鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

『むしむし探し隊』主催 池田清彦先生の講演会

2011-10-18 20:32:51 | 日記

 

 10月15日、『むしむし探し隊』の監修者のおひとりである池田清彦先生の
講演会へ行ってきました。

池田先生は、同じく監修を担当していらっしゃる養老孟司、奥本大三郎両先生との共著で
『ぼくらの昆虫採集』(デコ出版刊)も先ごろ出版されています。

 主催のNPO法人『むしむし探し隊』は、
今までもセミの鳴きはじめ、鳴き治め調査などの情報収集活動をやってきましたが、
これからは観察会や講演会にも力を入れていくということなので、楽しみです。

 さて、このところテレビでの怪演ぶりで、虫に関心のない人にも知名度うなぎのぼりの早稲田大学教授、生物学者の池田先生。
この日の演題は『虫は人間(ヒト)よりおもしろい!
― 放射能から見た人と虫の違いについて考える』でした。




 以下、メモからこの日のお話の一部をまとめてみると―

*虫はなにがおもしろいか、というと、採りにいくと、思ってもみなかったものがとれること。

*「神は細部に宿る」というけれど、虫の楽しみも細部に宿る。
 同じ種でも、ちょっと違うところがあるのを見つけるのも虫屋の楽しみのひとつ。

*なんでカミキリ屋になったかというと、チョウは日本国内だとけっこうコンプリートできちゃうが、
 800種いるカミキリだったらたぶん一生かかってもコンプリートはできないだろうから。
 今のところ集まったのは8,9割というところ。

*生物多様性にとっていちばんいいのは、人間がいなくなること
 核実験が行われて放射能に汚染され、人間が入れなくなったビキニ環礁はいまやダイバーの天国となっているし、
 原発事故のあったチェルノブイリも、ものすごい多様な生物の宝庫になっている。

*虫が少なくなってしまった主な理由のひとつは農薬などによる土壌汚染。

*外来種が悪者扱いされるが、2500年くらい前に日本にはいってきたイネも外来種だし、
 そもそも20000年くらい前にやってきた日本人も、日本列島の哺乳類としては外来種。

*日本の自然をこわしたのは何かというと、人間と米。

*外来種といっても、人間にとって経済的に害を及ぼすブラックバスは悪者で、
 同じく外来のワカサギは、人間に利益をもたらすので、外来種と言わないだけ。

*外来種を駆逐するには環境を変えるのが一番効果的。ブラックバスを例にとると、
 繁殖して困っている場所は、人間が護岸などでブラックバスの繁殖に適するように環境を変えた場所。
 駆逐したいのだったら昔のような環境にもどすしかない。

*生物多様性がいわれるが、これも外来種の問題と同じで、いちがいには言えない問題。
 生物多様性を守るといっても、すべてを守ることはできない。
 たとえばトキを保護すれば、トキに食われるものは守れない。

*どういうものが保護されて、どれを保護しないかというと、
 大きくて目立つもので人間の役に立つものは保護され、
 土壌生物のように人間の目につかないものは保護の対象にすらなっていない。
 しかし、人間がいなくなっても自然は全く平気だが、
 分解者である土壌生物がいなくなったら、人間はすぐダメになる。

*食べて美味しい虫はセミ。特に土から出てきたての羽化する前のがいちばん味がいい。
 オオスズメバチの幼虫も大きくて美味しい。

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 この日の演題のとおり、放射能や遺伝子などのお話もあったのだけれど、
私は虫関連の話しかメモしなかった(笑)ので、
以上はこの日の講演のすべてではありません。

養老先生のこととか
大学のこととか
目が悪くなったこととか
大好きなお酒のこととか
一度も受けていないがん検診のこととか・・・・
脱線したり飛躍したり道草したりしながら、
しかし最後はちゃんと元のところに話題がもどるのは、
さすが大学で授業をしていらっしゃる先生。
ときには聴衆がドキッとするような(ここには書いていないような)発言も。

震災以来、ホンネが言いにくくなっているという世情もなんのその、
テレビでも講演でも著書でも、
どんな場面でも変わることなくホンネ炸裂の池田節の2時間。
放射能の人体への影響や遺伝子のこと、その修復のメカニズムなど、
面白くわかりやすくためになった話もたくさんありましたし、
またなんだか便秘が治ったような(笑)、
すっきりとした気持ちになった楽しい講演会でした。
アンコールしたいです!


 


秋のカメムシ日和その2 ウッ、ウッ、ウシカメムシー!

2011-10-15 14:52:59 | 日記

 おとといのつづきを、きのう更新しようと思っていたのですが、
昨夜は『むしむし探し隊』主催の池田清彦先生の講演会で遅くなったので
更新がきょうになってしまいました。
昨日きてくださった方、ごめんなさい。
池田トークが炸裂した講演のようすは、
またお伝えします。
すごく面白かったですよ!


