モウズイカの裏庭2

秋田在・リタイア老人の花と山歩きの記録です。

ミヤマキンポウゲとシナノキンバイ

2022年01月06日 | 高山植物

白い花ばかり続いたが、高山植物には黄色い花も多い。
その代表として、今回はミヤマキンポウゲとシナノキンバイを取り上げてみる。

古い話で恐縮だが、2017年7月8日は岩手県の焼石岳(1548m)に登った。
いつもならこの山には岩手側の中沼から入るのだが、
この日は珍しく秋田県の東成瀬村から入山した。
前半はブナ林ばかりで視界が効かないが、八合目の焼石沼が近づくと、突然、このような花風景が展開した。


2017/07/08 焼石沼付近。バックは三界山。



2017/07/08 ミヤマキンポウゲの群生



 

一面に咲く小さな黄色い花はミヤマキンポウゲ Ranunculus acris var. nipponicus だ。
場所によっては、他の花も少し混じる。白はシロバナヘビイチゴ、紅紫はハクサンチドリだ。

2017/07/08



ミヤマキンポウゲ                                                                                                                            ハクサンチドリ
 



しかしミヤマキンポウゲの密度が濃いのには呆れてしまう。

この場所を私は勝手に「焼石のイエローガーデン」と名付けた(詳細はこちら)。


2017/07/08 焼石沼付近。バックは三界山。



焼石岳はこの場所以外、例えば銀明水付近にもミヤマキンポウゲは多いが、
ハクサンイチゲが群生する姥石平のお花畑には現れない。

この植物、姥石平のような乾き気味の風衝草原や稜線は苦手なようだ。
残雪が多く、常に水が供給される湿った斜面や窪地に群生する傾向があった。

2017/07/14 焼石岳銀明水付近のミヤマキンポウゲ



他の高山ではどうだろう。
鳥海山や月山にも比較的多く、主に雪渓に近い場所などに群生している。

2021/07/31 鳥海山滝の小屋ルート上部のミヤマキンポウゲ群生



2020/07/30 鳥海山千畳ヶ原のミヤマキンポウゲ




2020/07/30 ミヤマキンポウゲ、花のアップ




2021/06/30 月山のミヤマキンポウゲ




2014/07/05 八幡平藤七温泉付近のミヤマキンポウゲ



上の八幡平の写真をご覧頂くと、左上の方に大きめの山吹色の花が二輪ほど混じっている。

これは別種のシナノキンバイだ。

山を歩いていると、ミヤマキンポウゲをシナノキンバイと間違えている人がけっこう多い。
またネット上の山仲間からも、シナノキンバイとミヤマキンポウゲの識別ができないとの訴えをよく聞く。
どちらもキンポウゲ科で葉が裂け、花が黄色なので識別しにくいかもしれないが、
いくつかポイントを覚えておくと簡単だ。

花の大きさはあまり当てにならない。
何故ならば、ミヤマキンポウゲの花は径2cm前後と小さいが、
栄養状態が良いと、シナノキンバイと同じくらいの大きさで咲くこともある。

花の色はシナノキンバイの方が橙がかっているが、これも濃淡が有り、決定的ではない。
ミヤマキンポウゲの花を横や裏側から見ると、小さな緑色の萼がある。

ミヤマキンポウゲの小さな萼(がく) 
 
                                                                                                                         ミヤマキンポウゲのエナメル光沢


他には花弁にエナメルのような光沢がある点にも着目されたし。

ただし光沢は曇り日だとわかりにくい。

シナノキンバイの花を横から見ると、緑色の萼のようなものは無く、
いきなり橙黄色の花弁から始まっている。




しかしこれは花弁ではなく、萼が花弁化したもの。

この仲間の本当の花弁は退化して雄蕊のように見える(後述のキンバイソウを参照)。
なお萼は若い頃は緑色で、開きながら、徐々に黄色に変化し、やがて花弁そのもののようになる。

蕾と若い花

 


萼が花弁化するとは何事かと言われそうだが、キンポウゲ科の植物にはそれがやたらと多い。

クレマチスやアネモネの仲間(キクザキイチゲやニリンソウ、シュウメイギクなども含む)、
オキナグサ、トリカブト、ミスミソウ、クリスマスローズ、シラネアオイなども皆そうだ。

シナノキンバイに似た黄色い花ではリュウキンカも萼が花弁化している。

続いて東北地方の山でのシナノキンバイの咲き様を列挙しようと思うが、
昔の図鑑や山岳雑誌では、シナノキンバイはハクサンイチゲと並んで高山植物の代表的存在で、
一緒に並んで咲く様が紹介されていたように記憶している。

