鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

夏休みの虫ガールたち―その① そう子ちゃん

2012-07-31 10:52:58 | 日記

                   腰まで深い草に埋まって虫さがしする、そう子ちゃんは7歳。




 夏休み直前の土曜日、世田谷トラストまちづくり主催の「生きものおもしろ講演会」という催しで、
『虫目で歩けば見えてくる!』というタイトルで講演をしました。
世田谷トラストまちづくりは、世田谷区の自然保全を目的に活動している区の外郭団体。
低学年の小学生とその両親たち250人もの前で虫の話をするなんて、初体験。




 えーと、最初に昆虫の定義をいちおう説明したいんだけど、定義っていう言葉からして、
小学生には難しいだろうなあ・・・・なんていったらいいだろう?
昆虫っていうことばには、決まりがあります・・・・・でいいかな?
などなど、言葉の使いかたをいろいろ考えて行ったのだけれど、
講演がはじまって「昆虫という言葉には定義、えーと定義っていうのは・・・」といったとたん、
会場のあちこちから「あ、それ知ってるー」と声があがり、
肢が6本で体が頭、胸、腹からできている、というのを知っている子がたくさん。

 外国で言葉が通じなくても、好きなことがいっしょだと分かり合えるというのと同じで、
大人も子どもも、興味が同じだと、言葉以前の何かですぐ話が通じるんだな。
 子どもたちがつぎつぎ反応してくれるので、緊張していた私もすっかりリラックス。


 


 私が虫を好きになったきっかけであるハエトリグモのこととか、
カブトムシ、チョウ、クワガタなんかの花形昆虫だけでなく、
いつもよりゆっくり歩いて虫目になると、
身の回りにもこんなにおもしろくて、きれいな虫が見つかるということを、
写真をみてもらいながら話しているうちに、あっという間に1時間がたってしまった。





 
 講演後のロビーでは、虫好きな子どもたちとおしゃべりを楽しんだり。






 そんなこともあって、このところ、小学生の虫友がふえている。
 6月の『虫愛ずる一日』イベントに来てくれたそう子ちゃんも、そのひとりで、
小学校1年生の虫大好きな女の子。
 お母さんによると、2歳ごろから虫に強い興味を示していたというから、7歳にしてもう5年の虫好き歴。
だから、お父さんが買ってくれた接写のできるコンデジで撮った写真を貼っているアルバムは、
厚さ7センチもあります。



 そう子ちゃんは、夏休みだけではなく一年を通して虫を観察している。
小学生だから集団で歩くことも多いのだが、そう子ちゃんのランドセルにはよく、後ろの子が追突する。
歩いていて虫を見つけると、急に立ち止まるから。

 両親は特に虫に興味をもっていなかったのに、
どうして娘が虫にこんな風に強い興味を示すのか、
「???」と思いながらも、お父さんもお母さんも、
そう子ちゃんの虫好きな気持ちをとってもだいじにしている。

 平日は六本木のオフィスでばりばり働くお父さんも、休日はそう子ちゃんの虫さがしに付き合う。
飼っていたカブトムシが死んだときには、体のなかがどうなっているか知りたくて解剖して、
そのあとしばらくはクリームコロッケが食べられなくなったりしながらも、
通勤帰りには気がつくと虫をさがすようになった。

 お母さんは観察で見つけた虫の名前を、そう子ちゃんといっしょに図鑑やネットで調べてくれるし、
双子の妹たちもこのところ虫に触れるようになった。
休日は家族で虫さがしに出かけるし、そう子ちゃんの虫好きの影響は、
いまや家族全体にじわじわ染みこんでいきつつある。





 そんなそう子ちゃんが、いつも行く横浜のフィールドを案内してくれるというので、
連れて行ってもらいました。
 
 猛暑の一日だったけれど、横浜から鎌倉のほうにまで広がっているここ「横浜自然観察の森」は、
木陰が多くて、緑のさわやかさが暑さをやわらげてくれる。





 

