俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ファルコとの出会い」その27

2010年02月23日 21時06分45秒 | 小説『ファルコとの出会い』

 時間が澱んだような沈黙のあと、ペッピーは胸の中からほう、と息をひとつ吐き出した。
「こんなことは、誰にも言えなかった。ビビアンにも、ルーシーにも。他の誰にもだ。もし言える相手がいるとしたら、ジェームズか、……フォックス。お前さんだけだった」
「……そうか」
「病院のベッドの上にいたときから、いつか話さねばとは思っていた。けれどもいざ切り出そうとすると、怖くて言えなかった。明日こそは、次こそはと思ううちに、退院の日が来てしまった」
「ここに戻ってきてしまうと、話すのはもっと困難になった。体の中に言葉をかかえこんだまま、お前さんを呼ぶこともできず、かといって他の誰かに打ち明けることもできず、自分の言葉にがんじがらめに縛られて、ここから一歩も動けずにいた……」

「たぶん奥さんは、それがわかっていたから、俺を呼んだんだろうね」
 ペッピーはまたひとつ胸の中から息を吐き出すと、両のまぶたを閉じてうつむいた。
「全く、できた女だわい。できすぎていて、ワシには勿体ないくらいだ」

「……なにもかも失くしたなんて、滅多なことを言うもんじゃない。ペッピーには、ビビアンさんや、ルーシーがいるじゃないか」
 俯いたままのペッピーを見据えて、フォックスは言った。
「たしかに……確かにそうだ……しかし、これでは……。これでは、どうにも……」
 歯切れの悪い言葉しかペッピーの口からは出てこなかったが、フォックスにはその気持ちがわかるような気がした。男として、父親として生きるならば、命が助かったことを喜ぶだけではいられない。男の生き方というものは、ただ言葉で伝えればよいものではない。己の命を燃料に世界と格闘する姿、闘う背中でもって伝授すべきものだ。
 命を燃やし駆け上がってきた道を、ペッピーは見失ってしまった。それは男として、父としての自分の喪失であり、この世界に居場所をなくしてしまったことを意味する。それを口に出すのは、ペッピーにとって……すべての男にとって、死ぬこと以上に恐ろしいことなのだ。