俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ファルコとの出会い」その24

2010年02月17日 23時05分58秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「ペッピー」
 ベッドに歩み寄りながら、フォックスは声をかけた。
「ペッピー、俺だよ」
 ベッドサイドに椅子を引き寄せ腰掛けると、半病人のようなペッピーの肩に触れる。体とヒゲが小さくふるえ、こげ茶色をしたふたつの瞳が、おどおどとした様子でこちらを見た。
「フォックス……か」
「そうだよ、ペッピー。一体どうしたんだ、こんなに痩せて。奥さんが心配して俺を呼んだんだぜ」
「どうしたも、こうしたもだ」
「……食事はとっているのかい? 薬は?」
「メシは砂の味しかせんよ。薬は飲んでいる。ほら、そこだ」
 指差した先、枕元の小さな机に、水差しやコップと一緒に錠剤の入った小ビンがいくつも置かれている。
「抗鬱剤に、抗不安薬に、精神安定剤に、睡眠薬だ。どれもちっとも効きやしないが」
「そうなのか? 薬が合わないのかもしれないぞ。違った薬にしてくれるよう、ドクターに言ってみたらどうだい?」
「いや。違うんだ」
「なにが違う?」
「薬の問題じゃないんだ。これは……ワシ自身の問題だ」
「ペッピー……」
「聞いてくれ。ワシはずっと考えてきた。だが、いくら考えても答えが見つからないんだ」
「……」
「自分で言うのもなんだが、ワシは自分を強い男だと思ってきた。はじめて戦場に配備されたとき、訓練でどんなに好成績をあげていたヤツでも、何割かは精神を病んで後方に送られる。だがワシはぴんぴんしていた。死ぬことくらいは覚悟しているのが軍人としてあたりまえだ。だがそれ以上に自分の技量に自信があった。コーネリア軍一だ、と自惚れていたこともある……ジェームズに出会うまでの話だが」
「そうだ。ジェームズ・マクラウドだ。ワシの人生を変えた男。ワシが心底惚れこんだ男。パイロットとしての腕前だけではない、リーダーとしての資質、心身の強靭さ、世界に切り込んでいくバイタリティ。何もかもが自分とは桁違いに見えた。到底かなわないものがこの世界には存在するのだと知らされた」
「だからこそチームを組んだのだ。ジェームズの力になるために。正確には、ジェームズを死なせないためにだ。ジェームズが死ぬときには、ワシが盾になるはずだったのだ。それでかれの命が少しでも延びるなら……ワシの人生も、まんざら無駄ではなかったことになる。ワシの命が、ジェームズの人生につぎ足されるのだからな。ワシの人生がジェームズの人生の一部になるわけだ。そうだ、ワシは、ジェームズを、崇拝していた」
「ところがどうだ。ジェームズを救うどころか、自分だけがおめおめと逃げ帰ってきたのだ……しかもそれが、長年連れ添ったチームメイトの裏切りのせいときたものだ」
「ピグマ。ブタめ。ワシは許さない。許す理由がない。だが」
「だがなぁ、フォックス。怒らないでくれよ。ワシはピグマのこともそれなりに好きだったんだ。たしかにヤツは金に汚かった。どんなに意義のある任務でも、報酬が割に合わないとぶうぶう文句を並べた。口論したこともしょっちゅうだ。しかしそれも、任務となれば頼れる仲間に変わったのだ。ヤツに命を助けられたこともあるし、ワシがヤツを救ったこともある。そうやって共に仕事をこなしてきた。確かに金には汚い。しかし共に闘ってきた戦友であることには変わりがない。そう思ってきたんだ」
「だがヤツは。峡谷に潜入したジェームズを、後ろから撃ちやがった。峡谷の壁に、無数の砲門が開いているのに気がついたときにはもう遅かった。ジェームズのアーウィンは、ほのおを噴きながら谷へと堕ちていった……」