鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

虫好きにもウレシイ園芸書『虫といっしょに庭づくり』

2011-02-14 09:16:39 | 日記
 庭にはその家の人の、
価値観や好み、経験や美意識などなどが、
けっこうはっきり出るものだなあ、と思います。
私の庭づくりのテーマは、
ズバリ「虫が寄ってくる庭、好きな虫の食草のある庭」。
 なんといっても朝起きていちばんに見ることができる庭やベランダの植物は、
もっとも身近な虫目の楽しみを与えてくれますから。

 アゲハが卵を産みに来てくれるようにレモン、キンカン、サンショ、
ヒメシロコブゾウムシが見つかったときのためにヤツデ、
ナガメのために根から掘り起こして植えたナノハナ、
クロヒカゲチョウの好物ジュズダマ、
ツマグロヒョウモンのためにはパンジー、
アカスジカメムシのためのセリ科の植物、
ヒメジャノメがタマゴを産むイネ科の葉っぱ、
ウドンコ病の野ばらはキイロテントウやクモガタテントウのために
・・・・・・といろいろ育てているのですが、
春になったらもっと虫がくる植物を増やしたいな、
と思いながら本屋で見ていたら
・・・ん?
この本いいかも!



 無農薬、無化学肥料で庭をつくってきた植木屋さん、
曳地トシさん、曳地義治さんの『虫といっしょに庭づくり』(築地書館)という本です。
 これだけガーデニングや家庭菜園、山歩きなどが人気の今、
虫との付き合いは避けて通れない問題だと常々思っているのですが(みんなどうしているんだろう?)、
なぜか園芸界では、虫との付き合いというのは、
タブー視されてきた問題のようなのです。

 去年ある植物雑誌で、
ガーデニングの悩みに虫好きの観点から応える、
という記事に協力したときも担当の編集者が、あるベテラン園芸家から
「園芸雑誌で虫のことを肯定的にやるのはタブー中のタブー」と怒られたそうです・・・・・。
 この本はそんな園芸界のタブーに一石も二石も投じたといえる、画期的な本であるのかもしれません。

 

 ふたりの著者はご夫婦で、農薬をつかわない病虫害対策を実践する
「ひちきガーデンサービス」というのを運営しているそうです。
「オーガニックガーデンとは、いつまでもいつまでも庭にいたくなるような、
もうひとつの暮らしの場。(中略)居心地がいいこと、
いろいろな楽しみ方ができること、人間も自然の一部だと感じられることが大切だ」とある。
すごーく、共感。
特に、「いろいろな楽しみ方ができる」っていうところに。

そしてこの本のうれしいところは、いつも目に入る身近な虫たちについて、
ていねいに紹介されていること。
テントウムシについても、たくさんの種類がきれいな写真で紹介されていて、
そのどれがどんな食性で、庭にとってどんな存在であるかが、よくわかる。



 ハチのページでは、刺されてすぐに毒を吸い出す「ポイズン・リムーバー」という道具が紹介されており、
これは虫目歩きにもいいなあ、とさっそく観察道具に加えることにしました。

 しかし、さすが(?)庭づくりの本。
庭木にとって居てはまずいというものの駆除の方法ではばっさり、と。
―「ビニール袋に入れて、足で踏みつぶす」や
「ゴム手袋をはめた手でつぶす」といった説明が並ぶ。
殺虫剤の代わりに、手で捕殺することがオーガニックガーデンでは大切らしい。
でもアゲハチョウなどは、5齢幼虫などになると踏みつぶす時の感触がつらいので、
なるべく小さいうちに捕殺しよう、とも・・・・
たしかに、私もまるまる太ったアゲハの5齢幼虫を踏みつぶす感触を想像しただけで、いやです。
 
 しかし、農薬散布などと違い、自分の手や足で虫を殺す、
自分の手を汚して他の生き物の命を奪う感覚を知っていることがだいじなのだ、とも。

 そしていちばん共感したのが、
「いままでにハマキムシの被害で枯れた木というのを見たことがない」
ときっぱりと言っている一節。

 以前テントウムシの幼虫を飼育していたときのこと。
獰猛な食欲をみせる幼虫のために、
毎日近所のアブラムシを集めて回っていました。
中でも大量に見つかるのが、
ほったらかしにされて草ぼうぼうの駐車場のバラの新芽。もうアブラムシがびぃっしり。

 こんなにアブラムシがついていたら、このバラの新芽はもうだめだな、と思いながら、
何度もアブラムシだらけの新芽をいただいていたのですが、
しばらくして、テントウムシたちも無事に羽化したころ、近くを通りかかると、
なんとまるで何事もなかったかのように、
バラはしっかり枝を伸ばし、
みごとな赤い花をいくつも咲かせているではありませんか。
猛烈なアブラムシ攻勢にもびくともしない植物ってすごいな~と思ったのでした。

