鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

異端、と呼ばれる黒いチョウ

2010-08-24 18:04:29 | 日記

 熱中症になる人が続出しているこのごろ。虫目歩きもほどほどに、というところですが、時間を短めにするなどして、相変わらず歩いています。 

 『虫目で歩けば』にも載せた猫顔のヒメジャノメの幼虫をまたさがして、もっとちゃんと写真を撮りたいと思っていたのですが、今年は見つけられず。 そのかわり、先日でかけた生田のほうで、ジュズダマの葉に見つけたのが、ヒメジャノメの幼虫と似た、とがった耳のように見える突起のある黒い顔をつけた、キミドリ色の幼虫でした。  

 黒い顔には毛がいっぱい生えている。  全長5,5センチもあり、たぶんもう終齢幼虫なのでは、と思われたので採集することに。

 このあたりはジュズダマがいっぱい生えていて、他の葉には3齢くらいの幼虫も見つかった。

 帰ってからさっそく『イモムシ図鑑』で調べると、出ていました、クロコノマチョウという枯葉そっくりの地味~な、一見蛾のようなチョウです。

  しかしWikiの説明によると、このチョウは異端づくしのチョウである、と。

 いわく、「ジャノメチョウ科の中でもこれらコノマチョウの仲間は特に異端であり、シロチョウ科にしかない「脚の爪が二分する」形態を持つ。」

 専門的に生物学を勉強したことがないので、「脚の爪が二分する」形態というのが実際にどういうものか、想像してみるしかないのですが、ひとつはっきりわかる「異端のしるし」は、脚が4本しかないチョウだということ。  

 えっ、脚が4本?

 ちょっと待って~

 <昆虫の定義>をもう一度思い出してみると、「昆虫とは、体が頭部、胸部、腹部からなり、胸部に脚が3対(6本)、2対(4枚)の翅をもつ生きもの」ということでした。 

 しかし何事にも例外はあるようで、クロコノマチョウの4本しかない脚も、昆虫のなかの例外として処理(?)されているようです

 4本というのは、はじめから4本しか脚がないのか、それとも退化したのか・・・・・・ネットで見ると、この地味なクロコノマチョウに興味を持つ人は多いみたいでたくさんの観察記録がありますが、脚が4本しかないとか、なぜ4本なのかという理由について触れているものはほとんどありません。たったひとつ、前脚が退化している、という記述が見つかったけれど、正確かどうかはわからない。 これ以上のことは専門書に当たらないと。今度図書館かジュンク堂で、チョウの専門書を見てみることにしよう。

 さて採集してきた幼虫は、食欲旺盛にジュズダマの葉をもりもり食べていましたが、4日目に前蛹になりました。

 チョウなどの幼虫の飼育の過程でいちばん私が好きなのが、この前蛹の段階。食べることとフンをすることを全使命として生きているような幼虫から、いきなりシン、とするので、観察させてもらっているニンゲンも、変態の神秘がはじまるぞ、という厳粛な気持ちになるのです。  

 アクロバティックな姿勢が美しい前蛹。

 

 そして2日後に気がついたときには、もう蛹に。

 薄く翅の脈が透けて見える、2センチあまりのひらべったい蛹。あの大きな幼虫が、えらく縮んだものです。次の成長ステージでいらないものは、整理したのでしょう。あの黒い顔も、そっくりそのままお面みたいにポトンと落ちていました。

  4日後の朝みると、蛹の色が茶色っぽくなり、いよいよ羽化です。ネットで見た羽化のようすから、まだちょっと時間があるかな、と朝食をつくりはじめたら・・・・・・ちょっとの間に羽化してしまっていた・・・・・・。  

 これがクロコノマチョウ。

 羽化した成虫をみてびっくりしたのは、蛹に比べて出てきたチョウがあまりに大きかったこと。

 だいたいチョウは、幼虫時代はけっこう大きくても、蛹になるとかなり縮み、、羽化するとまた大きく見えるという場合が多いようだが、クロコノマチョウはいままで見た中でも、その差がいちばん大きかった。

 2センチくらいの蛹からでてきたのは、開帳8センチ以上もありそうな、しっかりした翅をもったチョウでした。  

 そしてたしかに脚は4本。ちょっとつかまりにくそうに、ジュズダマの茎に止まって翅を乾かしています。オスかメスか知りたくて、葉の先でつついてちょっと前翅表をのぞいてみたら目玉模様がなかったので、オスのようです。  

