俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「べノム帝国」その1

2008年05月31日 02時28分33秒 | 小説『べノム帝国』

 辺境の惑星、べノム――。
 ライラット系に住む多くのものにとって、その名を口にするとき、それは『地獄』とほぼ同じ意味合いで使用された。岩石と砂塵以外のものはまるで見当たらず、樹木はおろか、雑草の一本さえ生えることのない、不毛の大地。金属を腐食させる酸の海と、惑星全体を厚くおおう酸の雲のせいで、この惑星に進入したが最後、機体は腐食し、みずからの体も機体と同様にこの星の上で腐りはてる運命となる。同じ理由で、送り込まれた惑星探査機も、ものの数分で用を成さなくなる。
 コーネリアにおいて、惑星間航行用のプラズマエンジンが実用化されたことを契機に、ライラット系の住民たちは星をこえたつながりを持つようになった。これまでは未知の存在であった他惑星の住人たちと出会い、理解を深めていった。理解が深まる過程はかならずしも友好的なものだけではなく、むしろ血のにおいがする手段が当然のようにとられていた。……だがそれも、いつしか終わることとなった。星の住人達は争うこと、血を流すことに疲れはて、平和協定をむすんだ。歴史に大きな傷を残しはしたが、これからの歴史は、これまでに壊してしまったものを修復し、生まれ住む星の違うもの同士が手に手をとりあって紡いでゆく歴史になるはずだった。
 あの男が現れるまでは。
 惑星間航行が可能になって100年以上の年月が流れても、この惑星だけは、依然として『地獄』という認識のまま変わることはなかった。いつしかべノムは、犯罪者達に最後の時を迎えさせるための処刑場、追放の地となっていた。数日分のみの食料と水だけを備えたカプセル、そこに押し込められた囚人たちが、べノムの大気圏外から惑星上に投下された。パラシュートが開きカプセルがゆっくりと落下してゆく数分のあいだ、カプセルの中の囚人はみな一様に、外に広がっているであろう地獄の景色を思い描いた。そして、地上に落下したカプセルを開いて景色を目の当たりにしたとき、やはり一様に、頭のなかにあった地獄に行けたほうがずっとマシだったと思わずにいられないのだ。まさにここはこの世の地獄だった。命あるものが踏み入ることのできる世界ではなかった。絶対なる死が支配する領域であった。
 あの男が現れるまでは。


「ファルコとの出会い」その12

2008年05月18日 22時20分21秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「スリッピー、しっかりしろ!」
「まずいな。もしあと一機やられれば、作戦遂行は不可能だ」
 スリッピーの涙声を聞きながら、フォックスとペッピーはファルコ機を追った。
 先ほどまでファルコ機を覆っていた重力場はすでに消え、かげろうのような揺らめきも見えなくなっている。スリッピー機の真下あたり、波間にゆれてきらりきらりと陽光を反射しているのが、もぎとられたグラビティ・ブレードかもしれなかった。

 フォックスとペッピーの心に、色濃い不安が押し寄せた。このまま、ファルコの超越的な腕前に翻弄されて、まんまと逃げられるのではないか。
 プラズマ冷却弾の効力は、被弾から十数分ほどプラズマエンジンの推進力を弱めるが、その後は時間とともに薄れ、エンジンは最終的にもともとの推進力を取りもどす。この兵器が有効なのは、少数の敵機に対し数で上回る味方機がいる場合。その状況下で、冷却弾による効果を『重ねがけ』し、飛行不能となった敵機を生け捕る。そういう限定された作戦のみに力を発揮するという、スリッピーの作品らしい性格を備えている。べノムとの血戦に挑もうとするコーネリア軍に言わせれば、こういう個性の強いデバイスばかりをいじくりまわしては喜んでいるスリッピーは『呑気すぎる』といったところであり、それも彼がコーネリアのパイロット候補生という道をはずれ、スターフォックスの一員となったことに少なからず、関係しているのだろう。

 当のスリッピー本人は、にじむ涙をぬぐいながら、ふらふらと海上を飛びフォックス達の後を追っていた。右のグラビティ・ブレードを失ったせいで重力コントロールは不完全になり、まるで酔っぱらいが操縦桿を握っているかのようにあぶなっかしい飛び方をしている。

「ファルコとの出会い」その11

2008年05月18日 19時35分13秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「やられたな!」
 グラビティ・ブレードをもがれたスリッピー機を、呆然と見つめるフォックスの耳に、ペッピーの声が響いた。
「ナウス! 今やつが何をしたかわかるか?」
 アーウィンに取り付けられたカメラに収められた映像は、母艦のナウスにより解析されている。ファルコ機を追いながら、フォックスは尋ねた。
『敵機周囲に強い重力場の発生あり。接近は危険です』

 即座に、ナウスより通信が入る。
「スリッピー大丈夫か?」
 バランスを崩し、ゆらゆらと海上をただようスリッピー機に、フォックスは通信を送った。

「大丈夫じゃないよぉお~」
 もはや任務中とは思えないほどの涙声で、スリッピーが答える。
「武器は付いてないって、言ったじゃないかぁ~」
 ぐすんぐすん、と鼻水をすする音につづいて、情けない声が聞こえてきた。

「スリッピーその…スマン。しかし、任務中だぞ」
 少し申し訳なさそうに、ペッピーが言う。