鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

森林公園の「バグズ・ストリート」

2011-11-06 16:30:37 | 日記

                             シロスジショウジョウグモの赤色変異型。



 11月とはいえ、この暖かさ。
とはいっても、多くの虫は気温だけでなく、日長(昼の時間の長さ)でその生活のリズムを決めることが多いので、
暖かい=まだ虫がいる、というわけにはいきません。
見える虫の姿は日を追うごとに減っている。

 でも、あそこに行けば、まだ幾種類かの虫が見つかるに違いない、
と思ってきのう行ってきたのが、川崎のほうの森林公園。
ここには私が勝手に「バグズ・ストリート」と呼んでいる、長い手すりがある。
 弥生時代からのシラカシ林やクヌギ、コナラ、ミズキ、エノキなどなどがつくる古い林に沿って、
ゆるやかな勾配があり、そこに設置されているのがこの金属製の手すり。


 この手すりの上には、そばの木々から降りてくるらしい虫がたちが集まり、
忙しく行き交う場所になっているようで、最近の好きな観察ポイントのひとつ。


 きょうも、

 渋い色合いと抽象的な模様が静かで上品な雰囲気をもっているミヤマカメムシ。
8ミリ。



ルーペで見たらちっちゃなゾウムシだった。2ミリ以下。

かわいいなあ、ゾウムシって。

これも2ミリのゾウムシ。顔じゅう眼!


わりと最近日本に入ってきたらしいウスキホシテントウ。

3ミリくらい。体型がちょっと細長目、黒地に薄い黄色の水玉。
テントウムシというと赤い色の入っているものを思い浮かべますが、
こういったモノトーン系のテントウムシも渋くていいな。

この時期、外傷を負った個体を多く見かけるエサキモンキツノカメムシ。
それでも交尾している。

傷を負っているものを多くみるのは、メスが卵や幼虫を守る習性があるから?


ここに来ると必ず会える白っぽいハエトリグモはチャイロアサヒハエトリ。

眼の色も薄めで外人っぽい。

ひゃあ、鮮やかな黄緑色に黄色の筋がはいったこのクモは、
サツマノミダマシ。

よく見かける似た名前のワキグロサツマノミダマシより、
こっちのほうがふたまわりくらい大きくて美しい。


あ、気がつくと、まだセミが鳴いてる!



アカスジキンカメムシの5齢幼虫も虹色光沢のあるオシリを振りながらストリートを闊歩。
横にあるミズキの木から降りてきたのかな。


この虫通りでは、いろいろな虫が出会うので、虫どおしのそのときの行動を見るのも面白い。
たとえば、ハエトリグモがアリを跳ね飛ばしたり、
ケムシがテントウムシの匂いを嗅ぐような行動を見せたり、
もちろん食べるものを探して、戦いが行われるシーンも。
でもたいていは、あまり干渉しないで、てきとうに進路をよけながら往来しているように見える

 お互いに知らん顔のエサキモンキツノカメムシとゴマフリドクガの幼虫。


・・・・で、いろいろ見ながら坂をのぼり、上の広場に出て、
クスノキの下でおべんとうとトイレ休憩。

 昼食後は近くの雑木林を少しみて、復路もバグズ・ストリートを見て帰るという予定。

ところが・・・・・・この後、バグズ・ストリートに危機が!

 ツレが「クモを採ってるみたいな人がいたよ」という。
「割り箸でクモの巣からクモをつまんでた」と。
???
空中の円網からクモをつまむっていうと、
いま園内には産卵前の成熟したメスのジョロウグモがたくさん巣を張っているから、
ジョロウグモを採集しているんだろうか?
ジョロウグモの研究をしている人?

 と思いながら帰りのバグズ・ストリートにさしかかると・・・・・
・・・・・・いた。

 スーパーのカゴみたいのをさげて、
手にはメダカをすくうような小さな網を持っている男性。

男はバグズ・ストリートに沿って、
ときどき網で虫を捕え、カゴのなかにぎっしりはいっている容器に入れているもよう。
私たちの先を歩いているので、何気に追いついて、
「クモをとってるんですか?」と訊いてみる。
「ええ、クモとかハエとか」と男。

クモとハエ?その組み合わせって・・・・はて。
すると男はこともなげにこう言った。
「カエルのエサにするんです」

 なぁぬぅぅぅぅぅっー!

