俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ベノム陥落」その6

2009年05月19日 12時12分43秒 | 小説『ベノム陥落』
 ロキオンの拠点に忍び入っては、武器、弾薬の類をハールに流す。そうして暴動が内戦へと姿を変えていく。混乱すればするほど仕事がやりやすくなる。
 武器が増え、アジトが増え、仲間が増え、敵が増える。
 Dr.アンドルフがコンタクトを求めてきたときは驚いた。なにせ現職のコーネリア防衛軍科学技術開発部長が、スペースダイナミクス社と結託して、自分たちに武器を横流しするというのだから。
 オレにもいよいよ運が巡ってきたようだ。そう思った。
 この世がひっくり返る様を、特等席で見届けてやる。

「ベノム陥落」その5

2009年05月18日 10時49分56秒 | 小説『ベノム陥落』
 あの日の自分とは、随分違うものになってしまった気がする。
 あの戦士の肩の上で、自分の中に生まれた火は、いつしか変質してしまった。どこかで道を間違えた。そんな気がする。
 それと同時に、そんなガキの時分に抱いた思いが、そのまま叶うわけもない。とも思う。生きるか死ぬかの状況を数限りなくくぐり抜けねばならないのだ。
 甘っちょろい理想を、いつまでも掲げていられるほど生易しい世界じゃない。

 だがどちらにしろ。俺はまもなく死ぬ。
 そこまで考えると、ウルフの緊張は糸を切るようにとぎれた。
 ウルフェンは落下していた。ベノムの大地が目前に迫っている。地表に激突し、粉々に吹き飛ぶ自分の姿が脳裏に浮かんだ。

 記憶が、再びあふれ出した。銀白色の戦士の背中。振り向きもせずに去ってゆく。続々と集まる狼の戦士たち。兵装に身を包んだ狼たちは雄たけびを上げ戦場へと赴く。
 それがウルフの記憶に残る彼等の最後の姿だ。
 それからは生き延びることだけを考えた。泥と砂塵にまみれ、コーネリア正規軍の監視をくぐり抜けた。
 危ない橋を渡るたびに仲間が増えた。いつしか悪党の親玉になっていた。
 イヌ族(ロキオン)とサル族(ハール)の種族闘争は、コーネリアを混乱させていた。数で勝るロキオンが、ハールを辺境の地に追いやる。それに反発したハールが各地で暴動を起こす。捕らえられたハールの多くは重犯罪人としてベノム送りにされる。おおむねそういう図式だった。

『ベノム陥落』その4

2009年05月06日 13時57分13秒 | 小説『ベノム陥落』
 今の俺をレオンが見たら笑うだろう。
 そう考えてから少し驚いた。自分はいつのまにかレオンを片腕のように考えている。

 片腕。その言葉が鍵となりウルフの遠い記憶をすくい上げ、意識を過去へと運んだ。
 今のようにコーネリア軍が幅をきかせていなかった頃。戦場から戦場へと渡る狼の戦士の群れ。その群れのなかに自分がいた。まだほんの子供だったが。
 杯をあおる男たち。絶えず交わされる乱暴な言葉。繰り返される武勇伝。
 銀白色の大きな体をした戦士がウルフの目の前にいた。その体から逞しい腕が伸びて、幼いウルフを抱え上げ肩に乗せた。
 おまえは俺の片腕だな。
 やはり銀白色の体毛に覆われた口元から、うすく犬歯を覗かせてそう言った。
 片腕。片腕。ウルフにはその言葉の意味が正確にはわからなかった。わかったところで、なぜこの銀白色の戦士がまだ幼く戦闘に加われない自分を片腕、と呼ぶのか、その真意はやはりわからなかったろうが。
 ただ無性に誇らしかった。よくわからないけれど褒めてもらえたのだ。頬が火照った。体の奥のほうで小さな火がちろちろと燃え出したようだった。

『ベノム陥落』その3

2009年04月29日 19時34分58秒 | 小説『ベノム陥落』
 そんなはずはない、という声が脳裏にこだまし、次の行動へと移る意欲を削いだ。
 己の身体の延長とも思えるまでに乗りこなし、あらゆる状況下の訓練、戦闘をもくぐり抜けてきたのだ。それも全ては、この一戦のためだった。かつて自分のプライドを切り刻んだアーウィンという機体。それと同等の力を持つ機体を手に入れるためアンドルフに接触したのも。各惑星に点在するコーネリア軍の拠点にゲリラ攻撃をしかけ、この戦争にスターフォックスを引っ張り出させたのも、全てはこの一戦のため。アーウィンに正面からブツかり、勝利するためだ。
 だというのに。最後の一手を詰めようとするときに、なぜ動かない? なぜオレを裏切る?
 頭脳のなかで疑問だけが渦をまいて大きくなり、働かせるべき思考回路を凍りつかせてしまった。
 操縦不能のまま背後からの攻撃を死ぬまで受け続けるのだ。そう気づくと、凍りついた思考は融解し、その下から怒りが溶岩のごとく噴出した。

