壁際椿事の「あるくみるきく」

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『オレたちバブル入行組』(池井戸潤著)読後記

2012年12月19日 | よむ

『オレたちバブル入行組』(池井戸潤著)を読みました。都市銀行を舞台にした、出世競争もの。池井戸さんは『下町ロケット』で直木賞を受賞した、評判の書き手です。

同じ銀行内で、足の引っ張り合いがあります。野球チームでもレギュラーを目指して、仲間の競争があります。ぼくは、そういうのは好きでないのですが、残念ながら、世の中そういうもんなのかもしれません。池井戸さんは元三菱銀行員です。本部による支店の臨検とか、国税の動きとか、粉飾決算とか、資産隠しとか、差し押さえとか、実にリアルでした。

ただ、主人公、半沢に敵対する、大阪西支店の支店長、浅野の不正など、やや誇張があったと感じます。半沢(善)vs浅野(悪)という構図にする意図でしょうし、そのほうが物語として分かりやすいですが、本当にそんなヤツいるの?居たとしたら銀行って何?と思う。銀行とはほとんど縁のない自分の目には、本当に銀行って何?と映りました。

最後、半沢は、不正をした浅野を告発し、法的手続きで処分という、正攻法を選びません。浅野の弱みを出汁にして、いわば彼を脅迫することで、重要ポストに就く。毒を以て毒を制す、ということでしょうか。その辺は、単に正義の味方の半沢でなく、複雑なキャラクター造形ではあります。

物語の後半、メールの発信者として、半沢の妻、花が出てきます。また、バブル期の同期入行で、かつ慶応の同窓の仲間もチラチラ出てきます。が、彼らの描き方がやや不足していたきらいがある。『オレたち』というのだから、同窓生もストーリーにもっと関与させればよかったのに、と感じました(そうすると筋が複雑になりすぎるのかな)。

いずれにせよ、よくできたエンタメです。一気に読めました。銀行の構造や行内の空気、金融の実務、組織のドロドロといったことに興味のある方は、ぜひ。