 世の中にはいろいろな人がいることはわかっている。
バッタが好きな人もいれば、
ダニが好きな人もいるし、虫は総じて嫌いという人、
ヘビやカエルが死ぬほど好きという人も。
虫好きひとつとっても、虫の写真を撮るのを目的の人と、
採集を目的とする人が、いっしょに虫さがしに行くと困ることある、
と聞いたことがある。
写真を撮ろうとすると、先にさっと捕まえられてしまうというのだ。
お互い虫が逃げないうちに、と思うから、すばやく体が動く。
このふたりの組み合わせの場合は、「撮る」ほうが圧倒的に分が悪い。
でも、どのみち虫が好きでやっていることだから、話も合うし、
まだ許せるという気持ちにもなる。

 でもさ、カエルのエサにするために虫採りをしている人と同じポイントを歩くことになるなんて・・・・。
私もカエルは好きですよ。
オタマジャクシからカエルに育てたこともある。
カエルを飼っている人は、エサが要るのは当然だし、
ネットでコオロギ300匹パックなんていうのを買わずに自分で捕獲したごちそうを愛蛙に食べさせたい、
というその気持ちはわかりますけど。
虫好き的立場からすると、こっちがなにをやっているか一目瞭然なんだから
「アタシの前を歩くな~っ。「撮」ってから「採」る気くばりしろっつーの」
なのでした。

 気持ちを泡立たせながら、
なんとかカエルのエサ採り男(ディズニー風にいうと、バグズ・ストリートの悪漢)
に先を越されないように、しぶとく虫を見る。

 
 久しぶりに会ったね!キイロテントウ。

キイロテントウは私のハッピー・バグ。いい思い出があるから。

 バグズ・ストリートでは、よくアリグモを見かけるのだが、
これもその一種。

一見アリ?って思うのだが、後から見ると、アリとはなんか雰囲気が違う。



アリに擬態しても、その眼はまぎれもないクモでしょ。


この前、飼育して名前がわかったチャバネアオカメムシの5齢幼虫が、そそくさと歩み去る。



わっ、かわいい!クリシギゾウムシだ。


体と同じくらい長い口吻をもっていて、折れないか心配になる。
もうすぐ、カエルのエサ採り男がくるから、逃げたほうがいいよ。

飛んでった。

これはデーニッツハエトリ。
頭のまわりが眼だらけ。8つも。
このストリートではいつもハエトリグモをたくさん見る。


こちらはキンイロエビグモ。


シラホシテントウも。

カエルはテントウムシを食べるだろうか。

これはもしかして、リリ、っといい声でなくというカンタン?

*道端自然観察会のまいたにさんから、これはトビナナフシという
ナナフシの仲間、と教えていただきました。

丸模様が大きかったり、ゆがんでいたり、斑紋がすごくいろいろなナミテントウ。


こちらは3ミリと小さなヨツボシテントウ。

バグズ・ストリートにはテントウムシも多いようです。

前肢で威嚇するワカバグモの幼体。


名前調べ中のカメムシ。

肢が赤、緑、黄色のアフロカラー。

これはみなさんが大っ嫌いなダニ(笑)。
でも動きがかわいいんだけどな。

日向をちょこちょこしている、よく見かけるダニなので
すぐ名前がわかると思ったが、同じく赤いタカラダニより体が丸いし、
もう少し、調べてみよう。
いずれにしても、人間には害を及ぼさない種じゃないかと。

体の内部が赤く透けて見える、たぶん孵化したばかりのガの幼虫。


あっ、あっ、これはアカイラガの幼虫では?

