日中越境EC雑感

2008年に上海でたおばおに店を作るところから始めて、早もうすぐ10年。余りの変化に驚きの連続

「水煮三国志」と中国現地法人管理へのサジェスチョン

2006-09-28 | 中国関連書籍書評
 三国志、と表題にあるように三国志演義をベ-スにした中国の経営書です。2003年の夏に中国で発売され、ベストセラ-になっており、書店で題名を見て眺めた事があるのですが、私の中国語力で読めるわけも無くほっておいたところ、昨年日本で翻訳版を見て購入したものです。

 三国志の主な主人公達、劉備、諸葛孔明、曹操、袁紹、呂布等の人物が、現代の企業社会の出演者として、原本の性格に則って様々な活動を行い、脇役の参謀が経営者を指導する形で、企業経営に必要な事柄を解説するスタイルをとっています。

 内容的に読みやすく、一般的な経営書として読めるのですが、やはり中国人の書いている本ですので、特に人材マネジメント関連など中国的な部分も見られ、現地でマネジメントするには参考になる点もあります。

 董卓がマルチ商法の会社を経営し、呂布がその会社のトップセ-ルスマンなのですが、種を明かせば子会員を食い物にしている。こういう形態のビジネスは、エステ、フィットネスクラブ、生命保険、教育トレ-ニング等の業界で見られると書かれています。日本でも同じような面がありますよね、というか、目ざとい中国人はこういう商売をアメリカや日本から学んで直ぐに取り込んじゃうのだろうと思います。中国人の非常に強い拝金志向や、営業に優れた才能(プレゼン能力、根拠の無いはったり平然と示す等)を考えると、こういう商売は向いているのだろうと思います。当然本書の中では、このような事業は長期永続性は無いと記していますけど。

 社員の会社に対する意識として、会社は社長だけでなく自分達のものと考えている。給料と自分のキャリア形成という利益を獲得する為に社員は働いており、これらの保障が無ければ会社を辞める人が続出するという趣旨の事が何度か書かれています。社員向けのインセンティブとして、持株制度やストックオプションを取り入れている企業が多いと書かれていますが、実際に当地で中国人と接して話していますと、非常に有効な手段だと思います。

 中国民営企業に関しては(香港企業や台湾企業も同じ)、既に大企業と言える規模になりながら未だに家族経営の企業が多く見られます。日本でも、関西系の企業は上場企業でもオ-ナ-一族が支配権を離さない企業を良く見かけますが、同じようなカルチャ-があるようです。そして、老板(オ-ナ-)にならなければお金は稼げない、と大半の上海人が考えており、何と上海人の5人に一人が会社を保有しているそうです。人数的に是だけ多数のオ-ナ-がいる訳ではなく、大多数は会社勤めをしながら自分で小さな商売をしていたり、会社のお金を横領する目的で作ったりしているのです。ということは、自分が所属する会社が発展し、その発展に自分が貢献したならば、当然それに見合う報酬が欲しいというのが中国人社員の欲求であり、持株制度などは高いインセンティブになるのです。
 実際に私自身が会社を作ろうと計画していますが、パ-トナ-候補に考えている中国人は、その会社の株主になる事を要求してきています。当初どの程度渡すべきか、等については深く考えないといけないのですけど。

 日本と非常に異なるものに、「にんじんと棍棒による賞罰制度」(飴と鞭)、というもおがあげられています。マネジメントの成功要因として、①職務の権限範囲の明確な設定、②従業員の行動範囲の設定、そして③飴と鞭による管理があげられています。

 ①、②に関しても、一般的に日本企業は弱い部分です。稟議制度というのが日本独自のシステムなのか、海外企業でも同じなのか大いに疑問の残るところですが、日本企業の場合、会社の中の様々な部門が一体何をしているのか、また経営陣にsても何に責任を負っているのか不明なところが多くあります。欧米企業の場合、部門のミッションを定めてこの辺は明確にしていますので、そのミッションを達成する為に何をすれば良いのかを考え、それを部員にブレイクダウンしています。まぁ、会社の中には複数部門に輻輳する様な業務が多くあり、このようなあいまいな部分を旨く対応するのが日本企業の強みであり、部門や個人の責任範囲を明確にした場合、それ以外は何もしないというのが米系企業の弱みと言われていますので、システムの是非は簡単に言えないのですけど、中国では欧米スタイルの方が向くということですね。(問題は、米国企業ではマネ-ジャ-以上になると上記の部門間や、部員間の狭間の業務をフォロ-したりして、残業も厭わず猛烈に働くのですが、中国人管理者に同じ事を期待しても極めて難しいです)。

 ③の飴と鞭に関しては、中国以外ではマネジメント論として異論が多いところではないでしょうか。前職時代オ-ナ-社長から「管理職のしてはならない13の事(題名は性格ではないです)」を読めといわれたのですが、人を利益で操作するのは悪いマネジメントの典型とされています。しかしながら、中国において人事関係の本を読んだり、経営者の話を聞いていますと、結構極端な信賞必罰制度を採っています。ハイア-ルが典型でしょうが、中国人は性悪説の観点に立って人を見るようです。その辺日本人は甘いですよね。

 権限委譲。本の中では、劉備が呂布に会社を則られるという場面がでてきます(三国志演技の中でもありましたよね)。その原因として、呂布を支配下に置くための権限を捨ててしまい、権限放棄をしたからだとされています。中国人社員を中国責任者にしている(日本人総経理の場合にも)日系企業にはこういう事例が非常に多く見られます。
 権限委譲に辺り、①業務の目的・達成時期・達成後の評価、責任範囲の明確化と伝達、②定期的な文書、上司との面談による進捗報告を制度として実行する事、③業務の達成状況、管理状況、プロセスの評価、が必要とされています。経営管理の面で言えば当たり前の事なんですが、実は日本企業の海外オペレ-ションに関していえば、この点が非常に弱いです。
 欧州企業と米国企業では方向が違うのですが、内部統制や経営管理は基本的にファイナンス(財務・経理)が行います。欧州企業の場合、日本法人でも本国から派遣した人をCFOに於いています。一方米系の場合は日本人にCFO職を与えている事例が多いのですが、大企業でも年に1回2週間から1ヶ月、中堅どころだと四半期に一度本国の内部監査チ-ムが現地法人に出張してきて問題点を徹底的に洗い出します。中国に関しては、大陸中国人に経理財務の長を任せている外資系企業はおそらく日本企業くらいしかないのではないでしょうか(それでも大企業は日本人を派遣していますので、日本語の出来る経理財務系で使える人は極めて限られています。

 現地法人の業績は悪い、だけど何故悪いのか解らない、そういう声を非常に多く聞きますが、実際に現場にいけば経営陣が真面目に働いていない、不正行為が行われていてコスト高になっているとか、結構直ぐに解る物なんです。でも、本社側にこういう認識がない企業が多いですね。
 




水煮三国志

日本能率協会マネジメントセンター

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