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立憲民主党代表選で見るべきは「政治資金改革」の中身

2024年09月10日 | 社会・経済

 仮に枝野氏、野田氏なれば「後退」は確実だ 

政官財の罪と罰

古賀茂明

AERAdot 2024/09/10

 

 8月21日に枝野幸男・立憲民主党前代表が代表選出馬に名乗りを上げ、公約を発表してから約20日経過した。

 枝野氏の立憲民主党代表選挙の「政策骨子」は、A4判で5ページ。

 タイトルは、「ヒューマンエコノミクス―人間中心の経済」だ。

 教育投資・研究開発・地域経済・一次産業・エネルギー、雇用・賃金、社会保障・税、ジェンダー・多様性、外交・安保・災害対応・危機管理・選挙政治改革・行政改革という8本の柱からなる。

 このうち、今回は、最後の柱の中に掲げられている政治資金改革について取り上げてみたい。なぜなら、非常に心配な内容だからだ。

通常国会の提案より後退した、枝野氏の政策骨子

 立憲民主党は、今年の通常国会に、政治資金に関するほぼ完璧とも言える素晴らしい提案(法案提出)を行った。若手議員の頑張りによるところが大きい。

 ベテラン議員は、実は内容が行き過ぎているという不満を持っていたが、改革派の若手の勢いに負けて押し切られたという経緯がある。

 前国会での立憲の提案のポイントをおさらいしておこう。

 現在の政治の最も根本的な問題は、金をくれる人に便宜を図る「事実上の贈収賄政治」になっていることだ。その構造の大本を断つために、立憲は、企業・団体献金の禁止を提案した。

 また、自民党が裏金を作る元になった政治資金パーティーも、個人向けも含めて全面禁止とした。

 さらに、使途不明なまま二階俊博・自民党元幹事長が5年で50億円を受け取っていたことで有名になった政策活動費禁止も提案した。

 長年の懸案である、調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途の全面公開も求めた。

 一方、枝野氏の「政策骨子」に掲げられた内容は、これとは全く異なる。

 その提案を「政策骨子」から引用しよう。

  • 政治資金に関する透明性を徹底し国民による監視機能を強化するため、まずは少なくとも、国会議員関係政治団体における企業・団体献金と政治資金パーティーに関して、一円単位での公開を実現する。
  • さらに、政治資金収支報告に関る罰則の強化を含めた適正の確保と公開性の拡大、「政策活動費」や調査研究広報滞在費(旧文通費)の透明化、政治資金に関する第三者機関の設置、さらには企業・団体による資金提供の禁止を視野に、他の政党や国民世論に向けた働きかけを粘り強く進める。

 というものだ。

 何も問題意識を持たずにさっと読むと、企業・団体献金はいずれは禁止するのだと思ってしまう。しかし、企業・団体献金については、最初に「一円単位での公開を実現する」と書いてある。

 「視野に入れるだけ」の企業団体献金の禁止

  つまり、企業団体献金は認めるということだ。「まずは少なくとも」と書いてあるので、将来は禁止するのかと思うと、「禁止を視野に」としか書いていない。将来禁止すると明言していないのだ。

 さらに、驚いたことに、禁止を視野に入れて、「他の政党や国民世論に向けた働きかけを粘り強く進める」と書いてある。 約束しているのは禁止ではなく、それを「視野に」「働きかける」だけなのだ。これでは、禁止しなくても、働きかければ、この公約は実現したことになる。周到に逃げ道を用意したというわけだ。

 しかも、「国民に」粘り強く働きかけるという意味がわからない。国民は企業・団体献金の禁止に反対しているとでもいうのだろうか。

 枝野氏は、年によって、10万円から数十万円単位で複数の団体から献金を受けているようだ。これをやめたくないのだと勘ぐられても仕方ないが、そんなことのために大事な公約を捻じ曲げるだろうか。それも立憲が国会で正式に提案していた内容を大きく後退させるのはなぜなのか、大きな疑問だ

 次に、政治資金パーティーについての提案の後退はさらに深刻だ。「一円単位での公開を実現する」と書いたのは、企業・団体献金についてと同じだ。しかし、将来については、禁止の「き」の字も出てこない。禁止を視野に働きかけることもせず、一円単位の公開で終わり。パーティーはこれからも存続させると読める。

 立憲の提案は反故にされた。

  さらに「政策活動費」についても、立憲の提案では、禁止だったのに、枝野氏の公約では「透明化」だけ。つまり政策活動費は残すのだ。しかも、ここでは「一円単位の公開」という表現を避けている。抽象的に「透明化」という言葉にしたことは、曖昧な使途の報告で許されるような政策活動費の温存を狙っていると考えられる。

 政策活動費は、巨額の資金を政党からその幹部などに渡し切りで提供し、使途を明らかにしないものだ。枝野氏が代表になったときのことを考えて、これをもらいたいと考えていると取られても仕方ない。

 枝野氏は、非常に前向きに聞こえる言葉をちりばめているため、記者たちもよく読まないで、特に変わったことはないと判断してしまったのかもしれない。朝日新聞では、枝野氏の「立憲は政治腐敗を一掃する政党」だという言葉を引用して、「政治改革に取り組む姿勢を見せた」と持ち上げたほどだ。

 ここまで読んだ人は、枝野氏がとんでもない悪人だと思ってしまうかもしれない。確かに立憲の素晴らしい提案を骨抜きにしようとしているという点では、そうした評価を受けてもやむを得ない。