一部、肉棘が取れてしまっているけれど、
グミキャンディーみたいできれい。大きさは1,2センチ。

ん、背中にいやな気配。

気が付くと、カエルのエサ採り男が迫ってきていたので
急いで葉っぱの上に幼虫を避難させた。
カエルに食べさせるには可愛いすぎるでしょ。
カエルはイラガの幼虫なんか好きじゃないとは思うけど。

 エサ採り男の脅威にもめげず、
なんとか帰りもたくさんの虫を見られたなあ、と出口に向かったとき、
アジサイの葉に素敵なものが!
これは、たぶん・・・・・・

やっぱり、この天幕状の住居の中にいたのは、ビジョオニグモでした。
1センチくらいのころころした体型の、一度みたら忘れられない印象的なクモです。

 でも、これのどこが・・・美女?
新海栄一さんの『日本のクモ』によると、
『腹部は白色で後方に行くにつれて青緑色が増し、
さらに黄色の横条と黒色の点班が横に並ぶなど
美しい模様から美女オニグモと呼ばれる』とある。
確かに横から見ると、

色の変化がきれいだけれど、

でも、

私には、鼻水が止まらなくて困っている河童の顔に見えますが・・・・・・。

 バグズ・ストリート、また見にこよう。
 



このブログの姉妹サイト、『バニャーニャ物語』も
更新しました。
今回は連載10回目。
『バショーの落としモノ』
バショーが飛べなくなったのはなぜ?
モーデカイの不思議な卵から生まれたものは?
こちらから、どうぞ。

謎解きは脱皮のあとで

2011-11-01 13:37:15 | 日記


 「なんでカメムシが好きなんですか!?」
と、よく訊かれます。
それもかなりな詰問口調で。
そういうとき、私はこう答えることにしています。

「虫には、チョウのように卵、幼虫、サナギ、成虫というように、
幼虫時代と成虫時代では、すっかり形態も行動も変わる完全変態をするものがあります。
イモムシとチョウチョでは、まったく形態が違いますよね。

 一方カメムシは不完全変態という形で成長します。
こちらは劇的に変化するサナギ時代がなく、
卵から孵化して1齢幼虫になり、5回くらい脱皮しながら最後に羽化して成虫になるんです。
カメムシの面白いのは、この変態の過程で、各齢で大きさ、色具合、模様などなどが
どんどん変化していくことです。
種類にもよるけれど、そのそれぞれがデザイン的にとても素敵なものが多いんです。
私にとって、カメムシの魅力とはこのメタモルフォーゼの、
ヴィジュアル的な変化の面白さでしょうか」

 相手に言葉をさしはさむ余裕を与えないように、
上記のように一気にまくしたてます。

そうすると、たいていの人が、最後には「ほーっ」といって納得してくれるようなのです。
完全変態とか不完全変態とか、ちょっと専門用語みたいな言葉も出てくるので、
なんとなく納得した(あるいはケムにまかれた)ような気になるらしいです。

 そして、次に出てくる言葉はというと、
「なるほどぉ・・・・・でも、臭いでしょ?」
です。
これに対しては
「服に着いたのを振り払うとか、そういった刺激を与えなければ、大丈夫。
やさしく、そっと扱えば、カメムシは匂いを出しません。
私はなんども居間でカメムシを飼っていますが、
交尾のときなどに興奮すると多少臭うことがあるけれど、
家族も全く気にならないという程度だし」と説明します。
悪臭をかがされるかもしれないというリスクよりも、
脱皮で変態していく無脊椎動物の不思議さや美しさを見る楽しみのほうが勝る、と強調します。
これを聞いた相手は、「ほんとかなあ・・・」という目で私を見ますが、
これ以上は「カメムシなんていう臭い、嫌われものを好きだとは
いったいどういうわけなのか、はっきりさせてもらおうじゃないか」
と詰問する意欲を失うようです。


 カメムシが嫌われる最大の理由は、
かなり強烈な油臭いような悪臭(カメムシ好きの人にはいい匂いに感じる人もいるらしいが)を出すからですが、
これは、成虫では中胸の腹側に、
幼虫では腹部背面にある臭腺というところから出るそうです。

何のためにこんな臭いにおいを出すのか―
その第一は鳥などの捕食者を遠ざけるため。
と言われているものの、実験では必ずしも臭い匂いが鳥という捕食者から身を守ってくれるとは限らないと結果が出たそう。

そして確実にカメムシの匂いを嫌うのはアリであるという。
私もメスが体をはって卵と幼虫を保護する習性のあるエサキモンキツノカメムシが、
集団で襲ってきたアリを撃退したシーンをみたことがあります。
その様子からすると、物理的に戦うというより、化学戦に重きが置かれているように見えました。

