感動のフィナーレを迎えた前作から9年、人気シリーズの最新作には製作段階から懐疑的な声も上がっていたが、安心して欲しい。ピクサーは決して無意味な物語を作ったりしない。看板商品とも言える本シリーズにはピクサースタッフ達の人生そのものが反映されているからだ。
前作『トイ・ストーリー3』ではオモチャの持ち主であるアンディが大人になった事でウッディ達が存在意義を失い、葛藤の末、彼を送り出す事にする。それは親元から子が巣立つ事であり、今やアメリカの父を体現する俳優となったトム・ハンクスが声を当てる事でウッディがアンディの父親を意味する事に気づいた人も多かったハズだ(劇中、アンディの実の父親は一切登場しない)。近所に住む幼い子供ボニーのもとへ譲られたウッディ達はそこで新たな“子育て”人生をスタートさせ、映画は完結した。
それでいいのだろうか?
『トイ・ストーリー4』はそんな疑問から始まる。ボニーは使い捨ての先割れスプーンで作ったおもちゃフォーキーを何よりも気に入り、今やウッディは押入れから出してすらもらえない。子供に遊ばれなくなれば、おもちゃの人生は終わったも同然だ。
いや、子供と遊ぶ事だけが人生だろうか?ウッディは9年前に子供部屋から運び出された陶器人形のボー・ピープと再会する。彼女はアンティークショップでいつ来るとも知れない買い手を待つ事をやめ、外の世界で自由気ままな冒険生活を送っていた。彼女はウッディにも新たな世界へ飛び出す事を促すが、ウッディは自分のアイデンティティを変える事ができない。『シュガー・ラッシュ/オンライン』に続き、ここでも進歩的な女性と保守的な男性の対比がされて頭の痛い思いだが、やや打算的だった『シュガー・ラッシュ~』に対してピクサーは踏み込み、なんとウッディに第2の人生を歩ませるのである。シリーズの前提条件はおろか、人気キャラクター達にすら別れを告げる結末に驚かされた。
これがピクサー製作陣の率直な実感なのだろう。『トイ・ストーリー』で世界に羽ばたいた彼らも子を持つ親となり、月日は流れ、その子供達も巣立っていった。作風の変遷から彼らが常に実体験や人生を反映させてきた事は明らかだ。これから何をして生きていけば良いのだろう?本作におけるウッディの悩みはミドルエイジクライシスそのものである。
そして本作はピクサーの生みの親ジョン・ラセターの離脱後、初めての作品でもある。ラセターは女性社員からのセクハラ告発を受けてピクサーから放逐された。ここには旧きを捨て、新たな道へと歩み出すピクサーそのものの葛藤も反映されているのだ。製作、脚本には『ファインディング・ニモ』『ウォーリー』はじめ、近年では『ストレンジャー・シングス』や『ベター・コール・ソウル』など人気ドラマでもゲスト監督を務めるアンドリュー・スタントンの名前がある。今後、ますますピクサーの中核を担っていくだろう。
中盤、人間の目を盗んでの脱出劇はこれまでのシリーズで何度も繰り返されてきたプロットだけに食傷感も漂うが、まさかの吹き替え仕事で久々にコメディセンスを発揮したキアヌ・リーヴスに免じて目をつぶろう。あぁ、なんてチャーミングなの!!
『トイ・ストーリー4』19・米
監督 ジョシュ・クーリー
出演 トム・ハンクス、ティム・アレン、アニー・ポッツ、トニー・ヘイル、クリスティーナ・ヘンドリックス、キーガン・マイケル・キー、ジョーダン・ピール、キアヌ・リーヴス、ジョーン・キューザック
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