あ、おかあさんが何か見つけたのかな。





松葉ボタンの花にヤマトシジミのオス。





ガのようにも見えるけれど、これはベッコウハゴロモというカメムシ目の虫。





同じくハゴロモの仲間のアミガサハゴロモ。





1.3センチと小さいけれど、華やかな翅の模様をみせびらかすようにとまっているのはマドガ。




 
アザミの葉で交尾するハスジカツオゾウムシ。





どんどん、森の奥へ。



おとうさんが大好きだというエサキモンキツノカメムシもいました。



 
 朽木の穴にもぐりこもうとしているのはキマワリ。





 みごとなX型のかくれ帯(白い部分)をつけた巣のまんなかにいるのはコガタコガネグモ。

このクモはすごく音に敏感で、人の声などがするとすぐかくれてしまうらしいが、
この個体は鈍感らしくて、近寄って写真を撮らせてくれた。





 トンボ池の藻の上では、オオシオカラトンボが交尾。





 全身燃えるようにまっかなショウジョウトンボ。






ここにも何かいるよ~。




 ルリボシカミキリを見たことがある、という木立のなかでおべんとう。





 おにぎりを食べた後は、また虫さがし。
きょうはルリボシは見つからなかったけれど、
きれいな白紋があるシラホシカミキリが見つかった。

1,2センチの小さなカミキリ。




 このあたりはチョウの道になっているらしく、
クロアゲハ、キチョウ、アオスジアゲハ、ジャコウアゲハなどが、
樹上を飛んでいる。気温が高いせいか、飛び方がすばやくて写真が撮れず。




 草原には、4本肢が特徴のクロコノマチョウ。





うわっ、おっきなコスズメの幼虫。もう終齢かな。



 そう子ちゃんが見たかったトウキョウヒメハンミョウ。



 
 最後に森のなかのカフェで、冷たいものを飲みながら虫の話。
そう子ちゃんに一番好きな虫はなに?ときくと、
「ナナフシ」。
「どうして好きなの?」
「うーん、私みたいに動きがもったりしてるからかな」。

 

 楽しい一日でした。
そう子ちゃん、こんどは、私の好きなフィールドへ案内するね~。






 


 お知らせです。

カメムシ好きの私のバイブル『日本原色カメムシ図鑑』をはじめ、
虫関連の名著をたくさん出している全国農村教育協会から、
『虫目で歩けば』につづく2冊目の虫の本を出すことが決まりました!

 といっても出るのは来年の5月か6月。
今回のテーマは、虫と、虫をめぐる人と自然。
出版はまだまだ先ですが、制作のための取材はもうはじまっています。
 明日から、兵庫県赤穂のアース製薬有吉さんと、
大阪市立自然史博物館を訪ねる取材旅行にいってきます。

 赤穂では、ゴキブリ100万匹だけでなく、
自分の好きな虫も合わせて90種もの虫を飼育している有吉さんの案内で、
飼育棟を見学したり、また、風光明媚な海と深い森に囲まれたアース製薬ビルのまわり、
赤穂城址や神社などを観光しながら、虫を探そうという計画。

 大阪市立自然史博物館では、今特別展として『のぞいてみよう、ハチの世界展』を開催中。
ハチやテントウムシの研究をしている学芸員の方にお話を伺うのが楽しみです!
 










「日本語表記の多様性」と「虫の多様性」には深い関係が?!―『大人になった虫とり少年』を読んで

2012-07-17 10:21:58 | 日記


                           キベリクビボソハムシ。きのう、川崎の霊園で。






 この時期は虫関連書の出版がつづいて
なかなか買うのが追いつきません。
まだ購入していなかった『大人になった虫とり少年』を
編著者の宮沢輝夫さんより、お送りいただきました。


1日一回、3日間繰り返して3回読んだところです。
そのくらい、深くて、意外な事実が随所にあり、心躍る本なのです。
 
 帯にあるように『虫を愛し、虫に学んだ人たちの
昆虫文化史とも言うべきドキュメント』なのですが、
養老孟司から、山本東次郎、奥本大三郎、海野和男、
白川英樹、岡田朝雄、中村哲、藤岡知夫、福岡伸一、
北杜夫、茂木健一郎へと、昆虫少年の系譜をたどった、
自身も虫好きの編著者による、
昆虫少年という文化を追求した渾身の虫書です。

