ギンネムの樹。花は黄色。合歓の木(ネムノキ)にそっくりである。
マメ科の植物で成長が早い。帰化植物で,米軍と一緒に戦後沖縄に入ってきたらしい。
他の島は気付かなかったが本島全域に繁茂している。
昔は燃料に使ったらしい。
南国沖縄でも9月が近くなると、朝晩はの風はそれとなく涼やかになる。
最近は、散歩がてら、40~50分歩いて小さなスナック居酒屋によく通うようになった。
17時には歩き始める。陽は高いが、建物や木々が落としている影を選んでの歩きだ。店に着くころは少し汗ばんで冷房が心地良い。
その日は、漁師(海人=ウミンチュウ)を生業としている真っ黒に日焼けして頑強な体の男が店に顔を出した。屈強な体躯に似合わぬ端正な顔立ちで、無口で、頭が低い男に最初会った時から好感を覚えた。今夜で3度目だろう。
彼と出会ったのはひと月ほど前。
「差し入れ」と言って持ってきた貝が美味かった。アワビを焼いた感じの味と食感であるが、とにかく、日本酒に良く合う。
件の漁師殿の説明によると「タカセ貝」という。潜って獲るという。
身が固くて、刺身では食べられない、ほどよく煮込まないとやわらかくならないらしい。
他に客も居なかったので海の話になった。
「那覇港にサメが入ってくると以前、那覇港の岸壁で釣りを見ている老人から聞いたことがあるのですが本当ですか。那覇港でナイチヤーがもぐりをやっているのを見かけるがいつか事故になる、とも云ってました」
「いや、サメは那覇港にはよく入ってくるよ」
目からうろこ、つかえていたものが吹っ飛んだ。
「そうですか。誰も信用しないんですよ。那覇の人だってあいまいで,
ーそうかなあ、海につながっているからねー
くらいなことしか云わない」
「泊港に流れ込んでいる川の上流でサメが2匹泳いでいるのを見たことがありますよ。沖縄の人に話しても誰も一笑に付してしまう。イルカじゃないかと云うんだよねえ」
「いや、イルカじゃない、サメですよ。あの川は餌を追って上がってくる」
それから数日経った昨夕、件の居酒屋で馴染みの女性客と「タカセ貝」の話からサメの話になった。
「安里川から久茂地川と交差する泊港に流れ込む川があるんだが、川の名前は思い出せない。58号線の泊交差点から少し国際通り寄りに入ったところで夕暮れの川面に大きな背びれを出して、2匹のサメが泳いでいるのを見たんだ」
「いるらしいよ。新聞で見たことある」
実はこうである。
今から、7,8年前のことである。
その川辺の沖縄料理の居酒屋「木精夢者(キジムナー)」で、日の高い内から東京から来た友人と酒を飲んでいたときのこと。店員が、
「サメが上がってきてる」
と飛び込んできた。その店は外階段で2階にある。ふたりは店を飛び出し、階段を駆け下り、ガードレールに手をかけて川面を探す。
陽は落ちかかっていて、ビルの陰になっているため川面はすでにうす暗かった。
川幅は5mもない。満潮時なのだろう、いつもより水面が近かった。
「ほら、あそこ」
いつの間にか店員も店を飛び出していた。店員が指差す川上にめをやるとサメらしい背びれが見えた。
1匹は川上に、他の1匹は川下に向かって泳いでいた。
やがて、観ている我々の眼下を通り過ぎてゆく。
しばらくすると、また川下から引き返し、川上へ向かう。こんなことを何度か繰り返していた。川上には堰があって上れないらしい。
それからというもの、しばらくは酒の席になると自慢げにサメの話をした。
しかし、誰一人信用しなかった。
「イルカと間違えたんだろう」
と。数年、この事は忘れていた。
それほど小さい川である。決して河ではない。
人生も旅。旅は未知の世界を知ることである。
旅先で聞く話はもちろんのこと、己の知識や経験だけではないことに興味を持つことが大切だと痛切に感じるこの頃である。
これは自戒の言葉。
川の名前は安里川でOKです
ありがとうございました。