アル中雀の二枚舌

アル中、ヘビースモーカー、メタボで脂肪肝、おまけにトドメの脳出血&片麻痺──現在、絶賛断酒中。そんな中年男の独り言

アル中文学

2013年09月07日 01時27分31秒 | ミステリー
そもそも、そのような物が有るのかどうかはさておき、アル中が主人公のお話は、海外物のミステリー・サスペンスには、よく出てくる。
映画でも勝新が主人公を演じた「酔いどれ医者」――だっけか? ――みたいのがあるし、
でもその中で私が胸を張ってお奨めしたいのは「燃える男」A.J.クィネル著 集英社文庫
映画化されているけれど、映画は糞なので見ないほうがいい。ここからはちょっとネタバレありのあらすじ。

主人公のクリーシィは、外人部隊で勇名を馳せた傭兵。歳をとり、アル中となっていたクリーシィは昔の友人の紹介でイタリアで富豪の娘のボディガードと言う仕事に付いた。
平穏な暮らしをしていたある日、娘が誘拐され惨殺された。
犯人に撃たれ重傷を負ったクリーシィは友人の家(マルタ島だっけ)で、傷を治し、もう一度戦えるようトレーニングして、復讐に立ち上がる。この誘拐で1リラでも手に入れた人間は全て殺す。と宣言して、イタリアのマフィアと一人で全面戦争を始めるのだ。
最終目標はボスのなかのボス、カンタレッラ。

このお話は二部構成になっていて、前半は娘が誘拐されるまで、後半は誘拐の後、復讐に立ち上がりそれを遂げるまで、となっているのだが、前半、無口で無愛想なクリーシィに娘が色々と話しかけ、徐々に仲良くなっていくシーンは良い。その娘のために、アルコールをやめて、トレーニングを再開するクリーシィ、が運命はクリーシィの復調を待ってはくれなかった。
――ここは完全にネタバレ――誘拐の実行犯はボディガードは老いぼれの役立たずだと聞いていたので、銃を空に一発撃って脅すだけでいいと思っていたのだが、クリーシィは犯人の一人を射殺し、もう一人に撃たれる。
そして後半は、クリーシィの交友関係を上手く使った、武器の入手とか――バズーカ砲に手榴弾、イングラム、パラシュート等等。
淡々と復讐は続いていきやがて……
お奨めの一冊です。しつこいようだけど映画は糞なので見ない方が良いです。

ちょんまげぷりん

2010年11月22日 21時08分42秒 | ミステリー
荒木源著小学館文庫
拙者、日曜に江戸に行ったんでござる。手持ちの本が読みかけだったので、行きの新幹線で読み終わっちゃったんでござる。で、駅の売店で買ったのがこの本だったのでござる。
これが、もう愉快なこと至極で、夕べは寝るのももったいないと、今日も読み続けて、久々の一気読みでござった。税込み六百円の元は十分に取り申した。
まあ、読み終わった後、こんな風に侍言葉になる恐れは十分に、というか確実にあり申すが、これはもう、超絶的お勧めの文庫にござる。
映画のほうは見ていないので、なんとも言えませぬが、まあ原作がここまで面白ければ、いい映画だと思われるでござる。
奇想天外なお話と、荒唐無稽の展開、最後はまさかの大どんでん返し。拙者、思わず大人の男子としてあるまじきことに、泣きそうになったのでござる。
文庫の序文より――古来、神隠しに逢いたる人多し。されど神の国のわざを持ちかえりたる者はまれなり。