事実、北アルプスなど中部地方の高山に行くと、そのような生え方をしているようだ。

1993/07/16 白馬岳のハクサンイチゲ、シナノキンバイの混生



しかし東北ではそのような花シーンに遭遇したことは一度も無い。

ハクサンイチゲとシナノキンバイの分布マップ(東北版)を作ってみた。
両種の有無は、自ら登山してない山については、その山の高山植物を解説した先達の著書を参考にさせて頂いた。




するとハクサンイチゲの産する山は東北では意外と限られていることがわかった。
シナノキンバイはそれよりは多くの山に産するようだ。がいざ登ってみるとさっぱり見かけない。
これはたぶん登山道が偶々その生育地を通っていないからだろう。

ハクサンイチゲとシナノキンバイの両方がまともに揃っているのは、
東北では奥羽山系の焼石岳だけ。

しかし生育場所は別々なので、両方が混生する様を見ることは不可能だ。
焼石岳では先のミヤマキンポウゲが群生する焼石沼周辺の他に、南本内岳北斜面や銀明水付近でもちょくちょく見かける。

2021/08/05 銀明水上部の群生






八幡平もあちこちに生育しているが、何故か登山道沿いには非常に少ない。
南の大深湿原のものは小さな群生だが、木道近くなので見やすいかもしれない。

2018/07/14 八幡平大深湿原にて。ここではカラマツソウやコバイケイソウと混生していた。



2018/07/14                                      2018/07/31 古い八重花

 



2017年7月28日、私は北海道・大雪山に居た。

黒岳八合目付近で大きな群生に遭遇した。
しかしそれはシナノキンバイではなく、チシマノキンバイソウ Trollius riederianus だった。

この植物はかつてシナノキンバイ Trollius shinanensis /T. riederianus var. japonicus の母種と位置づけられていた。 
花柱の長さや竜骨の有無など微細な部分で識別するようで、パッと見でシナノキンバイと識別することは困難だ。

2017/07/28 大雪山黒岳八合目付近にて。チシマノキンバイソウの群生。



2017/07/28 チシマノキンバイソウ






最後にあまりいい写真ではないが、長野県・八子ヶ峰の高原で見たキンバイソウを。

2007/08/14 キンバイソウ。八子ヶ峰にて。



キンバイソウ(キリガミネキンバイソウ) Trollius hondoensis は一見シナノキンバイに似るが、

オレンジ色の細い花弁がオシベより長く突き出ている点で区別(外側の花弁のように見えるのは萼)。
中部地方から伊吹山にかけて分布すると聞く。

以上。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
迷える羊さんへ。 (モウズイカ)
2022-01-07 12:43:49
コメントありがとうございます。
お花畑は私も大好きですよ。
私が山に登る目的は春から初秋にかけては花を見ることです。
つらい登りでも花を見ると、元気が湧いてきます。
ただお花畑でいっぱい咲いていると、
そこにくぎ付けになって、撮影に没頭してしまい、
なかなか上に進まなくなります。
前作の「ハクサンイチゲがタクサン・・・」の鳥海山長坂道稜線などはその典型です。
おかげで鳥海山などは初夏、盛夏は途中のお花畑が終点になってしまい、
山頂を極めることはほとんど無いです(山頂まで行くのは毎年、花の少ない秋ばかり)。
お花畑で撮影し、それが見える岩の上で握り飯を食べる。個人的にはその時が至福の時です。
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お花畑は大好き (迷える羊)
2022-01-07 11:04:02
黄色い花は光の色、活力の色・・元気を奮い立たせる
エネルギーを感じるお花畑、苦しい山道を登ってきて
あぁ~~天国だぁ~と・・モウズイカさんは思うのですか?私は、いつか逝く天国がこうであれば怖くない気がします。
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ミルクさんへ。 (モウズイカ)
2022-01-06 19:54:36
コメントありがとうございます。
>まわりが白いこの時期に、黄色は元気が出ます♪
まさにその通りです。
北国に春を告げるマンサクやフクジュソウも黄色ですね。
あと二か月の辛抱です。
返信する
Unknown (ミルク)
2022-01-06 16:49:38
まわりが白いこの時期に、黄色は元気が出ます♪
焼け石岳は、1度だけ登りましたが、池の周辺の
お花はすごかったと、記憶しています。
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