長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

2019年ベスト10

2020-01-17 | ベスト10
【MOVIE】
監督 ポン・ジュノ



2、『アイリッシュマン』
監督 マーティン・スコセッシ



監督 トッド・フィリップス



監督 ジョーダン・ピール



監督 クエンティン・タランティーノ



監督 ノア・バームバック



監督 片渕須直



監督 ヴィンス・ギリガン



監督 新海誠



監督 ジョー&アンソニー・ルッソ



【TV SHOW】
監督 ヨハン・レンク



2、『マインドハンター』シーズン2
監督 デヴィッド・フィンチャー、他



3、『フリーバッグ』シーズン2
監督 ハリー・ブラッドビア



監督 エヴァ・デュヴァネイ



5、『キリング・イヴ』シーズン1~2
監督 ハリー・ブラッドビア、他



6、『ザ・クラウン』シーズン3
監督 ベンジャミン・キャロン、他



7、『マーベラス・ミセス・メイゼル』シーズン3
監督 エイミー・シャーマン&ダニエル・パラディーノ、他



8、『アトランタ』シーズン2
監督 ヒロ・ムライ、他



9、『セックス・エデュケーション』
監督 ベン・テイラー、他



監督 ミゲル・サポチニク


例年“多くの作品が世界同時で見る事のできる時代に、昨年の作品の順位に頭を悩ませるのは無意味”という思いから当年ワールドリリースを条件に年間ベストを選出してきた。とはいえ、日本劇場公開には限りがあり、ややムリのあるランキングを作ってきてしまったのも否めない。
翻って今年はNetflixはじめ配信映画が充実し、現時点での全米賞レースと大差ない充実ぶりである。豊作だった。2019年以前公開作品についてのランキングは上半期ベストテンを参照してもらいたい。ここに下半期からは『ワイルドライフ』『さらば愛しきアウトロー』『ゴールデン・リバー』『フリーソロ』を加えておく。また『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』が失敗に終わった事でMCU、『ゲーム・オブ・スローンズ』が完結した今年の大河シリーズものについての論考に重ねる言葉はなくなった。それらも合わせ上半期ベストテンの頁を読んで頂きたい。
以下、いくつかのトピックスに分けて2019年を振り返っていこう。


【格差社会問題、内省、フェイクとの戦い】
映画やTVドラマは近代を描き、内省する事で現代(いま)を映し出そうとしてきた。ここ数年、多くの作家達は世界中で起きる分断やレイシズムの風を感じ取り、それは今年、格差社会問題というテーマに結実する。世界同時多発的に同一テーマの作品が登場し、そのいずれも大ヒットを記録しているのが特徴的だ。

『ジョーカー』は社会の底辺へと追いやられた主人公が立ち上がり、それを無数の個人が集団的総意として支持して復讐に至る。映画は世界中で爆発的なヒットを記録した。
『アス』では地下世界で息を潜めて生きてきたドッペルゲンガー達が80年代に行われた慈善イベント“ハンズ・アクロス・アメリカ”を模して地上世界を乗っ取ろうとする。セネガルを舞台にするカンヌ映画祭グランプリ作『アトランティックス』では土着の幽霊譚と格差問題が交錯。出稼ぎ先で死んだ男達は遺した女達に憑りつき、未払いの賃金を取り立てようとする。そして韓国映画『パラサイト』では半地下住宅に住む失業一家が山の手の豪邸に住む富裕層一家に取り入り、そして…。
これら“底辺”からの視点に対し唯一、雲の上とも言える巨大企業創業一家を映したのがHBOのドラマ『サクセッション』であった。詳述はシーズン2終了後に改めて。

『ジョーカー』『アス』同様、1980年代から現在を射抜いたのはリミテッドドラマの『チェルノブイリ』だ。1986年のチェルノブイリ原発事故を描く本作は事件の詳細はもとより、原因となった国家的隠ぺい“フェイク”こそを糾弾し、ソ連崩壊の要因である事を示唆する。この改竄主義との戦いはソダーバーグが『ザ・ランドロマット』でパナマ文書問題をトリッキーな手法で暴き、その脚本を手掛けたスコット・Z・バーンズは監督作『ザ・レポート』でイラク戦争下のCIAによる隠ぺいを暴いた。このジャーナリスティックな突進力が情緒的な『新聞記者』には足りておらず、アダム・ドライヴァーの「書類は法を守るためにあるんだ」というセリフは日本の僕らにこそ深く刺さる。そしてフェイクはミステリオというヴィランとなってスパイダーマンにも立ちはだかった(『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』)。

