
ショーン・ベイカーが勇猛果敢なフィルムメイカーであることは今更、言うまでもないが、それにしたって2021年の『レッド・ロケット』は肝が座っている。テキサスの田舎町、長距離バスから1人の男が降り立つ。彼の名はマイキー・セイバー。知る人ぞ知る、いや男なら1度は顔とアレを見ている人気ポルノ男優だ。彼はズンズン歩いていくと、1軒の家に押し入る。疎遠の実家か、昔の女か。顔を出したのは離婚すらしていない“元嫁”にして、幾つものヒット作を共に送り出したポルノ女優レクシーだ。
ベイカーはマイキー役に本物のポルノ男優サイモン・レックスを起用し、呆れるほど痛快なキャラクターを作り上げた。マイキーは口八丁に手八丁でレクシー家に居座ると、今度は生活費を稼ぐため何とドラッグディーラーへ転身。昔取った杵柄と言うが、そんな程度で務まるのか?もちろん。男も女もユルくしてしまう魔性のチャームであっという間に地域有数の売人に成り上がる。そんなある日、地元のドーナツ屋でバイトする赤毛の美少女、通称ストロベリーに一目惚れ。現役女子高生だろうが関係ない。マイキーの股間と第六感が告げていた。この娘は絶対ポルノスターになる!
正気か?映画に“正しさ”を求める手合は『レッド・ロケット』に眉をひそめるかも知れないが、だったらディズニー映画でも見ていればいい。ベイカーは度重なる自転車移動でほとんどデタラメと言ってもいいマイキーの無尽蔵のバイタリティ(&下半身の強さ)を表現。映画館で働いていたというテキサスのロリータ、スザンナ・サンの才能に惚れ込んだ衝動も画面からひしひしと伝わってくる。いくらでもマイキーの不道徳さを叩けようものだが、ベイカーは性産業に従事した者がその後のセカンドキャリアもままならない現実から目を背けてはいない。マイキーは「好きなことをやって生きて何が悪い!」と言う。セックスワーカーを描き続けるベイカーが彼らを憐れみの対象とすることなく、さらなるリスペクトを捧げた『アノーラ』でオスカーを制するのはこの3年後のこと。2016年大統領選で「あいつら検閲している!」と吠えるトランプの姿が度々、挿入される理由は言わずもがなだろう。映画は不謹慎なな人物の不道徳な狼藉を見るのもまた楽しみの1つではないか。クライマックスはお得意のオープンエンドで、マイキー・セイバーにストロベリーを夢想させ続ける。おーい、やってるか!
『レッド・ロケット』21・米
監督 ショーン・ベイカー
出演 サイモン・レックス、ブリー・エルロッド、スザンナ・サン
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