亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」

マクロな要因が影響を及ぼす金(ゴールド)と金融の世界を毎日ウォッチする男が日常から市場動向まで思うところを書き綴ります。

FRB副議長のハト派的発言に政治リスクの高まり、金は続伸

2018年11月19日 13時16分47秒 | 金市場
週末11月16日のNY市場の金価格は、続伸となった。米連邦準備理事会(FRB)のクラリダ副議長がこの日シンポジウム出席の際に米CNBCテレビのインタビューで、米国の利上げサイクルが終盤に来ている旨の発言をするとともに、「世界経済が減速している証拠はある」と発言。米長期金利が大幅に低下、ドルも全面安状態となり金市場はNYの時間帯午前を中心に買いを集めることになった。また英国の欧州連合(EU)離脱を巡る不透明感やここにきて米国サイドからの中国非難の声が通商分野のみならず広がりを見せており、地政学リスクの高まりも金価格を押し上げた。

NYコメックスの通常取引は、前日比8.00ドル高の1223.00ドルで終了となった。3営業日続伸で週間ベースでも上昇となった。もっとも、ドルが全面安とはいえ下げ幅は限定的で、ドル指数(DXY)は昨年6月以来の97ポイント台から下落したものの、96ポイント台半ばを維持しており、ドル高に対する金市場の耐性を感じさせる展開といえる。

クラリダFRB副議長の発言は、同議長がこの8月に米上院で承認されたばかりで、初めての公の場での発言ということもあり、材料視されやすかったといえる。同議長は、景気を過熱も冷やしもしない政策金利の水準を意味する中立金利について、現在の政策金利の水準が中立金利に近づいているとの認識を示した。FRBが中立的な水準とみなす2.5~3.5%に近づく現在、「特にデータに依存する必要がある段階にさしかかっている」ことから、動向を厳密に注視する必要があるとした。さらに冒頭に示したように世界経済の減速にも言及、市場はハト派的な発言と受け止めた。この日、ダラス地区連銀のカプラン総裁もメディア・インタビューで、来年はトランプ減税の効果が薄れるほか、世界的な経済情勢が減速するなど向かい風にさらされるとの見通しを示している。

14日には、パウエルFRB議長もダラスでの討論会で景気リスクとして貿易摩擦に触れ、米国の対中制裁関税の対象が広がれば「物価上昇と成長減速に見舞われる恐れがある」とし、「世界経済に成長鈍化の兆しが出ている可能性があり、懸念している」としていた。同議長から、このような慎重発言はここまでなかったことから、注目を集めていた。16日のクラリダ副議長らの発言に市場が反応したのは、先行した議長発言が伏線になっていたと思われる。

伝えられているようにパプアニューギニアで開かれ11月18日に閉幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、同会議として初めて(1993年より開催)首脳宣言で合意できないまま閉幕した。米中間の確執の高まりから、基本的な合意文書の作成すらできなかったとされる。背景には、ここにきて米国の対中強硬スタンスが通商分野のみならず安全保障から中国の内政問題まで一気に高まりを見せていることがある。10月4日ペンス副大統領がハドソン研究所において、非常に厳しい中国批判の演説を行い世界中の注目を集めたが、メディアでは「静かなる宣戦布告」との表現も見られている。そのトーンのまま、今回の会合に臨んだのがペンス副大統領であり、中国も譲ることはなかったようだ。国際政治は、ますます不安定化の方向にある。


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