昨年末に田中なみさんから寄贈いただいた本です。実は最初の方を読んで、なんじゃこいつは、と思ってほっぽって居ました。最近知財に関する書籍を別な方から寄贈いただき、その本を読んでから、このリバースイノベーション2.0を読み返して見ました。。
この本日本人が読むときは後書きから読むほうが良いでしょう。耳が痛いけどその通りだと思う人も多いでしょうし、著者は中国も日本も愛してくれているなと理解できます。 さて、リバースイノベーションという言葉を聴いたとき、単純にコピー屋の改良か、なにがイノベーションだと思いました。で、最近中国でよくいかける自画自賛本かと思ったのです。まぁ本質はその通りなのですがこの本では幾つか面白い視点があり、日本企業としては学ぶものもあると思いました。
・リバースイノベーションでは、新興国のボリュームゾーンの消費者をターゲットとして、品質や性能は必要最低限にとどめ、とにかく価格の安い製品を開発し、その安価な製品を先進国にも輸出、販売を拡大する。
-最先端ではなく最適な技術
-マス市場を背景とした、企業、行政、個人資本家たちの連携
-オリジナルではない、グローバルリソースからの価値創造
事例として、GE中国の研究開発拠点で作られた小型移動超音波診断機が大陸内だけでなく先進国に模範倍されるようになったというのが挙げられています。また、日本企業が捨てたVCDという技術を元に中国が実用化してアジア諸国に拡散したとの由。VCDは以前勧告や台湾でも見かけ、今でもベトナムにはありますね。中国発とは知りませんでした。
ファーウェイ、BYD、テンセントなどの中国企業のコア、発展の経緯を書いていますが、概ね中国企業は基礎研究開発力が弱く既存技術やグローバル連携、資金力の活用などを通じ商人的な視点で事業拡大を図っている。一方で、中国では少しでも儲かる分野とおもわれると新規参入者が次々に現れ、過当な価格競争になる為に研究開発に力を入れられないという、現地に居れば良く見かける社会構造なども説明されています。
最後の方に、日中米の気質の違いを書かれているのですが、日本は職人、中国は商人、アメリカは異人としていますね。アメリカが必ずしもこの本に書かれる異人かどうかは疑問に残りますが、日中については非常に的確です。 日本は簡単なものでも究極を追求する職人精神があり勤勉ではあるがえてして独りよがりの過剰品質を生み出し、真の顧客価値に結びついていない。一方、中国は顕在化したニーズを捕まえると手段を問わずいち早く市場に参入する。要は職人は「良いものが売れる」、商人は「売れるものが良い」と考える。アメリカの異人は世の中を驚かせるものが良いと考える。
日本と中国の現在、及び将来の課題についても、国民の平均年齢、企業幹部の年齢〔日本は高齢化しているのでイノベーションができなくなっている)から、中国のコピー文化によるソフト系の開発レベルが進まない事、詰込教育により創造性を阻害している事などの課題も指摘しています。 結論的には日本の職人気質、中国の商人気質、アメリカの異人?気質をあわせることが必要だって指摘されています。その通りですね。
本書の中でファーウェイがかなり取り上げられています。ファーウェイは中国企業で、もともとはシスコのコピーメーカーに近かったし今でもコピッていると思いますが、中国起業にしては珍しく研究開発費を売上の10%近く投資しているようですね。この企業のCEOが日本に学んでいるという話も紹介されていますが、常に危機感を忘れていない凄い方のようですね。こういう経営者は中国でもどんどん出てきており、皆若い。そういう意味では中国企業の今後の活躍は脅威でもあります。
でもこの本読んで思ったことは、自省をこめて日本に対する指摘はその通り。私も中国の市場は富裕層しか対照にならない、農民向けのサービスなんて金にならないと10年前に考えて、そう発言していました。でも、それは誤りだったのかも。
・職人気質もいいけど、マス市場で売れるものを作るという発想が必要ではないか。
・日本の商品は途上国では富裕層にしか受け入れられない。これは本当なのか?その努力を怠っていただけじゃないのか。
僕が農民向けの市場なんて考えられないといってから11年。当時の中国のGDPは日本の1/3。上海には確かに富裕層は居たが、日本の給与は彼らから見れば夢のように高かった。今はGDPは日本の3倍。どうレベルの学歴や能力だと中国企業のほうが世代によっては所得も高い。
尖閣以降中国からと何アジアに出て行った日本企業の多くから、東南アジアは市場としてまだ早いと聞きます。確かにそうかも。でもインドもいずれ中国に近くなるとしたら?アジアの時代が本当に来るか個人的には疑問を持っているけど、もしそういう時代になった時、市場を席巻しているのは日本企業ではなく、中国企業になっているのじゃないだろうか。
日本は世界のごく一部のお宅系の消費者向けの商品しか供給できなくなるんじゃないだろうか。それはそれで一つの生きる道だとは思うが、それで国家の繁栄を維持できるのか。リバースイノベーション2.0というタイトルに関しては、え?とも思いますが、この途上国のマス市場を狙う製品開発。そしてその製品を販売するマーケティング能力。日本に欠けているというよりは、単に馬鹿にしてやっていないという気もするだけに、複雑な気持ちで読ませていただきました。
最後に、田中さんありがとうございました。