鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

エグリグンバイ―すぐそこの不思議虫

2013-03-30 14:48:08 | 日記


 2冊目の虫本の原稿書きで明け暮れる毎日がつづいています。
本格的に虫が出てくる4月後半までには、なんとか脱稿したいとがんばっているのだけれど、
例年より早い桜の開花とか聞くと、気もそぞろ。
週に1,2回の買い物の時がわずかな観察の時間だ。

 駅までの道端では、おっ、エノキの幼木に新葉が開き始めた。

うちの枯葉のなかで越冬したゴマダラチョウの幼虫にオミヤゲできた。


ツツジの植込みのなかには、マミジロハエトリやネコハエトリなどのハエトリグモや、ササグモらしきクモ類の姿がたくさん。






 ヤツデの茎にはシロジュウゴホシテントウ。


 いよいよだな……春だな。
 帰りは、あそこも見てみようかな。

 あそこ、というのは、駅までの道にあるバス停の後ろ側の草むらで、うちからはほんの数分の距離。
ここは年に1回は草刈りされて、虫天国は一気に消滅してしまうのだけれど、気がつくとまた復活している。

 あ、ヒメカノコテントウがいた。ヒメカノコはここ数年、見ることが多くなってきたように思う。

 
 ここの草むらは、行き止まりになっていて、奥に民家がある。もしかして私道?
遠慮がちに奥の方へ進んでいくと、フキのひと叢が。
まだ早いかな、と思いながら葉裏をみていくと……やったー!

エグリグンバイ、いた。

 去年の冬、脱皮シーンを『カメムシもおもしろい』
で見て以来、来年は絶対見たい、と思っていたエグリグンバイ。
 サイトの記事の撮影日時は9月だったが、年1化ではないかもしれないので、
春にもチャンスがあるのでは、と思っていました。
 もし、ちゃんと写真が撮れたら、制作中の本の表紙帯に小さく載せるつもりの、
9種の虫の写真の一点として使いたいという気持ちもある。

 ところで、本の表紙と帯。これらは著者の意向だけでは決められません。
表紙というのは営業的な意味合いも大きいので、出版社の編集をはじめさまざまな部署のOKが出ないと決定できない。
 表紙は本の顔。著名な作家でもないかぎり、書店の台や棚で、まずお客さんに手に取ってもらえるかどうかを決する勝負どころ。

 でも、私には、どうしてもこれで行きたい、という案があった。
前に紹介した木版画家 竹上妙さんの作品をどーんと使わせていただきたい……と。
でも、虫の専門書がほとんどの出版物である今回の版元「全国農村教育協会」にとっては、このテイストはかなり異色。
 意見をきくために木版画の画像を送ると、案の定「これでどういう表紙になるのか、見当がつかないのですが」と担当編集者から戸惑い気味の返事がきた。
 で、写真だけを使ったちょい硬めな印象の案と、木版画を使った案のラフデザインをつくってもらい、どうなることかとどきどき待っていたら、
やったー!わかってもらえたらしい。木版画OKという返事がきた!

 しかし、もうひとつ問題がある。表紙に使いたいと思っていた竹上さんの作品は、判型が横長で、このままだと、帯をはずすと、その下が白く空いてしまう……竹上さんにそれを伝えると、
「じゃあ表紙のサイズにあわせて、作品をつくり直します!」
 もううれしくて、がぜん原稿書きにも力がはいる。どんな作品ができてくるのか、たのしみで仕方ありません。
 まだ若干時間があるので、帯のほうにもなんとかエグリグンバイの写真を載せたい。


  さて、そもそも、日本に60種いるというグンバイムシとは?
Yahoo!百科事典「グンバイムシ」の項(日本大百科全書より)にとてもわかりやすくまとめられているので参照してください。


 また非常に珍しいグンバイムシの飛翔シーンがブログ『我が家の庭の生き物たち』に。

ああ、あのレースのような翅は、こんな風に開くのか!


 誰でもグンバイムシを初めてみたときは、「何だ!これは」と頭のなかがグルグルするのではないだろうか?
 グンバイムシという虫がいることを初めて知ったのはもう7,8年前のこと、ある分類学者の人と話していたときだった。
「ツツジグンバイなら葉裏なんかに普通にいますよ」という。
へえ、ツツジなら庭の隅にも1本あるけど、ほんとかな?と思いつつ、翌日、ツツジの葉をひっくり返してみて、びっくり。
 私の第一印象は「正装した異星人の女王さま」。
 大きさは2,5mm、体全体がまるで精緻なステンドグラスか、硬質な地球外物質でつくられたレースのようなものでできあがっている。どういう構成になっているのだろう?とルーペで見ても、なんだか一気には把握しきれない形態なのだ。
 
 いままで野外での撮影がうまくいかなかったので、きのうはフキの葉っぱを何枚か失敬してきて、家で観察、撮影することにしました。

 
 まずは実体顕微鏡「ファーブル」で観察してみよう。


グンバイムシのような動きの少ない虫をそのまま観察するには「ファーブル」は最適のツール。

 すると、交尾しているのがいる!


 産卵して孵化すれば、幼虫の変態過程や、「カメムシもおもしろい」でみた、夢のような赤い眼をした白無垢の幼虫が出てくる脱皮シーンも見られるかもしれない~。


エグリグンバイはこんな形態。


頭部側から見たところ。

 それにしても、グンバイムシの前胸背上にある翼突起や、風船みたいな中空の前突起という器官には、
いったいどんな意味があるんだろう……と興味はつのるばかり。

 きのうは「虫さびしい」冬の間、5齢幼虫から羽化したアカスジキンカメムシも庭に放した。

秋深いころ、近隣のハナミズキの並木から連れてきた1頭。いっしょにうちで冬を過ごしてくれてありがとうね~。



 おまけ:グンバイムシを検索していて、面白いサイトを見つけて読みふけってしまった。
     関西で害虫駆除の会社にお勤めの方のサイトらしい『害虫屋の雑記帳』。文章がおもしろい、うまい。害虫のプロとして、また身のまわりの虫のことはもちろん、虫嫌いの「ヨメ」との熾烈にして愛ある攻防を通して、この人は虫も、ヨメも愛しているな、ということがよくわかる。