 今年6月ごろから何度か歩いた高尾の林道。
第一のお目当てであるオオトラフハナムグリはとうとう見つけられなかったけれど
これは来年のお楽しみにしよう。
夏の間快適だった高尾の林道も、
そろそろ気温が下がってきて、見られる虫の姿も少なくなりました。


 ミゾソバやツリフネソウ、オオハナウドの花が満開の林道で見た虫は・・・・・


オオハナウドのもわっとした匂いにひきつけられたのか、
アサギマダラが夢中で吸蜜。
オオハナウドは大人気でハチ、アブ、ガなどが盛んにおとずれている。

これはホシベッコウカギバかな。きれいなガです。

オオハナウドは北方の植物らしく、
去年の秋に行った北海道大学植物園ではたくさん見た。
高尾のよりも丈高く、1メートルを超えるものもたくさんあった。
高尾のは多少小ぶり。


 オレンジ色の目玉と、スプレーを吹き付けたようなきれいな模様の翅をもつヒラヤマシマバエ。


 稲を吸汁して斑点米にしてしまうきらわれものハリカメムシの仲間。



 ホバリングしながらツリフネソウで吸蜜するホシホウジャク。



 名前のとおりツヤツヤの緑色をしたツヤアオカメムシ。



 同じ緑色のカメムシですが、こちらは光沢のないアオクサカメムシ。



 元気に跳びはねていたミスジハエトリのオス。

黒曜石のようなきれいな目。


 たれ瞼のちょっと陰険な目つきのこの5ミリほどの虫は
アワフキの仲間。

ときどき、不満げに目を伏せる『相棒』の右京さんをみると、
あ、アワフキ目だ~、と思うのは私だけでしょうか。

 カメムシの幼虫ですが、どうしても名前がわからないので
採集した2種。
飼育して成虫になるのが楽しみ。



 今年はこのくっきりハートマークのエサキモンキツノカメムシを今までよりもたくさん見ることが多いような
気がします。
かなり繁殖しているのかな。


 群生していたミゾソバの花。8月ごろから山地の水辺で見かける。


 丸い頭部が特徴のカラスハエトリのオス。

それにしても、ぶっとい腕だね。

 ちなみにメスはこんな色。夫婦ともに太目。

ひさしのようになった頭部先端のかげから、きらりと目をのぞかせています。



 これはクチナガカメムシの幼虫かな?


カメムシばっかりで、そろそろウンザリしてきましたか?
じゃあ、ちょっと目覚ましにこんなの。



キモオチャメなこの幼虫はアケビコノハ。
おなかのところに、ついている白いつぶつぶは何かが寄生しているらしい。


 でもでも、次の日、東高根で、ついに念願のカメムシに会うことができたので、カメムシ、まだつづきま~す。
念願のカメムシとは、ウシカメムシ!!! 4齢幼虫です。

ああー・・・・・・・・やっと会えた。

 酔狂にも、カメムシ好きが集まって自己紹介をする場面を想像してみると、
それはたぶんこんなふうになるのじゃないか。
「○○(名前)です。えーと一番好きなのは、沖縄でみたミカンキンカメの成虫と3齢です。」
「○○です。ぼくはミナミアオカメムシの3齢と桃色帯型の成虫が好きです」
「○○といいます。好きなのはアカカメムシの色彩変異型かな。あのアッカンベー顔がたまりません」
「○○です。わたしは華麗なツノアオカメムシかな。あ、あとアカホシカメムシの5齢なんかも好きです」
・・・・・・・・。

 カメムシは幼虫時代から成虫への多彩な形態、色彩変異が魅力なので、
成虫だけでなく、こんなふうに幼虫の各ステージごとにファンがいるに違いない。
1個の飴で、5回も違う味が楽しめるようなもの。
で、
私の自己紹介は、
「好きなカメムシはウシカメムシの5齢幼虫です!」


 ウシカメムシ。
成虫でも7,8ミリと、比較的小型のカメムシで
今回見つけた4齢幼虫は3,5ミリ。
しかも、とくに幼虫時代は肢をチョコチョコチョコチョコチョコチョコと非常に素早く動かして
動き回るので、その動きがまたかわいいんですが、見つけにくいカメムシのようです。


