壁際椿事の「あるくみるきく」

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『松本清張初文庫化作品集(3)途上』読後記

2013年01月16日 | よむ

「与名次郎の毒舌が用捨もなく耳底からがんがん鳴ってくる。」(「信号」p212より)。用捨ってのは、容赦なくではないか。調べました。

ようしゃ【用捨】何を用い何を用いないか(に気を付けること)

なるほど、用捨という語があるんですね。初めて知りました。でも、この文脈では容赦が正しいでしょう。用捨は誤字だと思います。

『松本清張初文庫化作品集(3)途上』に所収の「信号」です。同音異義語だから、原典から活字を拾う際の変換ミスでしょうね。

同書より。「人間の風貌はそれじたいが哲学であるから、文学する者が外見に拘泥するのは反自然主義であり、堕落である」。

いつも小汚い身なりをしている自分を肯定してくれるようで、勇気が出てきます。人間は本を読んでも、自分に関心のあるところしか拾わない、と言います。分かります。

同書所収の「夏島」は、伊藤博文の遠謀深慮を描きます。プロシア風の大日本帝国憲法の発布に際し、いきなり公表すると、自由民権派から「強権的」との非難が予想された。そこで、憲法の内容が事前に漏れたとする『西哲夢物語』という奇書を密かに流布した。あえて、少しリークし、世間を慣れさせ、しかる後、正式発表し、軟着陸させていく、という狙いです。

「(明治)二十二年二月十一日の紀元節に帝国憲法が出されたとき、中江兆民は、ふふん、こんなものか、とただ冷笑しただけと伝えられる。国民も、藩閥政府打倒の自由民権運動家も、なんら積極的な抵抗は示さなかった。」

現在の政治でも同様の手法は見られます。記者クラブ制度など、まさに、このための制度じゃないでしょうか。明治の時代から、知恵者はこういうことを考えていたんですね。脱帽です。

この初文庫化作品集、(1)(2)がミステリー篇なら、(3)はドラマ編です。面白いです。ご興味のある方は、ぜひ。






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