 そして、私の虫を呼ぶための庭でも、虫のために植物が枯れちゃった、ということは
よく考えてみると・・・・・ない。
水やりを忘れて枯らしたことはあるけれど。

 ハダニのように、じわじわと葉っぱをむしばむものは、葉っぱごと取り除き、
チョウやガの幼虫は小さいうちに飼育ビンにいれるとういことはあるにせよ、
これだけ虫ウェルカムな私の庭で、
植物はちゃんと元気です。




・・・・ということは、虫は一般に人が思っているほど、
害虫ばっかりじゃない、ってことではないだろうか?
常々、なんとなくそう感じていたけれど、この本で
「いままで○○○の被害で枯れた○○○をみたことがない」
と何か所かで力強く書かれているのを読んで、
やっぱり~、と思ったのでした。
この本のおかげで、虫のくる庭づくりも
パワーアップしそうです。
 

 話はかわって・・・・・・
まだちょっと先のことですが、
6月4日(勝手に決めたムシの日)に、京都のガケ書房さんで、
トークショー(池内美絵、有吉立、鈴木海花)&虫愛ずるお茶会&近所の吉田神社の杜でお参りかたがた虫目歩き、
という虫目三昧の一日イベントを計画中です。
詳細は、順次このブログでお知らせしていきますので、ご近所の方はお見逃しなく!

 これは雪の前日にカラスノエンドウの新芽に来ていた虫。



拡大してみると、背部にはきらきらした毛が生えているし、
顔周りはどこが目だかわからないような
たった8ミリにしてはすごく複雑な体のつくり。
春は、もう近い!?

虫目歩きから生まれたファンタジー
『バニャーニャ物語』


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ファーブルも絶賛!カメムシのタマゴ美

2011-02-01 08:09:03 | 日記
 ミナミアオカメムシがうちに来てから、
カメムシのタマゴをじっと見ることが多くなったので
あ、そうだ!と思いだし、
『完訳ファーブル昆虫記 第8巻 上』(奥本大三郎訳 集英社刊)を
読みなおしてみました。

帯の文句が超マニアック!
 
 この章の扉ページには、なんとオウシュウヒメナガメという
ナガメの一種であるカメムシのタマゴが大きく描かれています。



そしてファーブルは40ページにもわたって、
カメムシのタマゴの造形美と、
幼虫が出てくるときタル型のタマゴを開けるための
T字形をした道具による仕掛けの巧妙さを絶賛しているのです。

ちょっと引用してみると・・・・・・
『鳥の卵は単純な美しさを具え、その美には小さな子供でさえ感動する。
虫の卵にはこうした完璧な美しさをもつものはめったにない。
その例外とも言えるのがカメムシの卵である』

・・・・・・と言い切っておられます。

さらに

『小さな壺のような卵は、葉の上に固めて産み付けられる。
壺には網目模様が描かれ、上部には蓋がついている。
蓋の周囲には細かいギザギザがあり、壺をかっちり密閉している。

卵の殻の蓋側にはT字形をした小さなものがついている。
これらの卵は鳥の卵にも匹敵するほどの素晴らしい造形美を有している。
どうやって幼虫は、この頑丈な卵から孵化するのか。
T字形の奇妙な道具の役割は何か』

さらに

カメムシが臭腺から出すあの匂いを、
「身につけている虫の香水、化粧油」とまで。


 カメムシの卵はたいてい1ミリ内外の大きさ。マクロレンズなんてない時代に、
ファーブルはなんとかその美しさを伝えようと、言葉のもつ力の限りを尽くして、
19世紀チックにカメムシの卵の美しさを、これでもか!というくらい繰り返し賛美しています。

 ファーブルが讃えてやまないオウシュウヒメナガメという小型のカメムシは
関東地方で春、菜の花に集まるナガメにそっくりですが、
体の模様はより複雑で、より美しいです。
 ナガメが大好きで、よく飼育していたので
卵の写真を出してみたら、どうやら卵は両方とも
同じデザインのようです。


 壺形というのが、いかにも手をかけてつくったもののようで
しかも側面にも模様まで描かれている。

これがナガメの成虫。

ファーブルが言う「T字形の仕掛け」とは、卵殻破砕器というもので、
幼虫はこの道具で蓋の周囲を押して、少しずつ破りながら出てくるのです。
このようすは、何度見てもあきません。 


