長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

2019年上半期ベストテン

2019-07-06 | ベスト10

【MOVIE】

『アベンジャーズ エンドゲーム』

監督 アンソニー&ジョー・ルッソ


『足跡はかき消して』

監督 デブラ・グラニク


『魂のゆくえ』

監督 ポール・シュレイダー


『サスペリア』(2018)

監督 ルカ・グァダニーノ


『COLD WAR あの歌、2つの心』

監督 パヴェウ・パブリコフスキ


『ブラック・クランズマン』

監督 スパイク・リー


『幸福なラザロ』

監督 アリーチェ・ロルヴァケル


『運び屋』

監督 クリント・イーストウッド


『ファースト・マン』

監督 デミアン・チャゼル


10『ミスター・ガラス』

監督 M・ナイト・シャマラン


『パーフェクション』

監督 リチャード・シェパード



【TV SHOW】

『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン8

監督 ミゲル・サポチニク、他


『ボクらを見る目』

監督 エヴァ・デュヴァネイ


『フリーバッグ』シーズン2

製作 フィービー・ウォーラー・ブリッジ、他


『キリング・イヴ』

製作 フィービー・ウォーラー・ブリッジ、他


『パトリック・メルローズ』

監督 エドワード・バーガー


『The OA』シーズン2

監督 ザル・バトマングリ、アンドリュー・ヘイ


『アフター・ライフ』

監督 リッキー・ジャーヴェイス


『ホームカミング』

監督 サム・イスマイル


『ロシアン・ドール』

製作 エイミー・ポーラー、他


10『レギオン』シーズン2

製作 ノア・ホーリー、他


【物語の勝利】

上半期最大のトピックスは映画でMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)が、TVで『ゲーム・オブ・スローンズ』がクライマックスを迎えた事だろう。前者は10年、後者は9年に渡って前代未聞のムーブメントを巻き起こしてきた超大作である。その最終章は共に大ヒットを記録し、今年のエンターテイメントシーンを席捲した。ヒットの要因については様々な分析があるだろうが、評論家宇野維正氏によるエイミー・パスカル(『スパイダーマン』シリーズのプロデューサー)へのインタビューにこのムーブメントの全てが象徴されているように感じた。パスカルは「元来、人々はサーガを、終わらない物語を、人生に寄り添い続ける物語を求めている」と言う。


それは数十年にも渡って読み継がれてきたアメコミそのものであり、『ゲーム・オブ・スローンズ』における三つ目の烏ブランの存在そのものである(そして人間が寄り添う物語を脅かすのが夜王なのだ)。これは僕の中で『ゲーム・オブ・スローンズ』を補完する言葉にもなった。

時代を追う毎に技術は発展し、奇抜さや斬新さが注目される世の中だが、根源的な「物語」という存在が改めて多くの人の心を打った事がとても嬉しく、美しいと思う。そしてこの物語を完遂するという並々ならぬ才能を持つ人々が結集した事に両シリーズの偉業はあるのだ(そういう意味では己の物語を信じて19年越しに完結させたシャマラン執念の1本『ミスター・ガラス』にはただただ敬服である)。


【人間の深淵に迫る作家たち】

混迷する時代に対し、作家達がより人間の内面を深く掘り下げようと挑む姿が印象的だった。

『ファースト・マン』『ビール・ストリートの恋人たち』が極限まで人間にカメラを肉薄させ、『COLD WAR』『魂のゆくえ』『ホームカミング』が禁欲的な1:1の画面の中で呼吸した。『荒野にて』『足跡はかき消して』『ベン・イズ・バック』の孤独な行程は辺境から、『バイス』はディック・チェイニーという複雑な人間性からアメリカそのものを映し出した。『ロシアン・ドール』はトリッキーなSF設定から人間ドラマへと着地し、スケールアップするMCUに対して『レギオン』はどんどん内面へと深く潜り込んでいった。『パトリック・メルローズ』のカンバーバッチ、『アフターライフ』のリッキー・ジャーヴェイスは忘れ難い名演である。

社会の分断に抗う『ブラック・クランズマン』、『ボクらを見る目』の新旧社会派ブラックムービーの旗手の強さ、イタリアから『幸福なラザロ』のマジックリアリズム、そして名作ホラーをまさかの換骨奪胎させた『サスペリア』ら作家監督の諸作は強烈だった。

ベストテンには入れ損ねたが『女王陛下のお気に入り』『スパイダーマン:スパイダーバース』も楽しんだ。旧作では『胸騒ぎのシチリア』『レイチェル』『フランク&ローラ』『勝手にふるえてろ』を好きになった事を記しておきたい(女優で映画を見る性質です)。

 

【MOVIEとTVSHOW、横断する才能】

今回、映画とTVドラマをまとめて総括する理由が例年にも増してこれらを横断する才能の活躍が印象的だったからだ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』をやり遂げた監督ルッソ兄弟もTVドラマ出身。『ゲーム・オブ・スローンズ』ショーランナーのデヴィッド・ベニオフ、D・D・ワイスの新作はなんと『スター・ウォーズ』3部作である。X-MENスピンオフ『レギオン』でMCUに出来ない独自路線をひた走るノア・ホーリーも今年は満を持して『lucy in the sky』で劇場監督デビューする。ベネディクト・カンバーバッチ、ジュリア・ロバーツはTVドラマで自身のベストアクトを更新した。アンドリュー・ヘイ監督は『荒野にて』とまさかの『The OA』との合わせ技でロードムービーの名匠となった感がある。そして時代はフィービー・ウォーラー・ブリッジである。脚本、俳優、製作を務めるこの才媛はサスペンス『キリング・イヴ』、コメディ『フリーバッグ』で独自の作家性を発揮し、007最新作ではダニエル・クレイグ直々の指名で脚本のリライトを行う事になった。ますます映画だけ見ていては何も語れない時代である。


また詳細なレビューは後日アップしたいが、『ボクらを見る目』には圧倒された。エヴァ・デュヴァネイ監督の並々ならぬパワーに満ちた演出もさる事ながら、Netflixというグローバルプラットフォームを使い、配信直後に論争を巻き起こす様は社会派監督の新たなスタイルと言える。デュヴァネイは劇映画『グローリー』で注目された後、ハリウッドの娯楽作も手掛けながらNetflixで本作やドキュメンタリー『13th-憲法修正第13条-』を発表。作品の性格に合わせてNetflixを使いこなす新時代監督である。


ほとんど2019年のクライマックスのような上半期だった。残り6か月の充実はどれだけタイムラグなく日本でも新作が見られるかにかかっているだろう(今のところ『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』にはフォースを感じない)。さて、どうなる。


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