 虫好きにとって見上げるしかない、
遠い神様ともいえる存在であるような方々ばかりが取り上げられているのは、
決して、その名前の大きさだけによるものではなく、
必然性のあるラインナップである、ということが読んでみるとわかってきます。



 プロローグに登場する、
日本在住のアメリカの詩人、アーサー・ビナード氏の、
日本語が母国語ではなく、かつ日本語に堪能な外国人虫好きならではの、
日本語と、日本人に虫好きが多いことの関係についての指摘に、
へえーっ、とまず驚かされました。
 「二十歳過ぎて日本語という言語にひかれて夢中になったのは、
子供のころ昆虫に夢中になっていたこととつながっている」、というのです。

 日本語のネイティブである日本人にはなかなかわからないことですが、
ビナード氏によると、「日本語の文字はすさまじい多様性をもっている」、と。

「表音文字と表意文字があって、佃煮にするほど文字がいっぱいある」、と。

「それが昆虫の世界の無限の多様性と似ている」、と。

 「昆虫の好きな人じゃないと、その多様性に圧倒されて、逃げ出したくなってしまうだろう」、と。

「何万文字もある漢字、象形や指事や会意の六書、楷書、草書など、無限にある表記の可能性とかなり類似している」、と。

 氏によると、「昆虫が好きな人は漢字も好きなのじゃないか」、と。

 一方、「アルファベット26文字の世界にいる欧米の人たちに日本ほど昆虫少年がいないのは、もしかしたら、アルファベットの有限の世界に関係があるのかもしれない」、と。

 どの指摘も、今まで考えてもみなかったことばかりで、まさに瞠目。
そもそも、日本語の表記は、世界の言語のなかでそんなに多様だとは、
比較言語学をやっている人でもなければ認識したことすらないのでは?
とかく一般日本人は、外国人からいわれる日本語の特徴をそのまま鵜呑みにして
コンプレックスさえ感じている。
主語がはっきりしないで、言いたいことがあいまいだ、とか、
まるで劣等言語のように感じているのではないか。

 アルファベットは26文字でいいからうらやましい、とか
日本語の表記は雑多すぎて、デザイン上美しくない、とか、
どちらかというと、デメリット面ばかりに目が行ってしまっているような気がします。

 ところが、この悪い面ばかりだと思っていた表記の多様性というのが、
虫を好きになるということと、結びつくのではないか、というのですから、
なんだか、座って読んでいたのが、立ち上がりたくなるほどの衝撃でした。


 亡き北杜夫さんを昆虫の世界にのめりこませた年上の虫友、「フクロウ」こと橋本碩氏との、
60年ぶりの再会(編著者宮澤氏が奔走して実現)記は、静かに熱く感動的。


 「昆虫少年の系譜」の後にある手塚治虫の弟、「昆虫採集のライバルは弟だった」と兄にいわせた手塚浩氏による、
「兄テヅカヲサムシが見た風景」は、さまざまな虚像に彩られた、
かの手塚治虫の実像がかいま見れられて、ことに面白かった。

 また、なんでも脳に結び付ける人だなあ、と(笑)、あまりいい印象をもっていなかった茂木健一郎さんについては「少年ゼフィリストだった頃」を読んですっかり見方が変わった。
特に213ページの、茂木氏が憧れの日高敏隆先生とコスタリカ採集旅行をした際に撮られた1枚の写真には、ホント???、と何度目をこらした。

 椅子に座られた日高先生の前を、チョウを追いかける茂木氏が写っている。
2008年の写真だから、もちろん茂木氏は立派過ぎるほど大人なのだけれど・・・・・
写真の茂木氏は、どう見てもチョウを見つけて無心に駆け出した子どもに見える。
時空を超えた「昆虫少年」の不思議な写真に何度も見入ってしまった。