 でもカメムシの悪臭は、けっこう強力で、
 直接捕食者を殺すくらいの効力がある場合もあるのじゃないか、と思います。
というのは、前にも書いたことがありますが、松の幹でずっと見たいと思っていたウシカメムシの幼虫と成虫の集団を見つけ、
急いでいたので少々荒っぽく(追いかけまわしたので悪臭を出し始めていた)、
空気穴を開けていないフィルムケースに採集して、
15分くらいしてみたら、自分たちの出した臭気で、全員がころっと死んでいたという悲しい体験から。
自然界で密封されるということはほとんど起こらないかもしれませんが、
条件によっては殺傷力のある臭気でさえあるように思われます。


 春と秋は、カメムシが目につく季節なので、
このところネットには、布団にはいったり、洗濯物についたりして悩まされて
カメムシ退治の方法を知りたいという書き込みがたくさん見られます。
こういう方が、ときどきカメムシ大好き!と言っているこのブログに間違って来ちゃうことがあって、
さぞ腹が立つだろうなあ、と申し訳なく思うのもこの季節。
特に今年は例年より、ちょっとカメムシの数が多いような気がしています。

 カメムシの魅力はその成長過程の形態や色の変化、といいましたが、
これはいっぽう、カメムシの名前を調べるのを困難にしている原因でもあるわけで。
図鑑などでは、成虫でないと名前がわからないものも多く、
1種で5段階の変化があるのですから、幼虫だと名前にたどり着くのはなかなかたいへん。

 今年も「この幼虫はカメムシであることは確かだけれど、名前は?」と思うことが何度もありました。
こういうときは、採集して飼育し、脱皮を繰り返す過程を観察しながら、
最後の脱皮をして成虫になった後で、やっと謎が解ける。
謎解きは脱皮のあとで―これもまたカメムシ観察の楽しみのひとつです。

 たとえば、
10月上旬に鎌倉中央公園で見つけたこれ。

全体にまるっこくて、ヒゲをぴんとたてた黒猫の顔のよう。


1回脱皮したらこうなりました。これで5齢かな。


そして、羽化してみると、あのどこにでもいるチャバネアオカメムシ!?

あれっ、でも・・・・・『日本原色カメムシ図鑑』のチャバネアオカメムシの幼虫とは違うようなんだけど・・・・・・
1匹だけを飼育したので、ほかの種が混じることは絶対ないと思うんだけど・・・・・
かえって謎が深まってしまった。


 こちらはきれいなピンクとつやつやした緑色の配色が美しい幼虫。(右側)

まるで若い銀杏の実のようなみずみずしい緑に差し色のピンクが効いている。

脱皮して成虫になったので、ツヤアオカメムシとわかりました。



 そして以前紹介した、10月中旬に見つけて狂喜したウシカメムシの4齢幼虫。

6日後に5齢幼虫に変身。

まるで帽子をかぶった小学生のように見えた4齢が、
白い髭をはやした北欧の神様みたい(『むし探検広場』の園長さんのみごとな見立て)ないかめしい顔の模様に。



さらに10日ほどで羽化し、めでたく成虫になりました~。


ウシカメムシは小型なので、成虫になっても6、7ミリほどの大きさです。

 ところが、この小さくてちょこちょこ動くウシカメムシには意外な習性があるらしい。

 私は見たことがないのですが、昆虫写真家の新開孝さんのサイト『ひむか昆虫記』によると、
なんと、ウシカメムシは産卵のための栄養補給に、
ツバキの枯れ枝の幹に産み付けられたセミの卵を探して吸う!というのです。
この記事が出たのが9月半ばですから、この時期に産卵の準備をしているということは、
越冬前に産卵するのかな?!

 木枯らしが吹こうというこの季節にも、
セミの抜け殻が残っているようなツバキの木を見ると、
じいっと目を凝らしています。
卵(ウシカメムシの卵は白くてまん丸)、みつけたーい!

 きょうは虫をモチーフに作品をつくっている川上きのぶさん作、シャクトリマグカップに
大好きなクサギの実を活けてみた。



 ところできょうは11月1日。
姉妹サイトの『バニャーニャ物語』更新の日ですが、

今月から15日更新に変更させていただくことになりました。
11月15日の更新日には、ぜひどうぞ!