 それはウルフ本人にとって屈辱だった。
 死が身近に迫ったとき、己の感情や欲望を抑えきれず、周囲にまきちらしたまま死んでいく。そういう輩をウルフは数え切れないほど見てきた。そして、軽蔑していた。
 ところがいま、自身の死が背中にぴたりと貼り付いてみると……。何のことはない。自分も感情を暴発させ、しかもはるか昔の恨みを今ごろ蘇らせて怒り狂っている。怒り狂ったまま死ぬ。滑稽なことこの上ない。
 程度の差があっただけで、自分も同じだったのだ。そう思い至ると、ウルフははじめて笑った。

『ベノム陥落』その2

2009年04月23日 11時54分26秒 | 小説『ベノム陥落』
 ついにレーザーが、プラズマエンジンの心臓部を刺し貫いたらしい。
 自分の腹に手が差し込まれ、内臓をつかみ出されるような痛み。自分の体が傷ついたわけではないにもかかわらず、ウルフはそんな感覚に襲われた。

 馬鹿な……キツネ、てめえが……!!
「俺よりも、上なのか……」
 喉の奥から思考が漏れ出て言葉になった。

 高密度のプラズマをエンジン内部に押し留めていた外殻が、レーザーの連射を受け、消し飛んだ。
 推進剤として噴射されていたプラズマは四散し、ベノムの大気中へと失われてゆく。
 もはや飛ぶことはできない。――墜ちる。

 なぜだ?
 ウルフの脳裏にその言葉が閃き、血管や神経の束の間をすり抜け体内で反響した。なぜだなぜだなぜだなぜだ?
 疑問は一点に向かった。シールドは残り少ないとはいえ、4本のグラビティ・ブレードはすべて無事だった。旋回性能に問題は生じないはずだ。
 後方に敵機が……『アーウィン』という名の因縁ぶかい機体が回りこみマークされた瞬間にも、余裕でそれをかわし、削られるシールドを最小限に抑えられる。ウルフはそう確信していた。
 それなのに。あろうことか、レーザーの最初の一撃を受けた途端、機体のコントロールは利かなくなった。

『ベノム陥落』

2009年04月22日 11時23分55秒 | 小説『ベノム陥落』
 感情を切り離し機械になれ。
 そう言い放ったヤツの背中を、あの時すぐにも蹴り飛ばしておくべきだった。
 後悔だと? この俺が。この俺が、後悔したまま、後悔しながら死んでゆくだと。糞が!

 背後からレーザーの連射を受け、それがシールドの尽きたウルフェンの装甲を貫いたとき、ウルフ・オドネルの感情は爆発した。
 彼にとっては感情が、欲望が、野望こそが自分の中核をなすものだった。そしてそれと同時に、自分のなかの煮えたぎるマグマのような感情に、支配されることなく手なずけ乗りこなせるという自負があった。己の度量もわきまえず、感情に任せて暴発し自滅するやつらとは違う。俺は俺の感情が望むこと、それを自分に提供できるだけの力がある。胸に野望を抱きながらそれを手繰り寄せる力を持たず、自分を満足されられないまま消えていくやつらとは、違う。
 そういう自負は誰よりも強く、またウルフ・オドネルがウルフ・オドネルであるために絶対に必要なことだった。
 それなのに。レーザーが己の愛機を貫き、焼き焦がしてゆくのを旋回して避けようにも、その愛機のプラズマエンジンはすでに瀕死だった。プラズマ加速ユニットが損傷しているのだろう、もはや空中で姿勢を保つことさえ難しかった。

 感情を切り離し機械になれ。でなければ愛機がそのまま棺桶になるぞ。
 あいつの言葉どおりになるだと。そう思うと体が硝子細工のように透ける気がした。脈打つ心臓や。膨らんでは縮む肺。そして縦横無尽に走る血管や神経までが透けて見えるように思った。頭蓋のなかの脳から伸びた神経が、枝分かれしながら桿を握る手の指先まで伸び、筋肉を動かし感覚を伝えている。そしてその手が握る操縦桿の操作が、また枝分かれした多くの配線のなかを電気信号となって機体に伝えているのだ。
 まるで俺がウルフェンの部品のひとつのようだ。ウルフは思った。
 俺という部品が欠陥を抱えていたせいで、いまこの機体は朽ち果てようとしているのか? ……馬鹿な!
 俺の感情がなければ。これはただの機械だ。そうだ感情がなければ。ヒトも機械に過ぎない。感情を切り離した時点で、てめえは機械に成り下がったんだ。機械なら機械らしく。俺に従え!
 
 操縦桿を渾身の力で握り締め、あらんかぎりの力で引いたが機首は上がらない。
 死ぬのか。俺が。
 頑強を誇っていた彼の肉体も、いまはひどくもろく壊れやすく、はかないものに思われた。頭の両側から大きな衝突音が聞こえたが、それは彼のこめかみに這う血管を、疾走する血液が早鐘のように打ち鳴らしているのだった。