鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

来年も、虫目で歩きます!

2010-12-31 15:12:35 | 日記
 今年は3月に『虫目で歩けば』という本を出したおかげで、
たくさんの虫とひとに会えた年でした。
 書評や番組で紹介してくださった媒体の方々、
お手紙をくださった方々、
amazonのレビューに投稿してくださった方々、
虫目歩きにつきあってくださった方々・・・・・・
みなさんに感謝です。

 そしてブログに感想を書いてくださった方々も。たとえば・・・・・・・

 博物館のショップで見つけたけれど
字が小さいので買うのをやめておこうと思ったら、
ご主人が「おれが買う!」と言ってくださったという方。

 「娘さんが泊まりに行ったさきで、
エサキモンツノカメムシが産卵しているのを見た
と教えてくれたそうで、この部分は私の憧れです。
いつかうちの子供もなにか虫を見つけて教えてくれるかな?」
と書いてくださった、子育て中の虫好きおかあさん。

 病院の待合室にあった(この本を置くとはどんな病院?!)ので
読んでみたら面白かった、という人もいるし、

 そしてついに、
「カメムシなんて嫌いだったけど、ちょっとかわいい気もしてきた」とか、
「虫が嫌いだったけど虫に興味がわいてさがすようになった」
と書いてくださった方まで!

 いろんなひとが、いろんな風に感じてくれて、
楽しんでくれた人もたくさんいることがわかって、
本をつくった苦労がふっとびました。
みなさん、ありがとうございました。

 そして、お詫びもあります。
紙の本をつくるのは、ある意味とてもスリリングなことです。
とにかく間違いも印刷されてしまえば、それで終わり。
再販のときまで訂正は不可能で、ブログのようにはいきません。
 誤植や校正ミスの多い本は、なんとなく雑な感じがしていやなものです。
そこでいつも校正のときには、すごーく緊張します。
でもでも・・・・それでもやらかしてしまうんですね、
間違いの見落としを。
本ができあがってすぐはいつも、これが怖くて自分の本を読めません。


 そして『虫目で歩けば』では、
今まで出した本のなかでも、最大のミスをしてしまいました。
なんと尊敬する亡き日高敏隆先生のお名前を「日高敏男」と・・・・・・。
これに気が付いたときには、
もう布団をかぶって寝てしまいたかった。
天国できっとチョウを追っていらっしゃるであろう日高先生、
まことに申し訳ありません。
そして読者の方々にも、深くお詫びいたします。
 


 虫をきっかけに、少年たちの知り合いができたことは、
今年うれしかったことのひとつです。

 そのひとりが太一くん。以前取材してくださった
時事通信社の昆虫記者のひとり息子さん。
取材をきっかけに、ときどき誘い合って
家族で虫さがしに行くようになりました。



この間は、金沢公園でゴマダラチョウの幼虫探し。
この日は虫が苦手目のおかあさんも参加。
お父さんの昆虫記者さんに、越冬中の虫さがしを教えてもらいました。
きょうの目玉の合計10個。みんなでさがせばいろいろ見つかる。



 日当たりのいい場所に生えているエノキの根元の枯葉の下に、お目当ての幼虫発見。
背中にある3つの突起が目印。



 まだ落ち着き先が見つからなくて
うろうろしている幼虫、かっわいい!



 成虫で越冬するウラギンシジミのオスも、日差しのなかで翅を広げている。


 エノキの樹幹にはひっそりとフユシャク。


 花盛りのビワでは、キタテハが夢中で蜜を吸っていた。


 太一くんは今年ホームページもつくりました。
『僕の生き物日記』http://www3.ocn.ne.jp/~ikimono/には、
家族の虫さがしのようすが、記録されています。


 そしてもうひとり、近所の観察場所でよく合う、
名前も知らない男の子。


私が行くと「あ、あの人、またきたー」。


得意のてづかみ。
 

 たいていその日のテーマとなる虫を決めていて、この間は会うとすぐ
「きょうはミドリ色のウンカをさがす」と言われました。
「はーい」


 彼はまだ5歳の幼稚園児らしいのですが、
虫の行動をよく見ていて、
それぞれの虫について見つけ方、
捕まえ方がその小さな体にたくさんインプットされているらしい。

 私が緑色のウンカをさがそうと、草の中に座ると、
「ウンカはね、そうやって座っていても見つからないの。
こうぅぅやってね、ゆっくり草の上を歩いて、
自分の前にぴょんって飛び出すのがいたら、
その先をよぉぉく見て、
どこに飛んだかを見ると
そこにいるの」と
実演しながら順をおって
ウンカ見つけのための行動の仕方をおしえてくれました。


