やはりまだ、早かったのではないか。ペパーの心に、そんな疑念が湧いた。ベノムでのトラウマが未だにペッピーを苦しめ、癒えない傷を疼かせ錯乱させているのではないか。
「フォックス、あの様子では、ペッピーは……」
「順調に、回復していますよ」
静かな声で、フォックスは話した。ペパーはその言葉の真意を探るように、フォックスの顔をまじまじと見た。
「父さんの声を聞けなくなってから、ペッピーがずっと俺の父親代わりでした。けれどペッピーは、遊撃隊としての父さんのことを、ほとんど話してくれなかった。いつも自分を責めていて、許しの言葉をかけてもらうことさえ拒んでいた気がします……」
フォックスの脳裏に、パペトゥーンに不時着したアーウィン、そして病院のベッドの上でぬけがらのようになったペッピーの表情が、ありありと思い起こされた。
体の傷が癒え、病院から我が家へと帰っても、心の傷はベノムで引き裂かれたそのままにぱっくりと口を開いていた。自宅のベッドの上で、ペッピーは無言のまま過ごした。表情は乏しく、何かをしようという気力も湧かないらしかった。めっきり老け込み、目に見えてやせ衰えてきた。夜が訪れても、眠ることができずに窓の外の闇を見つめている。とろとろと浅い眠りに入るたびに、悪夢にうなされて目が覚める。そうして長い長い夜をたった一人で過ごしたあと、明け方近くにやっと疲れ果てて眠るのだった。
そんなペッピーの姿を見かねて、妻のビビアンが連絡をよこした。パペトゥーンの宇宙アカデミー、士官養成コースの訓練を中断し、フォックスはふるさとへと戻った。
フォックスはビビアンに促され、かれのベッドルームへと入った。入院中にも何度となくその傍らに足を運び言葉をかけたのだが、ああ、うう、というような短い返事だけで、会話らしい会話を交わした覚えはなかった。
ペッピーはベッドの上に身を起こし、定まらない視線でぼんやりと中空を見ていた。それはどう見ても「今、この時」を生きるものの目の色ではなかった。変わることのない過去を、終わりなき後悔とともに見つめ続けているものの目であった。
ペッピーは、父さんといつも一緒だった。フォックスは思った。
父さんと別れたとき……父さんをベノムに残してきたとき、ペッピーは自分の心を置いてきてしまったんだ。