これは『虫目で歩けば』にも載せた写真ですが、
もっと拡大してみました。
逆さになったT字形のものが見えるでしょうか。



 さて、うちのミナミアオカメムシのタマゴ村では、
5つの卵塊の内、残念ながら2つはうまく孵化しませんでした。
でも他の3つではもう2齢となった幼虫が
ちょこちょこ動き回るようになりました。

 ヨウチュウ村では、つぎつぎと脱皮して成虫になるものがあらわれ、
3つの中でいちばん忙しそうな村です。

カラフルな5齢幼虫。有吉立さん撮影。

 そして、今朝なんと、全身ピンクの成虫が羽化しました。



肩の部分だけにピンクがはいっているものは
今までもいましたが、
全身ピンクというのははじめて。
きれいなので、エコヒイキしています。

 週末に葉山の先にあるソレイユの丘という施設へ行ってきました。
ここにはトマトの大温室があり、4種類のトマトの収穫体験ができます。


なかでもプチトマトの枝は、緑、黄色、オレンジ、赤、と
熟度による色のグラデーションが美しく、
ついあれも、あ、こっちもきれい、と買いすぎー。



食べるためというのはもちろんだけど、
ミナミアオカメムシもトマトを食べるので、
このきれいなトマトの枝をつかって、
トマトドームをつくってみようと思ったのでした。
そして・・・・・
けっこう苦労しましたが、
できましたー!



あしたは、この新作ドームに、
セイチュウ村のみんなをお引越しさせようと思っています。


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 そしてきょうは、お知らせがあります。
新しい年になったので、新しいことをひとつはじめることにしました。
それは―この『虫目で歩けば』のほかにもうひとつ、
『バニャーニャ物語』というブログをはじめること。




 『バニャーニャ物語』って???
それは、
『国境の町の向こう、<ナメナメクジの森>をぬけると、
そこには、ちょっと風変わりな生きものたちの国がある―』
・・・と、こんな風にはじまる物語です。
もしこんな世界があったら、ときどき遊びに行きたいなぁ、
という気持ちでつくった、
ふだんの虫目歩きから生まれたもう一つの世界です。

バニャーニャはある大きな大陸から、
タンコブのように突き出た半島の国。
引き潮になると砂州で大陸とつながり、
潮が満ちてくると。海のなかにぽつんと取り残された島になります。
 国境の町がある大陸側とバニャーニャを行き来するには、
ひとつ難関があります。
それがナメナメクジの森?!


登場人物をちょっとだけ紹介すると―

スープ屋のジロ
 ラマル川のほとりで、スープの店をやっています。
半島特産の産物を使ったおいしくて栄養のあるスープの数々がみんなに大人気。
スープのようにあたたかい人柄でみんなに愛されているが―
じつは胸のなかには大きな夢を秘めている・・・・・・。

砂屋のフェイ
 世界中から集めた253種類(現在のところ)の砂を売る砂屋をやっています。
楽天家でかなりおっちょこちょい。でもさまざまな砂を調合して、
半島のみんなの病気を治す薬をつくる、というだいじな仕事をしている。

お使い屋のモーデカイ
 半島でゆいいつ、ナメナメクジになめられずに森を抜け、
大陸の国境の街へ行けるという特技(?)を活かして、
みんなに頼りにされている大きな体の「おつかい屋」さん。

石舞台に住むバショー
 この半島のいにしえの記憶が残る石舞台。
年に一回雨乞いの儀式が行われるこの聖なる場所の近くに住む、
バニャーニャの長老的存在。
そのわりには、いつもバタバタしているけれど。
 
 
ギル族のシンカ

 ふだんはめまいの崖の上にある家に住んでいるが
、首の両脇にあるエラで水中呼吸もできるので、
陸上と海のなかを自由に行き来できるギル族のひとり。
博物学に興味があり、万物の観察をおこたらず、
バニャーニャの歴史ともいえる記録をつけている。

ホテル・ジャマイカ・インの主人コルネ
 見かけはぼんくらだけど、料理の腕は第一級。
ホテルの裏庭には自家農園をもっている。
昔は紅茶やスパイスを運ぶ大きな帆船の船長だったが、
バニャーニャの近くで難破したのを機に、ここに住むことになった。

そして・・・虫目少女カイサ
 小さいものが大好きで、いつもなにかしら虫といっしょ。
いろんなもののなかに入りこめる、という不思議な力をおばあさんから受け継いでいる。

挿絵は大滝詠一さんの『ナイアガラシリーズ』のジャケットイラストでおなじみの
中山泰。

毎月1回、1日に更新していく予定です。
こちらにも、どうぞ、遊びに来てください。

バニャーニャへは、ココから!
『バニャーニャ物語』http://blog.goo.ne.jp/kaika64