 言われたとおりにすると、あ、すぐ見つかった!
またすぐ飛んじゃったので写真は撮れなかったけど、
ホソミドリウンカのようでした。

 カメムシもゾウムシもオオカマキリも、
それぞれどうやって近づいたらいいか、
実体験を通して、しっかり体で学んでいるようなのです。
まだ5年しか生きていないのに。

 シジミチョウが飛んだので
「あ、ムラサキシジミ」と言ったら
「ちがう!ムラサキシジミじゃない」ときっぱり否定されました。
「じゃあ、なに?」
「・・・・・・・・」
わからなかったみたい。

父「もう翅を開く元気もないねえ。もうすぐ死ぬかもしれないよ」
息子「でもさ、越冬できるかもしれないじゃん・・・」


冬の陽だまりで、じっと翅を閉じたまま飛ぼうともしない
ウラギンヒョウモンに見入る5歳児とその父でした。


 暮れは野山だけでなく、下町にも出かけました。
浅草寺の羽子板市。
わずかに残る日本の風物。

手あぶり


そろばん


羽子板が似合う粋なお姉さん


潮汲み娘の羽子板を買いました~。




 大雪の会津若松から、毎年お年始用に送ってもらう「会津葵」のも届きました。


ひと箱にひとつ、起き上がり小法師が入っている。

 何年か前に会津に行ってその繊細なおいしさにびっくり。
以来お正月のお菓子と決めています。

 うすーいうすーい砂糖衣をかけたお菓子。
貴重な白あずきの色と風味。



 チョウのカレンダーも買って、

お正月がきます!

みなさま、どうぞよいお年を。

来年も、わたしは虫目で歩きます。

サナギツリーでクリスマス

2010-12-24 00:32:06 | 日記
 いつもよりケーキをたくさん食べるくらいで、

ちっともクリスマスと関係のない私ですが、

きのうは足立区生物館で、金ぴかのサナギツリーを見て、

ちょっとクリスマス気分を味わいました。







 こんなツリーだったら、私もつくるのに挑戦してみたいなあ。

オーナメントは4種類のチョウのサナギだそうです。







 この生物園は、ヒカリモノに力を入れているらしく、

週末の午後6時からは「冬のホタル」も見ることができるそうです。

ただ、まだ羽化していないので、光ってはいるけれど、

幼虫なので飛ばないそうです。

実はホタルは卵も幼虫もサナギも、もちろん成虫も、

全ステージで光るんだそうです。光る卵っていうのも、見てみたい。



 

 サナギツリーに見とれた後は、チョウの温室へ。

きょうのお目当てはチョウ園で毎日3時半から行われているという放蝶イベント。

時事ドットコムの昆虫記者氏の記事
http://www.jiji.com/jc/v?p=new-special-hotal0001で読んで、さっそく。

このところ樹皮をめくったり、枯葉をひっくりかえしたり、

といった地味目な虫さがしが続いているので、

たまにはパアーッと華やかなものが見たくなり遠路やってきたのです。



 チョウの温室へ一歩はいると・・・・そこは一気に南の国。





開帳10センチ近くある大きなオオゴマダラが、

わっさ、わっさと羽ばたいて、つぎつぎと目の前を飛んでいきます。

薄黄色の地に、細いペンで描かれたような繊細な黒いすじ模様、

胸部には黒地に白い水玉を散らした胴着を来た女王のような気品。




何度見ても、オオゴマダラはチョウ園の女王です!






関東に定着したかと思われるナガサキアゲハも交尾中。





 ここで飼育されているチョウは、オオゴマダラ、カラスアゲハ、ジャコウアゲハ、

ナガサキアゲハ、ツマベニチョウ、リュウキュウムラサキ、コノハチョウ、アサギマダラ

などなど、その数約500頭。





 温室内は25度くらいあるみたいで、すぐに汗だく。

ん・・・・・・カユッ!

