長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『2人のローマ教皇』

2020-01-15 | 映画レビュー(ふ)

 先頃、来日したローマ教皇フランシスコ。彼が教皇になる前、前教皇ベネディクト16世との間で行われた対話を描く…と書けば堅苦しいが、映画は思いのほか軽やかで、そして笑える。

 フランシスコ教皇(本名ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ)はアルゼンチン出身、草の根で布教活動を続けてきた庶民派だ。三度の飯よりもサッカーを愛している“サッカー狂”で、ジョークも大好き。なんとも親しみやすい人柄である。
 方やベネディクト教皇は神学一筋の宗教家であり、ピアノを楽しむインテリ肌。ビートルズも知らないカタブツだ。そんな水と油の2人が唯一の共通点“キリスト教”を縁(よすが)に対話を重ね、互いを知り、罪を赦して教皇というバトンをリレーしていくバディムービーになっている。近年、『ウエストワールド』で変わらぬ怖さを見せつけたアンソニー・ホプキンスがベネディクト16世を、やはりTVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で知的な狂気を演じたジョナサン・プライスがフランシスコに扮し、ゆったりとだが見応えのある名演のラリーを繰り広げる。当人そっくりなルックスばかりに気を取られないように。2人とも近年にない優しさだ。

 この対話劇が2013年の教皇交代劇につながった…と映画は描いているが、これはフィクションである。2人の対話は新旧宗教思想の邂逅と革新への道程のメタファーだ。フランシスコ教皇は就任後、カトリック教会による児童虐待を糾弾し、トランプ政権の移民政策に対して「必要なのは壁ではなく橋だ」と前例のない政治的メッセージを発してこれまでのローマ教皇像を一新した。

実録モノの名手ピーター・モーガンかと見紛う大胆な筆致の脚本を手掛けたのは『博士と彼女のセオリー』『ウィンストン・チャーチル』『ボヘミアン・ラプソディ』を手掛けたアンソニー・マクカーテン。主演2人と共に今年のアカデミー賞候補となった。監督は『シティ・オブ・ゴッド』『ナイロビの蜂』のフェルナンド・メイレレス。長らく低迷が続いたが、分断と格差の時代に対抗すべく力強く、それでいて軽やかで優しい本作で復活してくれたのが嬉しい。

権威にいながら反権威的であり、エネルギッシュで行動的、平和を愛するフランシスコ教皇はほとんどロックスターのような格好良さだ。来日前にこの映画を見たかった。僕も東京ドームミサ、行ってみたかったなぁ!


『2人のローマ教皇』19・英、伊、米、アルゼンチン
監督 フェルナンド・メイレレス
出演 ジョナサン・プライス、アンソニー・ホプキンス

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