 それにしても、見れば見るほど枯葉そっくりのチョウ。夏型と秋型があるそうで、これはダークな色調の夏型。秋型は枯葉にまぎれるように成虫で越冬するらしい。そしてこのチョウも、ツマグロヒョウモンなどと同じように徐々に生息地を北に広げているそうだ。

 クロコノマチョウの英名はDark evening brown 。じっさい薄暗い森の中を、夕暮れどきに飛ぶ習性をもつそうです。

 和名「黒木の間蝶」、英名“Dark evening brown”という名前がぴったりの、暗く深い森の住人を思わせる、なかなかすてきなチョウなのでした。


蚊が少ないような気がする夏

2010-08-09 06:08:49 | 日記

 猛暑のなか、また鎌倉方面へ。

 今年は出遅れてしまい、オトシブミをたくさん見ることができなくていまだに未練がましく木の葉を見あげて歩いている私ですが・・・・・・

 

 このルリオトシブミだけは、たくさん見ます。

 4ミリくらいと小さいのに、イタドリの葉を穴だらけにする大食漢。虹色の金属光沢のある黒々とした体に短くてしっかりした鼻先をもち、小柄だけどがっしりした体格の男性を思わせる。ルーペでみると・・・・

頭部にうねうねとした彫り模様があり、第一印象よりもシャレモノです。

 

  クズの葉にいたのが、オジロアシナガゾウムシ。黒と白の模様がパンダっぽいので、私はパンダゾウムシと勝手に呼んでいる。1センチ以上ある大き目なゾウムシですが、どことなく行動がもたついていて、憎めない感じ。

 ゾウムシ定番の「しがみつき」スタイル

 

 横顔は、象も納得の立派な鼻が特徴

 

 交尾はこんな感じで

 

近寄ると、ころっと落ちて、お得意の死んだふり。

 

そのまま眠くなったのか、ごろごろ。

 

 あれっ!これはもしやトリノフンダマシでは。

ずっと見たかったクモです。基本的に夜行性らしいので、なかなか見るのが難しいのですが、きょうは昼間から葉の表にいました。 大きさは5ミリ。

 ええっー、こっちにも、また違う種類が!

 トリノフンダマシは、名前のとおり鳥の糞に擬態しているクモで、したばかりの糞のように体表がぬれっとしています。これがチョコチョコ動く様子は、なかなかキモカワイイ。

 このクモのようにフンそのものに擬態したり、フンを背中にしょったり、体に塗りつけたり・・・・と虫はフンがらみの擬態がけっこうある。ということは人間以外の生物たちも、フンを見ると「フンッ、なんだフンか」、と思うということなんだろうなあ。

 2種類もトリノフンダマシを見ることができて、きょうはなんていい日だろう、とさらに歩いていると、ストライプ模様がさわやかな、かわいいハムシに出会いました。

 きりっと小粒で、粋な縞模様の装いが涼やかな江戸小町といった感じ。

 

 いっぽうこちらは、いつも正装しているというのでテレビにも出演したことがあるラミーカミキリ。

汗まみれの人間のそばで、きょうもきっちりタキシード風の正装で決めています。

 

 このふさふさした羽飾りのようなものをつけているのは、ハゴロモの幼虫。

まるでオシリに孔雀の羽を飾ってふりふりしている宝塚歌劇団のダンサーのよう。

 そして、これは???

この意味がわからないほど変わった形のものは、イノコズチカメノコハムシ、というハムシの幼虫でした。成虫になるとピンバッヂのように平べったい体をしたカメノコハムですが、http://members.jcom.home.ne.jp/0822894712/kamenokohamushi.htm

幼虫はこんな形をしています。 ああ・・・・・・不思議すぎるこのカタチ。

 バッタは苦手目の虫ですが、この半透明のミント色のバッタには目をうばわれました。脱皮したばかりなので、こんなきれいな色をしているのかな?

 

 横じまの胴体に水玉の翅というファッショナブルなカノコガは、 交尾姿もどこか美しくて。

 ところで、きょうも3時間くらい、木や草のある場所を歩き回ったのに、一度も蚊に刺されなかった。もちろん虫除けスプレーはばっちりしているけれど、それでも例年に比べ、今年は蚊が少ない、と思う。春の低温のせいか虫も少なめな感じだけれど、覚えている限り、もっとも蚊の少ない夏なんじゃないか、という気がしているのは、わたしだけなのか、それとも虫除けスプレーの性能が年々進化しているのか・・・・・・どっちにしても虫目歩きにはありがたいことです。