に渡り岩手県釜石市、宮城県石巻市、気仙沼市、南三陸町、女川町、東松島市、仙台市、大崎市、および福島県双葉町の住民が避難している旧埼玉県立騎西高校避難所にて能楽を上演することによって被災者を支援する活動を行って参りましたが、このたびメンバーの八田、寺井は、去る10月20日~21日、および11月2日の3日間に渡り宮城県・東松島市および岩手県・陸前高田市内にて計3回の能楽の上演および奉納を行いました(※注2)。

今回の活動は東松島市の仮設住宅での慰問活動がNPO法人「JIN'S PROJECT」との共催、陸前高田市の「奇跡の一本松」の前での奉納上演、および同市の「産業まつり」での上演は「JIN'S PROJECT」さまの主催で、当プロジェクトはこれに協力させて頂いての活動となります。

今回の活動では東松島市において、ピアニスト・御子柴聖子さんのほか、はじめてフルート奏者の内野浩乃さんに出演を願い、仮設住宅にて「能とピアノの夕べ」公演を行いました。これは従前より上演してきた「星と能楽の夕べ」のうち星空の投影を除いてコンサートと能の公演としたもので、すでに8月に石巻の「秋田屋庭園」にて上演し、また同月 気仙沼市の地福寺さまで催された「送り火の集い」も、名称こそ違えピアノ・コンサートと能との競演という性格は同じ公演で、プロジェクトが目指す「文化の復興」という目標に沿っての活動の一環と捉えております。今回は八田のアイデアでフルート奏者を入れて活動しましたが、御子柴さんと内野さんは初対面でありながら この無理なお願いを快く引き受けてくださり、事前に集まって選曲や練習をして頂きました。当日はあいにくの大雨でしたが、住民さんも多数お集まりくださり、また出演者からも花束を住民さんに贈るなど、有意義な活動が出来たものと考えております。

陸前高田市はかつてプロジェクトとして活動をした事がない未知の街で、震災のあった2011年に「奇跡の一本松」の視察をしていた程度でした。この度はJIN'S PROJECTさまからのお話で、市の協力を頂き、この一本松の前での奉納が実現致しました。この奉納上演は「ともしびプロジェクト」さまのご協力によってキャンドルが点され、ようやく天気も安定してきた中、大変幻想的な雰囲気での上演となりました。また朝日新聞社の取材を頂き、翌日の新聞にてこの上演は写真入りで報道されました。なお朝日新聞デジタルサイトでは同奉納上演の動画が公開され、これはまた後日「YOUTUBE」でも紹介されております。またJIN'S PROJECTさま関係で別に撮影された映像も同じくYOUTUBEにて公開されております。

http://www.youtube.com/watch?v=23r08ULwzzI
http://www.youtube.com/watch?v=cES7MJ3Lb0A

陸前高田市の「奇跡の一本松」は、震災前には全長2kmにおよび7万本の松が立ち並んでいた、まさに白砂青松の名勝だった「高田松原」の中で津波に流されずにたった1本だけが残った、まさに奇跡の松です。震災後にすぐにこれを保存する運動が起こされましたが、やがて津波をかぶった事による塩害のために松は枯死、この松を復元保存する作業が全国規模で展開されました。こうして元の姿を取り戻した松ですが、現場は現在、被災地区のかさ上げのための工事現場のただ中で、そうした条件もあるため、管見によれば復元作業の完成記念式典より後にイベントの類はほとんど開かれていないと思います。

今回はJIN'S PROJECTさまの尽力により陸前高田市のご協力を頂き、一本松周辺の工事現場の方々にもいろいろと便宜を計って頂いて奉納させて頂いたことは、震災後の復興の歴史の中で大きな意味を持つと思います。このような貴重な機会を得させて頂いたことはプロジェクトにとっても、一能楽師としての自分にとっても、大変光栄なことでありました。

陸前高田市の「産業まつり」は、市が主催する産業振興イベントで、JIN'S PROJECTさまの提案によりステージイベントのひとつとして参加させて頂きました。「奇跡の一本松」奉納の12日後のことでしたが、同奉納上演と一対を成す活動ですので、同じ17次支援活動の一環と考えております。前述のように活動の実績がない当プロジェクトとしましては、この2つの活動を足がかりにして、今後 陸前高田市でも仮設住宅の訪問等の活動を展開していきたいと考えております。

