俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ファルコとの出会い」その26

2010年02月18日 13時43分49秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「……峡谷の岩壁からの砲火をかいくぐると、どこに隠れていたのか、周囲の岩陰から戦闘機がハチの群れのように舞い上がった。必死で……無我夢中で逃げた。ようやくベノムの引力圏を抜けても、恐怖はまだ去らなかった」
「圧縮タンクに穴が開いて、推進剤が漏れ出していたんだ。集中砲火を浴びたときに破損したのか、ピグマが細工しておいたのかはわからない。どちらにしても、コーネリア軍の駐留する宙域まで飛べないのは確かだった。やむなく、パペトゥーンに不時着をこころみた。だが気が気でなかった」
「ベノムへの潜入時には、地表をおおう酸の雲の、濃度が低いところを慎重に選んで突入した。しかし逃げ出すときにはそんな余裕はなかった。厚い酸の雲を通り抜けるあいだに機体が腐食していて、大気圏突入の衝撃に耐えられずに空中分解したら……。そう考えると頭がおかしくなりそうだった。ジェームズが……燃えるほのおの中からジェームズが呼んでいるような気さえしてきた」
「ワシが信じていた自分は……勇敢で、恐れを知らないパイロットのペッピーは、もうどこにも居なかった。どんなことをしても助かりたい、生きたい、死にたくない……それしか考えられないちっぽけな星屑が、果てしのない黒い宇宙に浮かんでいるだけだった」

「結局のところは、機体は空中分解しなかったし、地面に激突もしなかった。G-ディフューザーは最後まで生きていて、静かに地表に着陸できた。だだっ広い草原と湖沼、森の向こうに、市街地のかげが見えた。助かった。そう思った瞬間、目の前がふっと暗くなった」
「次に目覚めたときは、病院のベッドの上だった。千年ものあいだ眠っていたような気がして、自分がなぜここにいるのかわからなかった」
「そうだ、ワシは助かったんだ……まずそれを思い出した。なら助かったことを喜びたかったが、ちっともそんな気分になれないことに気付いた。なぜだろうと考えているうち、一連のことを少しずつ思い出してきた」
「自分の中に大きな穴が開いたように感じた。体の中に詰まっていた大事なものを、ワシはそっくり失くしてしまったんだ。ジェームズ・マクラウドにピグマ・デンガー。そしてペッピー・ヘアまで、ワシは失くしてしまった……」
「わからないんじゃ……一体なんのために生き残ったのか……ワシが培ってきたと信じていたものは、みな無くなってしまった……命だけはどうにか持ち帰ったが、その命の使い道が立ち消えてしまった。一体なんのために……これじゃあ、いっそワシもジェームズと一緒に撃ち落されていたほうがマシだったかもしれん」

「ファルコとの出会い」その25

2010年02月18日 00時35分38秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「おそろしく長い数秒間だった。今でも噴き上げる炎の色と形を、はっきりと思い浮かべられるんだ。考える暇もなく、左右の砲台から集中砲火が襲ってきた」
「腹の底から突き上げるような恐怖がこみ上げてきた。目の前が暗くなり、歯の根が合わなくなった。おそろしかった……ただ命が惜しかった」
「そして逃げた。谷へ下りて、燃える機体の中からジェームズを救い出し、ともに脱出する……とても無理なことに思えた。とても無理だ、逃げるしかないと……自分に言い聞かせたんだ。自分が崇拝する男を残して、ワシは逃げた」
「逃げれば逃げるほど、それまでの自分が音を立てて壊れていくのがわかった。ジェームズが、まさか……。」
「ワシは、ジェームズの死地を救うつもりでいながら、心のどこかでは、そんな日が本当に来るのかと疑っていたんだ。ジェームズは完璧だった。そしてその隣にはワシがいた。ジェームズ・マクラウドとペッピー・ヘアがチームを組んでいるんだ。死地など訪れようはずがない、と」
「任務が終わると、ジェームズとよく酒を飲んでいたよ。お互い死を覚悟している戦闘機乗りだが、今回の任務も死ななくて済んだなと笑いあった。もちろん、ワシかジェームズのどちらかが死ぬ日が、いつか来るかもしれない。それは一年後かもしれないし、明日かもしれない。だがその日の訪れを、永遠に先延ばししながら、引退のときを迎えられるのではないかと……ワシもジェームズも老いぼれちまって戦闘機乗りを引退したあとに、けっきょくどんな任務でも死ぬことはなかったなと、笑いあいながら酒が飲めるんじゃないかと……心の一部では思っていたんだ。なんと、なんと甘かったことか」
「それから、ピグマだ。やつがスターフォックスに加わる前から、アンドルフとつながりがあったことは知っていた。だが翼を並べたチームのリーダーを、なんのためらいもなく撃ち落せるとは……ワシはやつの心が理解できない。やつを含めた三人で仕事をしていた頃、ワシがやつに感じていた信頼感、絆のようなものは、一体なんだったんだ? やつだって、ワシやジェームズを信頼していなければ、自分の隣を任せることなどできなかったはずだ。その信頼をも、やつは裏切った。自分で自分を裏切ったら、あとに何が残る? たとえ金が手に入ったとて、自分を失くしてしまったらなんの意味があるんだ? わからない。考えれば考えるほど、底なしの暗闇へと堕ちていくような気がするんじゃ……」