飲み屋の仁義

昨日は早い時間にお客様が重なったが

その後は待てど暮らせど誰も来ない状況だった


交代で店前でキャッチしてたら

どこもヒマな様で向かいの店のチーママも出て来た

あれこれと世間話をしていたら

少し離れた場所の小料理屋のママが

隣の居酒屋から出て来た

「あら、ママの所もう終わったの？」

「そうなのよ、ヒマだからお客さんと一緒に飲んでたの」

居酒屋でアフターしてた様だ

連れて来てくれたお客さん同士が途中で口論となり

ママを置いて先に帰ったらしい

「いつもこうなのよ、お酒が入るとダメね」

そう言って帰って行った


さっきまで世間話をしていたママが待ってましたとばかりに

「あのママって失礼なのよ～」と切り出した

両方の店に行ったり来たりしているＹさん

最近、再婚したらしいのだが

相変わらず飲み歩いていて

その日もベロベロになるまで

小料理屋のママのところで飲んでたそうだ

そろそろ看板なので起こしたら

ウチの向かいの店に行きたいと言い出した

「こんなに酔っててもう無理よ」と

タクシーを呼ぼうとしたが

既に外に出てしまったので追いかけた

兎に角まともに歩けないくらい泥酔している

後ろから車が来たら避けられないだろう

ママは小さな肩を貸してＹさんを店まで連れて行った


店の前まで来るとＹさんは安心したのか

身体の力が抜けてその場に崩れ落ちた

ママは何とか起こそうとするのだが

冷たいアスファルトに頬を寄せて気持ち良さそうに寝ているＹさん

どうやら外の騒ぎに気付いたらしく

中からチーママが出て来た

「あらＹちゃん、どうしちゃったのよ

　こんなに酔っ払っちゃって…」

スタッフのテルミさんも出て来た

「こんな所で寝てたら危ないわよ～」

幸いにもこの店には座敷があるので

酔いが醒めるまで横になって居られるのだ

しかも、かなり遅くまで営業しているので

Ｙさんが行きたくなった理由もわかる

ところがチーママとテルミさんは

「あのママったら、ベロベロのＹちゃんを置いて

　さっさと帰っちゃったのよ～」

自分の店でさんざ飲ませておいて手が付けられなくなったから

他所の店に押し付けたと思っているのだ

元々あまり仲が良い店ではないので

余計に腹が立っているようだ

小料理屋のママにしてみれば

“タクシーに乗せて帰すつもりが

　千鳥足のまま外に出てしまったので

　危ないから付き添って来てあげた”くらいにしか

思っていないのだろう

決して押し付けようなんて気持ちはなかったと思うのだが

結果的にはそうなってしまったのだから

「こないだはどうだった？」とか

「ゴメンネ～」の一言があればまた違ったのだろう


お店同士の付き合いって

こんな暇な時期は些細な事でも波風が立つ

「ウチは一匹狼だから何処ともお付き合いしないわ」なんて

強がっているママさんも居るが

小さい裏町の飲み屋街でも

仁義って物を忘れたら生きては行けない

私たちオカマの方がそう言うのにはとても敏感なのかも…