『マインドハンター』シーズン2では後半、政治的駆け引きと人種差別によって殺人鬼が野放しとなったアトランタ連続児童誘拐殺人事件が後半の主要ストーリーとなり、犯罪史からアメリカを俯瞰しようとするドラマの構造が明らかとなる(残念なことに製作デヴィッド・フィンチャーの多忙によりシーズン3の製作が無期限延期となる事が発表された)。
1989年の“セントラルパーク5”事件を題材とした『ボクらを見る目』では少年達に着せられた冤罪事件を追う過程で、当時から行われていたドナルド・トランプの人種差別を糾弾した。
『ザ・クラウン』シーズン3はイギリスの国威が衰退の一途を辿る60年代を描く事によって王室や政治の意味を問い直し、ブレグジットで混乱する現在のイギリスを再考している。

そんな中、前ローマ教皇ベネディクト16世と現教皇フランシスコの語り合いを描いたフィクション『2人のローマ教皇』における贖罪と新旧価値観の融和の清々しさが気持ち良く心に残った。


【新たな10年で描かれる物語とは】
『アベンジャーズ エンドゲーム』の監督ルッソ兄弟は全宇宙の人口を半減する悪役サノスを「環境問題のメタファー」として描いたという。スウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリによって世界的ムーブメントとなった環境問題への危機意識はこれからの10年間、避けては通れないテーマだろう。これに早くもアニメ作品が取り組んでいた事が印象的だった。
オリンピック後、チェーン店と“バニラ”と絶望が蔓延し、ついに東京が水没する『天気の子』は、“わたしとあなた”しか存在しない新海誠の作風が前述の『ジョーカー』らと呼応する点でも2019年の映画だった。

大ヒット作の続編『アナと雪の女王2』ではヒロイン達の先祖が先住民族を騙してダムを作り、それが原因で自然が崩壊していく。ヴィランを設定せず、主人公たちが自然バランスを取り戻す物語とした作劇はこれまでのディズニーメソッドから脱却した意欲的なものだった。このチャレンジは過去3作の遺産を捨て去る『トイ・ストーリー4』にも共通しており、セクハラ問題によって社のトップ、ジョン・ラセターを事実上放逐したディズニーの意思表示とも見て取れる。

アニメ的な可愛らしいデザインながら意思疎通が困難な存在(自然)としてドラゴンを描いてきた『ヒックとドラゴン』シリーズも今年、3部作を完結した。美しい飛翔シーンや迫力あるドラゴンのアクションなど、同時期にスタートした『ゲーム・オブ・スローンズ』を彷彿とさせる絵も多く、この2作によって当面のドラゴン描写はやり尽くされたような感があった。


【ベストアクト】

『マリッジ・ストーリー』は全てにおいて成熟しており、スカーレット・ヨハンソン、そしてアダム・ドライヴァーの演技は昨年のアメリカ映画における最高のそれである。ドライヴァーは批評家から酷評された『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』でも奮闘し、失敗作すら味方に付ける絶好調ぶり。たぶん、オスカーも獲るだろう。10年代終盤は彼の時代だった。



近年、演技派俳優として他の追随を許さないオルタナティブな存在となったホアキン・フェニックスは『ジョーカー』でさらなる高みに到達した。ひしゃげた痩身、泣いているような笑い声…ヒース・レジャー版とは異なるアプローチには目が離せなかった。



ブラッド・ピットも2019年は当たり年だった。守護神のように映画に存在する『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の彼はキャリア史上、最高に格好良かった。一方、製作も務めたSF大作『アド・アストラ』では厭世的な宇宙パイロットを演じた。今年は彼や『アイリッシュマン』のロバート・デニーロが“男らしさ”を解体したのも印象的だった。



女優では何と言ってもレクター博士以来のサイコパス殺人鬼キャラを作り上げた『キリング・イヴ』のジョディ・カマーに尽きる。怖ろしくも可愛らしく、殺せば殺すほど胸がすくというカリスマ性である。今後、映画界でも活躍していく事だろう。



そして2019年はその『キリング・イヴ』はじめ『フリーバッグ』で脚本・製作・主演を務め、エミー賞を独占したフィービー・ウォーラー・ブリッジの年だった。あけっぴろげなユーモアとキレのいいストーリーテリングで新たな女性像を描いてみせた。2020年は007新作でリライトを担当するなど、今後の動きから目が離せない。



最後にゾーイ・クラヴィッツの名前を挙げておこう。大絶賛されたドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』の続編は失敗に終わったが、その唯一の見所がメリル・ストリープと彼女だった。良心の呵責に耐えられず、神経衰弱に陥っていく彼女は演技者として新たなステージに立った。

【おまけ~2010年代ベスト10】
『ソーシャルネットワーク』 
『ゼロ・ダーク・サーティ』
『マッドマックス怒りのデス・ロード』 
『ホーリー・モーターズ』

順不同。マイフェイバリットである事はもちろんだが、僕なりに映画史における重要性も加味しているつもりである(まぁ、明日の気分で入換えそうだけど)。

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