このように、今回は離れた2つの期間の活動をまとめて17次支援活動としております。今回は何と言っても陸前高田市の「奇跡の一本松」での奉納上演が、プロジェクトの活動としても、震災後の復興の段階の中においてもまさにエポックメイキングと言える活動でした。これははじめてJIN'S PROJECTさまの主催の催しへの協力出演でしたが、また「能とピアノの夕べ」公演にフルートを入れてみるなど、全体として新しい可能性を予感させる活動となったと思います。また往路夜行バスを利用した陸前高田「産業まつり」公演では、早朝到着した能楽師の休憩場所を気仙沼市民に提供頂きました。関係各位のご尽力に深謝申し上げたいと思います。

※注1 プロジェクトメンバーは八田達弥(シテ方・観世流)、寺井宏明(笛方・森田流)、大蔵千太郎(狂言方・大蔵流)、小梶直人(同)の4名。ただし都合により今回は八田・寺井の2名での活動となった。
※注2 今回の上演場所は①東松島市・グリーンタウンやもと①応急仮設住宅 ひまわり集会所②陸前高田市・奇跡の一本松前③陸前高田市・私立第一中学校仮設グラウンドの3箇所。

【出演者】
八田達弥、寺井宏明(以上能楽の心と癒やしプロジェクト)/桜井均(能楽師・太鼓方=一本松奉納のみ)
東松島「能とピアノの夕べ」共演者:御子柴聖子(ピアニスト)/内野浩乃(フルート奏者)
【協力者】
 増島清人(ボランティア)
【主催】
 能楽の心と癒やしプロジェクト
 NPO法人 JIN'S PROJECT (陸前高田市の催しのみ)(東松島市の活動はプロジェクトとの共催)

【活動記録】
 10月20日(日)
早朝にJIN'S PROJECT代表の折尾仁氏および奉納関係スタッフ、朝日新聞記者さまともに東京を出発、昼頃に東松島市に到着。矢本のイオンにて花束を購入、その後グリーンタウンやもと仮設住宅に楽屋入り。ピアニスト・フルート奏者も到着して準備を行い、16:30より「能とピアノの夕べ」公演。能『羽衣』を上演。本来は「ひまわり集会所」の外で夕暮れの景色と調和させながらの公演の予定だったが、折からの大雨のため会場を集会所内とする。仮設住宅の集会所での上演だが、囃子と装束着付けの体験コーナーは割愛。床にLEDキャンドルを置き、照明を落としての上演は、それでも効果的だったと思う。どちらかというと住民さんの興味を惹いたのはコンサートの方で、アンコールの希望も出た。

終演後は住民さんの宴会が予定されていたらしく、そこへの出席を求められたが移動の予定で断念。参加住民約30名。終演後ピアニストらと別れて気仙沼へ移動し宿泊。(JIN'S一行は陸前高田市方面にて宿泊)

 10月21日(月)
午後~夕方に予定されていた陸前高田市「奇跡の一本松」奉納まで時間があるため、気仙沼にて買い物などをしてから陸前高田へ。午後JIN'S一行と合流して「奇跡の一本松」の前へ。天候は回復気味で、太鼓の桜井均氏も到着して午後遅く~夕暮れ時までの奉納。能『羽衣』を上演。
終了後、桜井氏やJIN'Sスタッフさんらを一ノ関駅まで送り、そのまま未明に帰京。

 11月2日(土)
東京でのスケジュールの問題があり、この日は前夜から夜行バスにて気仙沼に入り、市民さんの協力を得て早朝に到着した我々の休憩場所を提供頂いた。朝食後、陸前高田の第一中学校の仮設グラウンドに到着。10:00前より「産業まつり」が開式され、11:30頃にトレーラーのステージで能『羽衣』を上演。

終演後に「産業まつり」の各ブースを見て回り、気仙沼市民さんにより一ノ関駅まで送って頂き、帰京。

【収入・支出】

  プロジェクトの活動は基本的に募金によって行われております。近来JIN'S PROJECTさまとの共催の形を取り、同団体の斡旋により企業より活動資金の一部を補助頂くことができ、今回もプロジェクト・メンバーの八田・寺井の交通費のみご支援を頂くことができました。このご援助を頂いたことによって、東松島市での活動にご協力頂いた御子柴聖子氏(ピアニスト)、内野浩乃氏(フルート奏者)の交通費をプロジェクトの活動資金より支出することができました。また今回の活動のうち、陸前高田での活動はJIN'S PROJECTさまの主催によりますが、スポンサー企業さまの助成の使途がプロジェクトのメンバーの交通費に限られていたため、一本松での奉納のみ参加頂いた能楽師(太鼓方)桜井均氏の交通費はやはりプロジェクトの負担としました。