と思ったら蚊に刺された。

大好きなアサギマダラも。






 そしてお待ちかねの放蝶タイム。





飼育員のおねえさんが、チョウの入った白いネットをもってあらわれると、

20人くらいの子供たちがわっと押し寄せます。







わたしも負けずに押し寄せました。

後ろには子供たちの父兄がつめかけ、熱気むんむん。



おねえさんはまず、子供たちにチョウはサナギの中で体をすっかりつくりかえて、

羽をもった飛べる成虫になることを話し、

「これから、きょう羽化したチョウをみんなに持ってもらいます。

そのとき、2つお約束がありまーす」と元気な声で説明。



「ひとつは、チョウを持つときは、「チョキ」の手で、

ひとさし指と中指の間にはさむように、もつことです。

それからチョウを持つと手に鱗粉という粉―これはチョウの体をおおっていて、

雨で翅がぬれないようにするとか、

とっても大切な役目をしています―がつくので、

特に毒ではありませんが、手を洗うようにしましょう」

「はーい」。



 こどもたちは、早くも手を「チョキ」にして、

おねえさんの方に差し出しています。

「それじゃあ背の順にならんでね。小さい子が前ですよぉ」。





やったあ!

背が小さいことでは人後に落ちない私ですから、

子供たちには負けますが、後ろに詰めている父兄たちのなかでは、

いちばん小さい自信アリ。

子供たちの数はざっと20人、

白いネットのなかにはチョウが30頭以上入っているようなので、

大人にもチョキのチャンスがありそうです。



みんな正しいもち方ができてます。











 

 ところで、私はきょうここに来るまで、

チョウを手に持つことになるとは、まったく思っていませんでした。

ふだんから、観察や飼育をすることはあっても、

できるだけ素手で触れないようにしています。

それはなんといっても、チョウのあの翅とやわらかそうな腹部の、

美しくももろい、こわれそうな感じが、触るのをためらわせるから。



そしてさらに、私がチョウに触れないのは、

強烈にインプットされた、あるイメージによるところもある・・・・・・。





あれは、もう何年も前の、ちょうど今ごろのこと。

上智大学のノンフィクションライティングの講座で、

講師の加藤恭子先生に、一年のお礼に何か受講生たちが贈るということになり、

私がそのプレゼントを選んで用意することになりました。

受講生たちの相談の結果、何か先生が身に着けられるものがいい、

ということになったのですが、

一人の方が「あ、チョウの柄のスカーフとかは、やめた方がいいです」と。



え、それはなぜ?

「先生はチョウがダメなんですって」



加藤先生のお年を感じさせないすぺすべの白い肌に合うような、

きれいなピンク色のマフラーをお贈りしながら、

好奇心を抑えきれず、なぜチョウがダメなのか、

先生にお訊きすると・・・・・・こんな話が。



まだ小学生だった先生は、ある夏、山の別荘で採集したチョウを、

大人に教えられたように三角紙にはさみ、

そして、それを押し入れにいれたまま、すっかり忘れてしまった



2週間以上たったある日、

本を取り出そうと押入れを開けた先生の目の前に・・・・・・・

まるで幽霊のように翅がぼろぼろになったチョウが、ふわーり、と。



生き物を捕まえて、それを忘れてしまった罪悪感と、

そのあまりの無残な姿に、小学生の先生が受けたショックは大きく、

その体験がトラウマとなって、以来、

本物のチョウはもちろん、絵も写真も、

チョウがモチーフにつかわれているものすべてに

恐怖を感じられるようになられたのだそうです。



なにせ、ノンフィクション作家として

大宅壮一賞を受賞された加藤恭子先生です。

その語られる言葉にはすごい力があり、

押入れとチョウの光景はまるで自分が見たことのように強烈に、

私の中に残りました。





足立区生物園ののチョウ園に話をもどすと、

子供たちの後ろに並びながら、

私にはチョウを「チョキ」することにまったくためらいはありませんでしたが、

心の片隅を「押し入れ」がよぎったのも確かです。



 でも、「チョキ」してみて、ほんとうに、よかった!

