俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ファルコとの出会い」その9

2008年03月07日 22時35分55秒 | 小説『ファルコとの出会い』

 突然の不可解な攻撃の意味のすべてを、ファルコが瞬時に理解できたわけではない。だが彼もプラズマエンジンの基本構造くらいは知っていたし、敵が自分の機動力を奪おうとしていることは分った。

(あまり、時間が無いかもしれねぇな)
 今受けた攻撃が、どれほどの効果を持っているのか……時間が経つとともに効果を発揮するのか、それとも効果が薄れてゆくのか? 自分に知る術はない。
(俺の趣味じゃないが、なコト言ってる場合じゃねぇな!)

 スリッピー機より発射された2発のプラズマ冷却弾が、ファルコ機の進路上に向け飛んでゆく。
 ファルコの羽毛が逆立ち、クチバシの両側にびりびりと刺激が走った。全身に血液が駆けめぐり熱を帯びる一方で、感覚は研ぎ澄まされてゆく。両眼はレーダーよりも正確に2発の弾丸を捉え、飛来する弾丸も、周囲の景色もスローモーションのごとくゆっくりとして認識された。
 もうこれ以上、攻撃を喰うわけにはいかない。
 翼もつ身体の奥深くに根付いた、驚異的な能力で、ファルコは機を操った。機体はキリのように回転しながら急降下し、弾丸の間をすり抜ける!

「うっそぉお!??」
 身を乗り出して、スリッピーは叫んだ。自分の目が信じられないとはこのことだ。
「速度は落ちているというのに。なんとまあ……恐ろしいやつだわい」
 感心するというより、あきれ返るといった調子で、ペッピーはぼやいた。

 間髪入れず機体を立て直すと、ファルコは頭上の小さなパネルを開き、内部に並んだスイッチ類をすばやく操作した。
 ファルコ機には、武器は搭載されていない――。
 先刻ぺッピーの言ったことは、コーネリア軍部に残された映像を解析し、さらにファルコ達が暴走族として惑星間連絡航路近くにたびたび出没していた時分のデータとも照合して得られた結論であり、けして不正解ではない。

 その通り、いまファルコ機を中心に発生した重力場は、武器ではない。
 G-ディフューザーシステムに少々手を加え、自機周囲に重力場を発生させる。そのままの状態で、お目当てのものをかすめるようにすれ違えば……磁石がクリップを引きつけるように、目当てのものは重力場にとらえられる。あとは安全な場所まで運んでゆき、着陸して回収するという寸法だ。
 ファルコ達が、物資を調達する(拾得する、発見する、あるいはかっぱらう……)際には常套としていた手段である。

 暴走族仲間の連中はどうあれ、ファルコがこの重力場を武器として使ったことは一度もない。(コーネリア軍部もその存在を知らなかったことからわかるように)もちろん先日の騒ぎの最中にも、である。

「ファルコとの出会い」その8

2008年03月04日 02時10分44秒 | 小説『ファルコとの出会い』

 ファルコ機の速度がわずかに落ちたことを確認すると、フォックスは大きく旋回し、ターンしてふたたびファルコ機に接近してゆく。モニタの上にはふんぞり返るスリッピーの姿が、スピーカーからは自慢げな声が聞こえてくる。
「ど~だい、オイラの発明は? 大したもんだろ?」

 ライラット系において、民間から軍用に至るまで、また大気圏内から宇宙空間に至るまで、推進機関として広く使用されているプラズマエンジン。
 それらは規模や細かな構造に違いはあれど、「推進剤となる気体を超高温で加熱、プラズマ化し、電磁力により加速・噴射させ推進力とする」という大まかな原理はすべてに共通している。
 先刻、フォックスのアーウィンから投下され、ファルコ機の直近で破裂した2発の球体。スリッピーお手製の新兵器であるそれは、かれ自身の命名によって「プラズマ冷却弾」と呼ばれているものだ。

「おい! あまり調子に乗るな! 威張るのはヤツを捕らえてからだぞ!」
 ペッピーのアーウィンから通信が入り、調子付いたスリッピーを叱責する。
 スリッピー、ペッピーの両名も、ファルコの行く手を遮るため付近の海上にそれぞれ浮遊している。まるでトンボのように空中で静止できるのは、G-ディフュザーシステムの重力制御によるものだ。
「スリッピー、奴がそっちへ向かうぞ! 警戒しろ!」
 ブーストを開き加速しつつ、レーダーを確認したフォックスは鋭く叫んだ。すっかり油断していたスリッピーは一挙にうろたえる。
「え、えっ!? あわわわっ」
「スリッピー落ち着け。冷却弾をヤツめがけて発射するんだ」
「わ、わかってるよ」
 ペッピーのアドバイスに従い、予め装填済みの冷却弾の照準を、1時方向より接近するファルコ機に慎重に合わせる。緊張と焦りで、照準はこまかく震え安定しない。加えて、ファルコ機のスピードは、落ちたとはいえミサイルのようにすさまじいのだ。
「間に合わないぞ、スリッピー!」
「あああっ、もう!」
 焦るフォックスの声に急かされるように、スリッピーは発射ボタンを押し込んだ。グラビティ・ブレードの根元に取り付けられた砲門から2発の冷却弾が発射され、一直線に飛んでゆく。