狩りの時

2010年06月06日 20時55分48秒 | ミステリー
狩りの時 スティーブン・ハンター著 公手成幸訳 扶桑社ミステリー
「極大射程」から始まった、長ーいスワガーサーガの最後の一冊です。
時系列的には前作「ブラックライト」の前になるのかな、じゃなくって、「47人目の男」「黄昏の狙撃手」の前だ。最新刊は「黄昏の…」ですが、個人的に読んだ順番で、この本が最後になるので――ひょっとしたらまだ続くかも……
「黄昏の…」も良かったけれど、対戦車ライフルって、第一次大戦の遺物かと思っていたので、べつにスワガーがそれでヘリコプターを撃ち落としたって、ふ~ん、って感じでした。まあ、読んでいて、展開が解ったし。
この「狩りの時」は、ストーリーが入り組んでいて、冷戦やベトナム戦争、といった過去の出来事がリアルタイムで語られるので、ちょっとした歴史絵巻です。人によっては読むのが辛いかも。
「極大射程」で、このシリーズにはまった人なら、多分面白い。
ロシアの狙撃手との雪山での一騎打ちは、映画版の「極大射程」は、これを意識して作られたのかな、と思わせる面白さです。
そしてクライマックスでボブが放つ最後の一発は、読んでいて震えました。
筆者のハンターさんが後書きにしつこく史実と違う点や、ハンターさんは海兵隊員じゃなく陸軍の儀仗兵だったので、実戦経験もない、ということを言い訳していますが、どうせこれを読む、大半のミステリーファンも私も、兵隊の生活なんぞ知りませんし、なんとなく雰囲気が楽しめれば良いんですから。細かいことを気にせずに、ボブ・リー・スワガーという天才狙撃手の冒険譚を楽しみましょう。
個人的には、超オススメの一冊です。

名探偵モンク

2008年04月08日 19時51分53秒 | ミステリー
「モンク、消防署に行く」リー・ゴールドバーグ著 高橋知子訳 ソフトバンク文庫

(裏表紙の解説から)
潔癖性、強迫神経症、高所恐怖症……妻を何者かに殺害されて以来、あらゆる神経症に悩まされる休職中の刑事モンク。が、捜査の腕は超一流、次々と難事件解決の依頼が持ち込まれる。少女に依頼され、モンクは消防署の犬を殺した犯人を追うが、やがて同じ夜に起きた不審な火事との接点に突きあたる。型破りの天才探偵が、オリジナル小説版で登場!

NHKBSで、毎週火曜日(そういえば今夜ですね)の夜11時から放送中の「名探偵モンク」が、小説になりました。
テレビを観たことのある人なら、あの奇妙な天才探偵のことは、忘れられないキャラクターとして憶えていることでしょう。

その小説版として、実は本国(米国)では、すでに5冊も出版されているそうですが、日本ではこれが初お目見えです。
――それしても、ソフトバンクは出版にまで手を出しているんですね。関係有りませんが……

実はそんなに期待していなかったのですが、読み始めたら、すんごく面白くて(テレビでキャラクターを知っていることも手伝って)一日で読み終えてしまいました。

モンクの助手であるナタリーの視点で書かれているのも、モンクの奇行ぶりを面白おかしくする要素となっているようです。

ともかく、何度もお腹を抱えて笑い転げながら、読み終えていました。
ただ、ラストのどんでん返しは、オマケとしては笑えないものでしたが……

ともかく、今まで色んなミステリーを読んできたけれど、一行で事件を解決してしまうのは、初めてだと思います。
もちろん、我々にも(ナタリーにも)分かるように、その後でちゃんと説明をしてくれます。

いや、ともかく犬殺しを解決するために、何件の殺人事件を解決したのか、憶えていられないほどです。
とくに、警察署で未解決事件のファイルをざっと読んだだけで、全部の事件の犯人を言い当ててしまうところなんか、凄すぎです。

それに、クライマックスで、事件解決に行き詰まった時のシーンでは、思わず涙してしまいました。
我知らず、ナタリーワールドに引き込まれていたようです。

久しぶりに、人に胸を張ってお勧めできる、上質のミステリーに出会った気分です。
BS放送を見られる人は、火曜夜のドラマも是非!

MIDNIGHTⅠ

2007年06月07日 23時32分02秒 | ミステリー
「FOUR PAST MIDNIGHTⅠ ランゴリアーズ」 スティーブン・キング著 小尾美佐訳

(裏表紙の解説から)
――真夜中のジャンボ機――眠りから覚めた者たちを驚愕が襲う。たった11人を残し、他の乗客がみな消えているのだ。しかも眼下にあるはずの街まで……想像を絶する危機と戦う男女を描く表題作。盗作疑惑に追いつめられる作家の物語「秘密の窓、秘密の庭」。
中編集と称しながら、実は長編二本分の分量の作品を収録した贅沢な一冊。

キングの作品は、ともかく絶望的な状況から、さらに追い打ちをかけて、どんどん落ち込んでいく、さらにこれでもかと、どん底に突き落とされる――そんなイメージがあります。

――ここからネタばれ――

とりあえず、「ランゴリアーズ」は、タイムスリップと、世界を喰い尽くすクリーチャーなどが出てくる、作品ですが、一応、ハッピーエンドです。
キングにしては珍しい展開です。
映画化もされているようなので、気が向いたら観て下さい。