 思えば『日本原色カメムシ図鑑』の写真で見てひとめぼれ。
7年位前、実家の庭の松の木の幹に5,6匹の成虫、幼虫を見つけ
とても急いでいたため、手元のフィルムケース(空気穴をあけていなかった)にあわてて採集し、
あとでみたら、自分たちの臭気で全員、コロっと死んでしまっていた、
という悔恨の経験以来、針葉樹の幹をなめまわすように見て回るという怪しい行動をしながら、
ずっと探していたのが、
やっと会えたのですから感激もひとしおです。
図鑑などには、植樹を針葉樹と書いてあるものが多いけれど、
アセビ、シキミ、サクラ、ヒノキなども食べるようです。
今回見つけたのは、林道沿いの草の上でした。

アップしてみましょう。

ウシカメムシの名はウシの角のように見える前胸背側に張り出した部分からきているらしい。
そして背部に見える人面だか鬼面のようなもようがなんといってもチャームポイント。
この4齢幼虫時代の顔は太めの白いまゆ毛、小さな黄色い目におちょぼ口。
腹部背面のエンジ、シロ、黒のシックな色具合いがまた味わいふかい。

どうしてもお別れしがたくて、
この後さらにいちばん好きな5齢幼虫に変態してくれるのを期待して採集。

そして2日後、脱皮してついに!


待望のウシカメムシ5齢幼虫になりました。
童顔風だったのが、口をへの字に曲げて目をつりあげた鬼顔に変ったー。
体長も5ミリと大きくなりました。


このあと羽化して成虫になるまでの、たぶん1週間弱くらいしか見られない形態なので
ひまさえあれば、見つめています。












 


 

  

 

秋のカメムシ日和その1 鎌倉中央公園で

2011-10-14 09:33:57 | 日記


 金木犀の香りが空気に満ちるこの時期、
10月はじめの連休は鎌倉中央公園、高尾の林道、西高根地域、と外を歩き回っていました。
折から今頃はカメムシを見かけることが多い季節。
あっちでも、こっちでも。

 まずは鎌倉中央公園。

 わりと身近にみられるわりには大型で目立つカメムシであるアカスジキンカメムシ。
この大口を開けて笑っている顔にも見えるのは5齢幼虫で、このままのステージで越冬し、
翌年の5月ごろ羽化して成虫になります。


ちなみに成虫は、このように派手な色合いと模様の美麗種。
幼虫時代とがらりと装いが変わります。


 さらによく見るのが、このクサギカメムシ。

これも比較的大型で1センチくらいある。

 アカスジキンカメムシと違い、このクサギカメムシは今頃成虫になり
成虫で越冬するらしく、このように羽化して間もない翅が透き通っているものをけっこう見かけた。


 すわっ!白いカメムシかっ!?
と思ったこれも、どうも羽化したばかりのクサギカメムシらしい。

透明感のある白、グレーに薄茶に黄色、そしてアクセントに赤、という
なんとも美しい色合いです。

 ちなみにクサギカメムシの4齢幼虫はこんな姿。

卵から帰ったカメムシの一齢幼虫は、5齢までつぎつぎに脱皮して成虫に。
この時期には幼虫から成虫まで、けっこういろいろなステージのカメムシをみることができます。

 不完全変態のカメムシは、各齢ごとに大きさ、模様、色、形、と変化するのがおもしろいのですが、
幼虫だけをみて、名前を知るのが難しいのが悩み。
たとえば・・・・この黒猫顔みたいな模様の幼虫は誰?

採集してどんな成虫になるのか飼育中。

 イネ科の植物を吸汁するトビイロハゴロモ。
ハゴロモ科のこの虫もカメムシ目に属します。
たった5ミリですが、体全体に粉をふいたように白くて、とんがった顔が面白い形。


 あっ、大好きなホタルガ。


赤い頭部と櫛形の黒い触角。
白い裾模様の黒マント。
くるくると円を描きながら飛ぶので、
この白い線が輪のように見えて、とてもかわいい。

 これも大好きなヨツボシハムシ。

秋になってから、あまり見かけなくなったけれど
冬はどうするの?
調べてみたら、幼虫時代は土の中で植物の根を食べて育ち、
成虫になって越冬するようです。
この時期に会う虫たちには
冬はどうやって過ごすの?
ときいてまわりたい。

 派手な色合いのキアゲハの幼虫もいました。

もうそろそろ前蛹になりそうな雰囲気だけれど、
キアゲハが出現するのは年1~4回、3月から11月というから
これから羽化するのかな。
パセリやニンジンなどのセリ科の植物が食草というが
気温も低く、食べ物が少なくなるこの時期に羽化して生きていくのは
たいへんだろうなあ、なんて勝手に心配になる。

 さっきからまわりを元気にとびまわっている少年ふたり。
なにを採っているのかなあ、と思ったら、
手を開いて見せてくれた。

なんとシジミチョウならぬシジミっていうのが、しぶい。
左のがきょういちばん大きな1個。
もう味噌汁用に50個以上採れたので
これらは川に返すところだという、採集マナー正しき兄弟なのでした。