 プラズマ冷却弾は、破裂と同時に周囲の空中に細かな粒子をまきちらす。その粒子がプラズマエンジンの吸気孔からエンジン内部に取り込まれ、プラズマ化された推進剤を中和してしまう。しぜん推進力は衰え、冷却弾による攻撃を重ねて受ければ、そのまま飛行することは不可能になる。

「ファルコとの出会い」その7

2008年03月02日 17時30分34秒 | 小説『ファルコとの出会い』

 低速で飛ぶフォックスのアーウィンから、真正面から猛然と突っ込んでくるファルコの機体が見える。プラズマエンジンの振動波で海面を荒立てながら進む姿は、まるで海を一文字に切りさく刃のようだ。
「フォックス! 突っ込んでくるよ、ど、どうするの?」
 狼狽したスリッピーの声と映像が、アーウィンのモニタ上に小さく浮かんだ。
 ファルコの機体は、海面すれすれを飛んでいる。このままでいれば、フォックスの真下をくぐり抜けられることになる。
「慌てるなよスリッピー、作戦通りだ。すれ違い様に叩き込んでやる」
 フォックスは手早く計器類をチェックすると、いくつかのボタンを操作した。空中でアーウィンの可変翼が可動し、機が鋭い流線型のフォルムになる。
 加速しつつ、ファルコ機に合わせるように高度を落としてゆく。そのまま、フォックスは一気に突き進んだ。

(マジかよ)
 正面から向かってくるアーウィンを見て、ファルコは冷や汗を垂らした。
(何のつもりだ。このままいけば……)
 正面衝突、こっぱみじんだ。考えている余裕は無い。
「ウッ!」
 機体が触れ合うほどに接近する数秒前、ファルコは桿を左に切った。瞬間、アーウィンは右に軌道を逸らしている。ローリングによるエネルギー・フィールドが機体を覆っているが、ファルコに見えるはずもない。
 ファルコの息は荒く、その顔からは血の気が引いている。
(何だってんだ。命知らずにも程があるぜ。雇われ兵士のやることか?)
 それ以上、思考を続ける暇はなかった。空砲のような渇いた破裂音が二発、ファルコの耳に入り、彼の頭をかき乱した。
(何だ、なにをしやがった?)
 あわててレーダーを確認する。すれ違った機体は、徐々にスピードを落としながら弧を描いて離れてゆく。機体に損傷を受けたようにも思えない。
(とにかく、ヤツから離れるしか、ないな)
 ファルコは緩みかかっていた両手を、ふたたび操縦桿にかけ直すと握り締めた。
 しかし、おかしい。先刻ほどにはスピードが上がらないのだ。
(これか!)
 ファルコは愕然とした。相手はどうやら、自分から翼をむしり取る気でいるらしい。

「ファルコとの出会い」その6

2008年03月02日 13時31分11秒 | 小説『ファルコとの出会い』

 無線信号の受信を示すランプが幾度か点滅し、点ったままになった。ファルコは無言のまま、回線接続のスイッチを入れた。……こちらからの送信は切断したまま。

「……るか? こちらは、遊撃隊『スターフォックス』。ファルコ・ランバルディ、聞こえるか?」

 耳障りな雑音のあと、青年のものらしき声が耳に入ってきた。
 スターフォックス。遊撃隊。ファルコは素早く頭を働かせた。
 コーネリア軍じゃない。なるほど、やつらはベノムにかかりきりで、俺なんかには手が回らない。すると、コーネリア軍に使われている雇われ兵士か。
 俺の身元も、この機体の情報も割れているな。にもかかわらず、通信を求めてきたってことは……少なくとも、出会い頭に撃墜する腹じゃあ、ねぇな。

「……聞こえているはずだ。コーネリア軍からの要請により、おまえを捕らえる。回線を開いてくれ。おとなしく投降してくれれば、悪いようにはしない」

 悪いようにはしない、だと? よく言うぜ。
 俺を捕らえたら、軍隊に引き渡し……あとはおまえらの与り知るところじゃねえだろうがよ。
 ファルコは桿を握り締めた。機体は急加速し、海面にさざ波の軌跡を描きながら、一直線に低空を滑ってゆく。
 スピーカーから聞こえる声の調子が、すこし張り詰めた。

「……よせ、抵抗すれば立場が悪くなるだけだ。それに、俺たちはおまえを逃がすつもりはない。海面にフロートを出す、着水してくれ」

 うるせぇよ。
 ファルコはそう呟いてから、回線を完全に切断した。もちろんその呟きも、向こうには聞こえていない。