「秘密の窓、秘密の庭」は、自己崩壊していく作家の物語です。
テーマは剽窃です。ようするに盗作ですね。
なかなか興味深い作品でしたが、キングにしては、イマイチのエンディングでした。

キングの自伝「死の舞踏」でも、書かれていますが、キングがコカイン中毒だった頃に書かれた作品とは違って、まともな小説です。

面白くて、眼が離せない作品であることは間違いないのですが、キングオブダークネスと呼ばれていた、全盛期の、読んでいて背筋が凍るような恐ろしさは無くなっています。

そもそも、キング作品で、それなりにハッピーエンド、というのが、何か違うなぁ――と感じてしまいました。

まあ、それでも「FOUR PAST Ⅰ」なので、続きの作品も読んでみたいと思います。

FBI心理分析官

2007年03月10日 16時28分03秒 | ミステリー
異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記
ロバート・K・レスラー&トム・シャットマン著 ハヤカワ文庫

(裏表紙から)
被害者の血を飲む殺人鬼、バラバラにした死体で性行為にふける倒錯者、30人以上を殺害したシリアル・キラー……異常殺人者たちを凄惨な犯罪に駆り立てたものはなにか? FBI行動科学課の特別捜査官として数々の奇怪な事件を解決に導き、「プロファイリング」という捜査技術を世界中に知らしめて『羊たちの沈黙』や「X-ファイル」のモデルにもなった著者が、凶悪犯たちの驚くべき心理に迫る戦慄のノンフィクション!

この本はミステリーではなくルポタージュです。前半は事件の発生から現場や被害者の状況の分析、犯人像を心理的に推定するプロファイリング、犯人の逮捕、といった一連の流れが、進行形で語られます。
無論実話なので、圧倒的な迫力で読み応えのある内容となっています。
中盤からは犯人像のタイプ分析が解説されています。
これを読むと、例えば幼女連続殺人犯の宮崎勤は秩序型の犯人で、小学校乱入事件の宅間守は無秩序型の犯人だということが分かります。
また、こういった犯罪者は更正することはなく、社会に出ればまた同じ犯罪を、より巧妙にエスカレートさせて繰り返す、ということも書かれています。

この本はミステリーマニアなら、一読して損はない、そんなノンフィクションです。

名もなき毒

2007年01月17日 16時48分28秒 | ミステリー
宮部みゆき 著 幻冬舎
どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。それが生きることだ。財閥企業で社内報を編集する杉村三郎は、トラブルを起こした女性アシスタントの身上調査のため、私立探偵・北見のもとを訪れる。そこで出会ったのは、連続無差別毒殺事件で祖父を亡くしたという女子高生だった。

前作「誰か」に続く、現代ミステリーです。主人公は同じですが、今回は連続無差別毒殺事件と、トラブルメーカーの元編集アシスタントとのからみで事件が展開していきます。
このなかで語られる毒とは、青酸カリであったり、土壌汚染物質であったり、あるいは人の心のなかに潜む毒であったりします。
これはミステリーの形をとりながら、現代社会に潜む様々な毒の存在をあぶり出す作品であるといえるでしょう。
読者に、登場人物の危うさや、不安感を感じさせつつ、一気に読ませる描写力は、さすが宮部みゆきです。
さらに扱っている事件の割には、重たくならずに軽快に読み進めることができることも、宮部作品の特徴でしょうか。
宮部みゆきが嫌いでない方には、割とお勧めの一冊です。

しゃばけ

2007年01月05日 18時12分30秒 | ミステリー
畠中 恵著 新潮文庫
(背表紙の解説より)
江戸有数の廻船問屋の一粒種・一太郎は、めっぽう体が弱く外出もままならない。ところが目を盗んで出かけた夜に人殺しを目撃。以来、猟奇的殺人事件が続き、一太郎は家族同然の妖怪と解決に乗り出すことに。若だんなの周囲は、なぜか犬神、白沢、鳴家など妖怪だらけなのだ。その矢先、犯人の刃が一太郎を襲う…。愉快で不思議な大江戸人情推理帳。日本ファンタジーノベル大賞優秀賞。

「しゃばけ」とは、娑婆気と書き、俗世間における、名誉・利得などのさまざまな欲望にとらわれる心。(国語大辞典『言泉』小学館より)

