長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『父を探して』

2017-01-19 | 映画レビュー(ち)

アカデミー長編アニメ賞ノミネート作。
CG全盛の時代に逆行するかのような手書きのクレヨンタッチ、祝祭的なサウンドトラック、そして全編セリフなしという独自の手法が魅力の映画だ。しかしその開放的なタッチとは対極の痛切なノスタルジアこそが、この映画を忘れられないものとしている。

物語は郊外の、集落とも呼べないような土地から始まる。
少年と母、父の3人暮らし。
世界は色と音にあふれ、この幸せが一生続くかのような少年時代。
ある日、父が家を出て行ってしまう。
母は何も語らない。少年にはわからない理由があるのかもしれないが、知る由はない。
少年は父を追って家を出る。

少年は農場に行き着く。
木から何かを刈り取る集団農業。そこでくたびれた老人と出会う。
長年続いてきた手法にも機械化の波が押し寄せ、効率が重視され、瞬く間に木々は伐採されていく。

少年は都市に辿り着く。
物と人にあふれた世界で自由を謳歌する青年と知り合う。
だが都市にはファシズムの波が押し寄せ、自由を象徴する極楽鳥は戦車に撃ち落される。

いつしか少年は青年となり、老人となっていた。
一体いつの間に世界は音と色を失ってしまったのだろうか。
ふうっ、と力なく老人の口から息が洩れる。

これはブラジルの年代記なのだろうか?
いや、これはかつて少年であり、青年であり、老人となった僕らの悔恨の記憶なのかもしれない。
いや、もしかしたら幸せな少年時代の午睡に見た不思議な夢かも知れない。
いずれにせよ、僕らはこの映画を見る度にあの頃、無限の可能性が拡がっていた事を思い出すのだ。
 

『父を探して』13・ブラジル
監督 アレ・アブレウ
 

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