
今年のカンヌ映画祭で次点となるグランプリを受賞したマティ・ディオップ監督作。現地メディアによる星取表では振るわなかったものの、受賞の背景には最高賞パルムドール受賞作『パラサイト』と並ぶ現代性が由縁しているのではないだろうか。
舞台はセネガルの首都ダカール。主人公エイダは親の決めた結婚が近付く中、その心は貧しい労働者の青年スレイマンにあった。賃金の未払いに苦しむスレイマンは仲間たちと共にスペインへ出稼ぎすべく密航する。別れもままならなかったエイダの元にやがてスレイマンの死の報せが届く。
映画は悲恋の物語を紡ぎながら、中盤からガラリと転調して驚かされる。遺された女達は夜な夜な夢遊病者のように歩き、工事会社社長の家へと押し入って死んだ男達の未払い賃金を求めるのだ。
海沿いにあばら家が立ち並び、町中に埃が舞うダカールにもドバイのような高層タワーが建設され、好況にある事が伺い知れる。一方で給与の未払いが何か月も続き、自分の意思で結婚することもままならない。そして搾取する富裕層は目を見張るような豪邸に住んでいる。
2019年はこの“格差”というテーマを扱った作品が同時多発的に誕生した。ケン・ローチ監督『家族を想うとき』、ジョーダン・ピール監督『アス』、トッド・フィリップス監督『ジョーカー』、そしてポン・ジュノ監督『パラサイト』と本作である。死に別れた恋人が幽霊となって戻って来る、という土着の幽霊譚と社会問題が融和するマジックリアリズムはダカールの景色も相まって観る者に新しい体験をもたらす事だろう。
なお本作も配信限定のNetflix映画である。この世とあの世を結び付ける波音が終始響く本作は音響環境にも気を配りたい所だ。
『アトランティックス』19・仏
監督 マティ・ディオップ
出演 ママ・ヒネタ・サネ、アマドウ・エムボム、イブラヒマ・トラオレ
パラサイトは大分ハマったので、この映画も楽しめそうです。同じ”格差”をテーマにした作品ということで、興味深いですねぇ。
しかも、ネットフリックス映画というのが驚きです。ネットフリックス恐るべし....
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