日常生活のなかに、ごく当たり前のように妖(あやかし)がいる、という設定で物語は進行します。人と妖の感覚の違いや、江戸有数の大店の病弱な一人息子と、息子を溺愛する両親。菓子屋の跡取りの親友などが登場し、軽快で面白おかしく謎解きを楽しめる作品です。

難点をあげるとすれば、最期の対決はもうちょっと盛り上げてもらいたかったかな。

ちょっと変わった時代物であり、面白おかしい妖怪話でもあり、肩の凝らないライトミステリーとして楽しめる一冊です。

プレイ──獲物──

2006年12月23日 14時33分55秒 | ミステリー
マイケル・クライトン著ハヤカワ文庫上下巻

(上巻裏表紙の解説から)
失業中のコンピュータ・プログラマーのジャックは、ナノテク開発に関わるハイテク企業ザイモス社に務める妻の異変に気づいた。性格などが、まるで別人のように一変したのだ。さらに、末娘に原因不明の発疹が出たり、不審な人影が出現するなど不可解な出来事が相次ぐ。おりしもザイモス社では異常事態の対処に追われていた。軍用に開発したナノマシンが、砂漠の製造プラントから流出し、制御不能に陥ったというのだが……

クライトンといえば映画の「ジェラシック・パーク」や「タイムライン」、テレビシリーズの「ER」の原作者であり、面白さは折り紙付きの作家です。
この作品は原子や分子のレベルで製品を開発するナノテクノロジーに焦点をあてて、新しいテクノロジーに潜む、恐ろしさを描いた作品です。

クライトンの作家デビュー作「アンドロメダ病原体」から変わらない、スピーディでスリリングな展開は、一度も飽きることなく一気に最後まで読破させる面白さです。

この作品はSFであり、ミステリーでもあり、またホラー的な要素も持ち合わせながら、家族愛をも描いている、第一級の小説だといえるでしょう。

クライトンを読んだことがない人にも、ぜひ一度お読み頂きたい一冊です。
ただ難点をひとつ上げるとすれば、ハーバート大学医学部出身のクライトンが描く世界は、時として難解な部分もあるということくらいでしょうか。

(下巻の裏表紙から)
ナノマシンには生物の〈捕食者ー被食者〉の関係がプログラムされていた。以前このプログラムの開発をしていたジャックは、事態収拾のためにプラントへと赴く。しかし、独自に開発されたナノマシンは、ウィルスのように自己増殖し始め、予想を遙かに上回る速度で進化を遂げていた。しかも野生化したそれらは、補食動物のように群れを作り人間を襲い始めたのだ! 人類の未来に警鐘を鳴らすハイテク・パニック・サスペンス

深川恋物語

2006年11月20日 17時05分20秒 | ミステリー
宇江佐真理著(集英社文庫)
江戸を舞台にした、六作の連作短編集で、第21回吉川英治文学新人賞受賞作。
どの物語にも、深い味わいの人情風俗と、切ないストーリーが描かれていて、紛れもなく作者の代表作でありましょう。

大店のお嬢さんがお仕着せの人生を捨て、真に愛する人と共に生きようとする――「下駄屋おけい」
互いを想う気持ちがすれ違ってゆく夫婦のやりきれなさ――「さびしい水音」
交錯する恋心に翻弄されていく男女四人の哀しみが描かれた――「仙台堀」

江戸・深川を舞台に繰り広げられる六つの切ない恋物語。

いつもはもっぱら海外物のミステリーばかり読んでいるのですが、たまにはこういう時代物にも手を伸ばします。
作者の宇江佐真理さんは、根っからの時代小説家なのか、こういう物語をかかせると、抜群の旨味を見せてくれる作家です。

この本の解説にも書かれていることですが、江戸物の人情風俗を書かせたら、右に出る物のない作者ですが、今まではストーリーに厚みがなく、いまひとつの感がありました。
でも、この本は、これまでの不評を吹き飛ばす面白さで、一気に読ませてくれる面白さがあります。

この本は、とくに女性に好かれるストーリーだと感じます。四季折々の江戸の風俗に加えて、登場人物達の織りなす人情や恋心といった人物描写は、切ないストーリーと相まって、飽きのこない物語となっています。
時代物やラブストーリーが苦手だという人にも、ぜひ一度読んで頂きたい一冊です。