 古い考えに影響される候補者が生まれる「仕組み」

 しかし、もう少し考えると、より深刻なことが思い浮かぶ。

 それは、立憲で自民党と同じことが起きているということだ。

 自民党の総裁選では、8月6日配信の本コラム「自民、立憲ともに民意が反映されない代表選は変えるべき “時代を変えるリーダー”を選ぶ『4つ』の改善点」に書いた通り、総裁になるためには総裁選の決選投票(1回目の投票の上位2人で争われる)で勝つことが必要だ。

 最初の投票では、国会議員票と党員・党友票の割合が同じだが、決選投票では、党員・党友票は47都道府県ごとに集約されて、47票にしかカウントされない。したがって、1人1票で369票(8月20日時点)になる国会議員票の重要性が非常に高くなる。しかも、そこでは、なくなったはずの派閥がまだ影響力を持つと予想されている。

 そのため、候補者は、公約に自分の考えを単純に書くわけにはいかず、旧派閥のリーダーをはじめ、党内の有力者に媚びる政策を掲げる必要があるのだ。

 現に、河野太郎氏や小泉進次郎氏が脱原発の考えを封印している。石破茂氏が裏金議員の公認問題に触れた後に党内の反発を受けてトーンダウンしたとも伝えられる。

 立憲ではそういうことがないと思う人もいるだろうが、今回の枝野氏の政治資金に関する提案を見ると、きっとあの人に気を遣って立憲の本来の提案を後退させたのだろうなということが思い浮かぶ。

 例えば、企業・団体献金の禁止については、今も企業や団体からかなりの寄付を受け取っている大物政治家がいる。また、政治資金パーティーで資金を稼いでいる幹部もいて、実は、国会での立憲の提案を作る際に彼らはかなり強い反対をしていた。

 政策活動費についても、立憲の役員として活動する人たちが、ぜひ、そういう金をもらいたいと考えているのは想像に難くない。

 そういう古い考えに候補者が影響される理由は、立憲の代表選の仕組みにある。

 1回目の投票では国会議員(136人)に1人2ポイント、国政選挙公認予定者(98人)に1人1ポイント、地方議員(1236人)と党員・協力党員に各185ポイントが割り振られる。全体で740ポイントのうち、党員・協力党員の割合は、185/740で、たったの25%だ。自民党が国会議員票と党員票を同じ割合にしているのに比べて、非常に低い。

 過半数を取る候補者がなかった場合には、上位2人による決選投票になるが、票数の配分は、国会議員1人2ポイント、公認予定者1人1ポイント、都道府県連ごとに1人割り当てられる代表者が各1ポイントなので、計417ポイントのうちで1割ほどの都道府県代表者の47票の中に埋没してしまう。これはほぼ自民並みと言えるが、1回目と2回目を合わせた全体として見れば、一般党員の声が選挙に反映される割合は、自民党より小さいと言って良いだろう。

言いくるめが得意な「弁護士」枝野

 したがって、枝野氏としては、政治資金規制について、「行き過ぎた」と党の実力者たちの多くが考えている立憲の前国会での提案をそのまま書くことはできず、大幅に後退させた内容を書かざるを得なかったというのが私の推測だ。

 そして、後退した内容を後退していないように見せかけて表現したのだが、そこは、「弁護士」枝野の面目躍如。狙い通り、記者会見でも、批判的な質問は出なかった。

 同じく代表選に立候補表明している野田佳彦元首相は、9月5日になって、「政権交代前夜」というタイトルで公約を発表した。そこには、いかにも立憲の提案を守るような言葉が並んでいるが、この人もまた人を言いくるめるのが得意な人だ。

 そう思ってよく見ると、ここにもおかしな言葉が紛れ込んでいた。それは、政治資金パーティーについてだ。「企業・団体によるパーティー券購入の禁止」とある。つまり、個人向けの政治資金パーティーは残すということだ。しかも、そこには括弧書きで、「(まずは、徹底的なガラス張り化)」とある。なんのことはない。企業団体向けのパーティーも当面は残すということを「ガラス張り化」という前向きな言葉を使って間接的に表明している。

 これもかなり手の込んだ詐欺的手法だ。この点は、実は、記者会見でバレてしまって、立憲の提案を後退させたことを認めざるを得なかった。

 泉健太代表も立候補に漕ぎ着けたが、これまでの実績から見ると、党内実力者から独立して政策を遂行する力はなさそうだ。

 最後に告示日当日に江田憲司氏の支援を受けて立候補した吉田晴美氏は、4人の候補者の中で最も政治資金改革に前向きな候補であるとみられる。

 ただし、次の立憲代表として有力なのは、枝野氏か野田氏だというのが一般的な見方のようだ。仮に、この二人のうちのどちらかが代表になれば、前に見たとおり、政治資金改革は、「確実に後退する」。そうなれば、来るべき総選挙において、自民党を厳しく追及することができなくなるだろう。

 推薦人集めで苦戦して立候補を断念した江田憲司・立憲元代表代行は立憲の本来の提案を守る姿勢を見せていただけに、こういう候補が立候補できないという今の立憲の代表選のルールは極めて大きな問題であることがあらためて証明された。

 推薦人20人というハードルを下げることを頑なに拒否し続けた立憲幹部たちは、実は、この問題で立憲の国会での提案を「リセット」するために、20人を維持しようとしたのではないか。そんなことまで考えさせる、ここまでの展開だ。

 マスコミは、立憲の政治資金改革の提案がどうなるのか、また、なぜ自民党よりも代表選立候補のハードルを高くしているのかという問題について、もっと深掘りして報道すべきだ。


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