 「私が子どものころには、どこそこには、○○チョウが腐るほどいましたよ」、というような、
今、そういわれてもな~、と感じるような懐古本ではありません。
 夏休みの昆虫少年、少女たちには少し難しいところもあるかもしれないけれど、
汗が流れるのも忘れてこんな本に読みふける夏休みもきっと忘れられないものになるのでは。
 虫が好きな大人にはもちろんですが、虫に夢中になるわが子の行く末がちょっと心配という、
昆虫少年少女のお父さん、お母さんにも、おススメしたい本です。





 







 



夢よ、もういちど

2012-07-04 22:32:52 | 日記
                   
                       オオトラフコガネの黒っぽい個体。6月の裏高尾にて。
 



 数年来の念願かなって、やっと見つけたオオトラフコガネにもう一度会いたい!と
翌週も裏高尾に出かけました。

 でも・・・・・・先々週見つけたいくつかの場所をくまなく探したのですが、
一頭も見つからず。
たった一週間のうちに、姿を消してしまっていました。
ああ、また会えるのは来年か・・・・・・・。

 オオトラフコガネの魅力って―
それは隅から隅まで、どっこも手抜きしていない感、といったらいいか、
職人さんが意匠をこらして丹精してつくりあげた工芸品のような
手の込んだ外見です。





顔は、こんな。



 オオトラフはもう見つからなかったけれど(どこへ行っちゃったんだろう?)、
ここ2週間くらいは虫が濃く、たくさんの虫が見られました。





これも見つけるとうれしいヒメアシナガコガネ。







 きょうは昼蛾がたくさん。

シロテンツマキリアツバ。



ミヤマキベリホソバか?



ヒロオビトンボエダシャク?



ヒトツメカギバ。



しぶーい装いはツトガの仲間。



スカシノメイガ。




交尾するギンモンカギバ。




キベリネズミホソバ。




ウスキツバメエダシャク。



おお! ジャコウアゲハに擬態しているというアゲハモドキ。
姿は似ているものの、飛び方がぜんぜんアゲハとは違うので、すぐにわかった。



ちっちゃくてもこっとしているアカイラガ。
以前見た幼虫はグミキャンディみたいだった。




そして、林道の針葉樹の幹に大発生したクスサンが!



「白髪太郎」の異名のとおり、青みを帯びた長い白髪がふわふわ、陽に輝いていた。
10センチ近くある。



道には脱皮殻やハイカーに踏まれてつぶれちゃったもの多数。



木の枝には、乱れ編みみたいな風雅な趣のある繭殻も。

成虫は開長10センチという大型の蛾。
クスサンって、いい名前だなあ。
クスの木につくから楠蚕。
語感に、いかにも深山に棲むっていう感じの静謐感があって。

 クスサンを見ていたら、久しぶりに篠田節子の処女作、『絹の変容』を読みたくなってきた。
虹のような神秘的な輝きをもつ幻の野蚕を、バイオテクノロジーで増やす女性研究家の話。





林道に沿って、サワサワと涼しげな音で流れる渓流がひやっとする風を送ってくる。
まさに天然クーラー。




流れるようなフォルムの、フタスジモンカゲロウ。




マルウンカ。



上にも下にもヒメツノカメムシ。



平地では、もうオトシブミの姿はほとんどみないが、
ここではまだ葉を巻く姿が。
これはヒゲナガオトシブミのメスか?



ヒメクロオトシブミ。



ハエだって、負けてない。

ヒラヤマシマバエ。



ハマダラミバエの一種。


眼が薄緑色。




トゲヒゲトラカミキリ。




8センチくらいのナナフシも。



高尾山といえば、ハナイカダ。




チャモンナガカメムシ。



この擂りガラス細工のようなのはアカアシカスミカメというカメムシの仲間。




幼虫もきれいだけれど、
成虫も幾何学模様を思わせる美しさ。



 6月って、いいな。
虫がいっぱい!


 それにしても、いま一番欲しいのは、
生態写真で検索できる蛾の図鑑。
ネットで検索していると、眼玉が干からびてしまう。
やっぱりページを繰って見渡せる紙の図鑑が欲しいのです。
6000種以上といわれる生態写真の蛾の図鑑をつくるのは
一生仕事になるかもしれないけれど、
だれか、つくってー!。