亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」

マクロな要因が影響を及ぼす金(ゴールド)と金融の世界を毎日ウォッチする男が日常から市場動向まで思うところを書き綴ります。

金市場、先週末のショートカバー・ラリーはダムの壁の“蟻の一穴”か?

2018年08月27日 23時38分52秒 | 金市場
NY時間の24日午前10時に始まったパウエルFRB議長の講演は、当日のここに書いたように想定されていたよりも「ハト派的」との受け止め方が広がり、債券市場では米国債が買われ米10年債の利回りは低下、為替市場ではドル売りが加速し、ユーロドルは8月2日以来となる1.16ドル台中盤まで上昇した。

この中で、金市場は買い優勢の流れに転じ、徐々に水準を切り上げていた。そして、NYの通常取引開始後に1200ドル台を回復。1205、1210ドルと節目を突破しながら1215.40ドルの高値まで買われることに。その後は、さすがに売り買い交錯状態の揉みあいとなり、そのまま19.30ドル高の1213.30ドルで終了となった。そして本日の市場に引き継がれている。

債券市場では米国債が買われ米10年債の利回りは低下した。講演前の2.845%から講演後は2.82%まで低下、そのまま2.816%で終了した。長短金利差は、ついに0.2%割れとなった。

金利低下に呼応するように為替市場ではドル売りが加速し、ユーロドルは8月2日以来となる1.16ドル台中盤まで上昇した。

講演は、基調として米国経済について強気見通しに変化は見られなかった。内容については、ニュースベンダーが伝えるもの以上に、景気拡大が続き失業率が低下しながらも、インフレ率の上昇が見られない状況などについての分析など、まさに経済シンポジウムでの講演だった。市場がもっぱら注目し反応したのは、こうした点で、インフレの加速が見られない以上、利上げの加速もなく、そもそも利上げ自体の必要性も限られるのではということになった。

6月のFOMC(連邦公開市場委員会)で示された経済見通しにて、政策金利(FFレート)の長期見通しが2.9%(中央値)となっており、このままのペースでは来年前半にもこの水準を超えることになる。仮にインフレが加速しない場合、来年には利上げ打ち止めということになる。

実はこうした見方は以前から一部で指摘されてきたこと。ここにも、書いて来た。FOMCでも長短金利差の縮小(10年と2年の国債の利回り格差)を問題視し、利上げに慎重スタンスを唱える参加者も数名存在していた。ただし、金市場での主力プレイヤーであるファンドは、足元で発表される指標の良さにもっぱら着目し、ドル高(ドル買い)、長期金利高(米国債売り)、金安(金売り)の取引を機械的に積み重ね、金は1200ドル割れに至った。

その結果、NY金先物市場では過去最大の空売り(ショート、売り建て)が積み上がり、8月14日時点でついにロング(買い建て)を上回りネット・ショート(売り越し)状態に。ロボットは、やりすぎた。


先週末に発表されたデータ(21日時点)では、さらにショートが増加。グロスでは691トン(オプション取引を除く)とさらに記録を更新。売りも売ったり、という印象。先物市場ゆえに、買戻しで決済されるもの。その一部が、パウエル講演を受け、買戻しされ、価格の急反転となった。

総じて言えば、強気な内容に身構えていた市場に対し、内容がそれほどでもなかったことが、金市場ではダムに例えると(過去の例からは)満杯まで溜まった「ショート」という水があふれ始めたというところか。ダムの壁の“蟻の一穴”が、今後、どうなるか。

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