 明日は、高尾で見た虫です。

 


 

この夏に見た虫 その2

2011-10-01 15:59:32 | 日記
 



9月の半ば、今年も生田緑地のジュズダマを見に行ったら、
いたいた、クロコノマチョウの幼虫。
まだ3センチくらい。


 去年は大量に発生していたので、採集して飼育し、
羽化させたのですが、
今年はここのジュズダマがほとんど刈られてしまったので、
去年ほどたくさんはいなかった・・・・・・。
どうしてジュズダマを刈っちゃうんだろう?
生田緑地のこの地域はホタルがウリなので
ホタルを見るのに邪魔だから?


 目がイッッチャッテルかんじのヤマトシジミ。

翅の縁のお花もようが、なんてったってかわいいの。


  
 バッタかな?
大きなエサをとらえたジョロウグモのメス。

糸疣のあたりが赤くなっている成熟したメス。
これだけ大きなエサを食べれば、きっと立派な卵が産めるでしょう。


 白いはちまきをきりっとしめて、アナタはいつも真剣なまなざし。

全身に力がはいってるマミジロハエトリのオス。ちょっと肩もんであげたい。


 このクールな色合いの8ミリほどのカメムシは、メンガタメクラガメといいます。

メンガタという名前は、前胸背にみえる2つの目玉もように由来するらしい。



 そして、同じく9月半ばの裏高尾の林道。
山の中は、気温がぐっと低めで快適。

 このところ沢の水が増水している。


 7月以来、高尾に来るたびに見かけるツマジロカメムシ。

黒紫色に紺色の強い光沢のある、ていねいに磨き上げたようなほんとにきれいなカメムシ。




いろんな方向からためつすがめつ。
光の加減でどんどん色が変わる。


ひゃっ!
クスサン?

残念なことに負傷してひっくり返っていた。

 でもこのモコモコの肢、すごくないですか。

ほとんど六本脚のケモノみたいにみえる。


 
 千切れそうな極細ウエストのハチ。

これで正常なの?って思うくらい、ぎりぎりまで細い。
調べてもどうしてもわからなくて
大阪市立自然史博物館の、ハチの専門家 松本さんに教えていただきました。
ムモンホソアシナガバチというのだそうです。
1.8センチほどの小さめのハチですが、刺すそうです。

「どうしてここまで細い胴体をしているんですか?」という私の疑問に
松本さんがていねいに応えてくださいました。
それによると、
このように腰が細くなることで腹部を素早く,思った方向に向けることができるように
なり,行動の幅(特に針で刺すことー寄主に針を刺して卵を送り込
んだり,獲物を刺して麻酔したり,外敵に対して針で攻撃した
り...)を広げることができるから、なのだそうです。
このくびれは、素早く刺すためだったのか!
おそろし。


 
これはマルボシヒラタハナバエというハナバエ。


 
これもハエの一種?

 
これはアブで、キゴシハナアブ。

 
 ひゃー!
ド派手な色合いが葉っぱのかげから現れたと思ったら
アオバセセリの幼虫ですよー!

黒と黄色の横縞に、てんてんと蛍光を帯びた青い紋、頭部はオレンジ色。
『イモムシ ハンドブック』の表紙にも登場している、これはもう童話世界の生きもののよう。


しぐさも・・・・・どこかファンタジック!
糸を吐いて、アワブキの葉で巣をつくろうとしているようでした。

 

 アオバセセリに興奮していたら
ミズヒキの葉の上に、さらにすごいものを見つけました。
2.3センチもある、大型のカメムシ、トホシカメムシです!

うぉーっ、って吠えたいくらい興奮した。

きれいな茶色の濃淡の曲線が描く体型が、どこかヴァイオリンを連想させる。

トホシカメムシはナナカマドの赤い実によく訪れるというから、今頃の季節に見られるカメムシなのかもしれない。
キンカメ類のようなピカピカ系のあでやかさはないけれど、
どっしりとと落ち着いた存在感のあるカメムシ。
 こんなすごい虫に出会えて、ドーパミンとかセロトニンとかがドバーっと出たらしく、
その幸福感の記憶が脳のなかに植え付けられ
またまた虫さがしがしたくなる気持ちになったのでした。


 きょうは10月1日。
いつもの虫目歩きから生まれた『バニャーニャ物語』の
月一回の更新の日です。

 バニャーニャも、もう秋。
モーデカイが国境の街の卵専門店「タマゴ・バザール」で不思議な卵を見つけたらしい・・・・。

『バニャーニャ物語』へは、ココからどうぞ。