長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ゴールデン・リバー』

2019-08-14 | 映画レビュー(こ)

作品同様にパンチのある外見をした監督といえば現代フレンチノワールの巨匠ジャック・オーディアールもその1人だろう。スキンヘッドに片時も離さないサングラス…完全に“その筋の人”だ。作る映画も“動詞”だけで積み上げる実に端正なものである。

そんなオーディアールの初の英語映画となる本作はいつもと調子が違う。西部劇、主演はホアキン・フェニックス、ジョン・C・ライリー、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドとハリウッドで活躍する演技派揃い。台詞も多く、そして笑えるのである。オーディアールに期待していた作風かと聞かれればやや答えに窮するが、これは新境地と言っていいだろう。

舞台はゴールドラッシュ時代のアメリカ西部。悪名を馳せる殺し屋シスターズ兄弟は提督の命令である化学者の行方を追っていた。先発する提督の部下モリスとは連絡がつかない。どうやら寝返ったようだ。化学者はある秘密の化学式を解明しており、西部中がそれを狙っていた。

すぐ酒に酔い、辺り構わず銃をぶっ放す弟チャーリー役はホアキン・フェニックスにとってなんら造作のない役柄だろう。ほとんどサイコパスである彼を制する事ができるのは兄イーライだけだ。毎日のようにブサイクとバカにされながら、襲い来る刺客を次々と返り討ちにする。彼も十分な人殺しだが、口臭を気にしては当時まだ目新しかった歯磨きに勤しみ、忘れられぬ女から貰ったショールを枕にして眠るような男であり、演じるジョン・C・ライリーのユーモラスな演技のおかげで笑わずにはいられない。ホアキンに食われる所か、むしろホアキンの方がうっかり『俺たちシリーズ』に出てしまったような雰囲気すら漂う。これはかつてオスカー受賞式でコメディアン達から「オスカーはお笑い芸人に厳しいのに、何でお前はノミネートされるんだ」と茶化されてきたライリーの集大成的な役柄だろう。

ジャック・オーディアールはなぜこの稀有な性格俳優を主演に据え、初の英語映画に挑戦したのだろうか?その理由はラストシーンの「兄へ」という献辞で明らかになる。本作は26歳で事故死した監督志望の兄フランソワに捧げられているのだ。いかなる時も命懸けで弟を守る兄イーライの姿にオーディアールはフランソワの姿を見出し、ライリーに託したのだろう。これまでの作品と大きく異なるのはそんなパーソナルな想いが込められているからなのだ。オーデイアールのサングラスの奥に何かが見えたような気がする1本である。


『ゴールデン・リバー』18・米、仏、スペイン、ルーマニア、ベルギー
監督 ジャック・オーディアール
出演 ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド
 

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