  募金は基本的にプロジェクトのボランティア活動資金(以下「ボラ」)として使わせて頂きますが、とくに被災地への直接支援を目的にプロジェクトに寄せられた義援金(以下「ギエ」)はプロジェクトとして支援するのに然るべき団体。。被災地に拠点を置き、直接被災者の支援活動に従事することを目的とした、非営利で公明正大な活動が長期に渡って期待できる、信頼すべき団体に寄付させて頂きます。

  プロジェクトの活動資金としては、前回活動繰越金として 317,372円(内訳:ギエ284,872 円ギエ32,500円)があるほか、今回の活動中の前後に1名の個人(カンベさま)より活動資金として10,000円を頂戴致し、また預金利息19円の収入がありました。よって計327,391円(内訳:ボラ 294,891円 ギエ32,500円)が今次活動の前に計上されております。

これに対して今回の活動による支出の内訳は別紙決算報告書にある通りで、今回の活動終了時の残額は 260,637円(内訳:ボラ228,137円 ギエ32,500円)となっております。これらは今回の活動繰越金として計上し次回活動の資金として有効に使わせて頂きます。

  プロジェクトの訪問公演の支出につきましては節約を旨としております。交通費節約のため、できるだけ深夜割引の制度を利用して終夜運転をして早朝に現地に到着するなど工夫はしておりますが、体力や公演スケジュールによって、必ずしも深夜走行ができない場合もあります。宿泊につきましては、従来は住民ボランティアさま等のご厚意により無料、または安価での宿泊ができましたが、街が落ち着きを取り戻しつつある昨今では旅館などに宿泊する機会も増えてきました。この場合にも宿泊費はおおよそ5,000円まで、素泊まりを旨としており、食費については酒食の区別がつきにくいため、すべて自己負担としております。

【成果と感想・今後の展望】
プロジェクトとして第17次となる今回の支援活動では、はじめて仮設住宅で「能とピアノの夕べ」の活動を行い、それが初めてフルートを入れての上演であったこと、また東松島市の仮設への訪問活動そのものが約1年半ぶりであったこと、などがプロジェクトとして目新しい体験でありました。また初めての活動場所である陸前高田市での活動はJIN'S PROJECTさまのご厚意により実現できたこと、同市での活動は初めて主催がプロジェクトでなくJIN'S PROJECTのプロデュースによるものだったこと、「奇跡の一本松」での奉納上演が初めて動画として配信されたことなど、プロジェクトにとってまさに初めてづくしの活動だったと言えます。

一方、被災地の状況は、気仙沼鹿折に残されていた「震災遺構」である第十八共徳丸の撤去作業が開始されるなど、震災の記憶は確実に風化が進んでいる事を実感します。共徳丸の撤去によって鹿折地区に人が集まらなくなることが予想され、近くにある仮設商店街「鹿折復幸マルシェ」や、鹿折地区全体の復興への影響が懸念されてもおります。震災遺構の保存については被災各地で様々な議論が起きておりますが、結果的に次々と撤去されているのが実態で、人的被害があった建物の撤去は当然の感情とは言いながら、そのために震災の記憶の風化がまた進むであろうことを考えたとき、遺構の保存も必要なのではないか、と考えます。

さらに仮設住宅も仮設商店街も、段々と使用の期限が近づいてきているとのことです。震災から2年半を過ぎて被災地は大きな転換点を迎えつつあると言えるでしょう。我々能楽師の立場としては震災遺構の保存についても仮設住宅・仮設商店街からの次の段階への移行についても無力なのではありますが、常に住民さんと寄り添い、復興に向けて歩み行く姿を励まし続けてゆきたいと考えております。どうぞ今後とも変わらぬご支援、ご教示をお願い申し上げる次第です。




平成25年12月23日




                             「能楽の心と癒やしプロジェクト」

                               代表   八田 達弥

                             (住所)
                             (電話)
                                    E-mail: QYJ13065@nifty.com