それは、思いもかけなく、触れてみなければわからないチョウの飛ぶ力を、

指のあいだにはっきりと実感することができたからです。









 今にも破れてしまいそうな翅のなかに、あんなに強い「飛ぶ力」が潜んでいたとは!

初めての飛翔に向かって、その翅脈のなかにはあふれるように、力がみなぎっているのが、

はっきりと感じられました。




うふふ・・・・・





 ところで、チョウを「チョキ」した大人は・・・

私ひとりだけでした。

チョウを持った自分の子供の写真を撮るのに夢中で、

自分でももってみよう、と思った人はいなかったようで。



 最後に飼育員のおねえさんが、メスを誘引する匂いを出す「ペンシル」を出している

マルバネルリマダラとういのを見せてくれました。


お尻の先端から出ている黄色いのがペンシル。

まだあまりふつうのチョウ図鑑にも載っていないという沖縄のチョウだそうです。

きれい!



 ナガサキアゲハ、ツマグロヒョウモン、アカボシゴマダラなど、

北上してきたチョウも増えていますが、まだ南へ行かなければ見られないチョウも多い。

来年は沖縄かな~

ミカンキンカメムシもニシキキンカメムシも、そろそろ本物を見たくなってきたし。

つかの間の夏を楽しんだ、12月のチョウ園でした。



不思議なメキシコみやげ「はねる豆」

2010-12-01 20:48:07 | 日記

 アーティストの荒木珠奈さんhttp://tamarimo.exblog.jp/から、

うっかり持ち帰ってしまったので海花さんに、

とこんなものが送られてきました。

 

 

 

 

 Aさんは、一昨年私が虫の布人形を買いたくて訪ねたメキシコ南東部のチアパス州に半年間滞在して帰国したところです。メモによると、ツクストラという町でオカマちゃんが売っていて、心臓が苦しくなったとき握りしめるといい、というお守りのようなもので「はねる豆」と呼ばれている、とあります。このように袋に入れて、安全ピンで服に止めておくもののようです。

 「9月に買ったけれど、まだまだ元気です」とも書いてあります。

元気って・・・豆が???

 

 Aさんは以前にも、メキシコの「コチニール」という、食紅の代用着色剤として需要が増えている、カイガラムシを乾燥したものをおみやげにくれたのでした。これを煮出してみると、赤いゼリーのような液体ができあがりました。口紅とかカマボコとかお酒の色付けにつかわれているそうです。

 

 それで今回は、豆。

頭のなかが???だらけになりながら、おそるおそる袋の中身を出してみると

4粒の豆のような種のようなものが出てきました。

 

 

 

 これがどうして「元気」なんだろう・・・・・。

 

 とりあえず、お皿の上に出してじーっと観察してみると、

 

 

 チリンとお皿の鳴る音がして、ほんとだ、豆がはねた!

 

珠奈さんにメールしてきくと

frijol saltarines(はねる豆)といって、ソノラ州の灌木の花に卵を産む、ガの一種みたいです。

花で孵った卵が、タネに侵入し6月頃から、中で36ヶ月も生きるそうです。

ということは、いつか出てくるんですよね?」と。

 

 ということは、ガの幼虫がはいっていて、元気よく動いているんでしょうか?

夫が、そういえば以前テレビでみたことがあるような気がする、といいます。

 これはもう、中を見てみなくっちゃ。

ということで、勇気をふるって、解体してみることに。

中に何かいるのだったら、傷つけないように、と少しずつカッターで切ってみると、

 

 

やっぱり!

白い幼虫がいました。

豆の内側はうっすらと白い糸のようなもので覆われていて、小さなフンのような黒いものが少しあるだけ。他には何にもありません。

 ガの幼虫だとしたら、きっと食べ物がたくさん必要だったと思うのですが、もう食べつくしたんでしょうか?

このあと空になった豆の中でサナギになるとして、こんな硬い豆の中で、どうやって羽化し、出てくるんでしょうか?

 もう少しして、動かなくなったら、またひとつ解体してみようかな。

もしかしてサナギになっているかも。

 謎が深まるばかりのメキシコのおみやげなのでした。