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この国はどこへ行こうとしているのか 東日本大震災5年

2016年03月14日 | 社会・経済

この国はどこへ行こうとしているのか 東日本大震災5年 

   首都大学東京准教授・山下祐介さん 毎日新聞2016年3月9日 東京夕刊

 犠牲強いる復興「失敗

   今回の復興政策は失敗です−−。首都大学東京准教授の山下祐介さんに取材を依頼すると、返事のメールにその言葉があった。

   確かに、被災地の今を伝えるニュースに触れると「東日本大震災は終わっていない」と痛感させられる。それにしても「失敗」とは……。「限界集落の真実」(ちくま新書)などの著書で注目される気鋭の社会学者の目に、何が映ったのか。

  「今、進められている復興政策は、被災者の思いからどんどんずれてきている。取り返しのつかないことになります」。口調には焦りさえうかがえる。

   例えば津波被災地の巨大防潮堤。東北3県で建設が進むコンクリート壁の高さは最大約15メートル、総延長は約400キロに迫る。砂浜の景観の破壊、生態系の変化による漁業への悪影響が懸念され、反対の声は根強い。集落ごと高台に移転するにもかかわらず造られる地域もある。そもそも「絶対安全」の保証はない。 「暮らしを守るための防潮堤が、漁業や観光で生計を立ててきた地域では復興の妨げになっている。本末転倒です」

  もう一つ問題視しているのが、東京電力福島第1原発事故の避難者に対する帰還政策だ。避難指示が出ている地域は、放射線量の高い順に、帰還困難区域▽居住制限区域▽避難指示解除準備区域−に3区分される。政府は昨年、このうち居住制限区域と避難指示解除準備区域について、来年3月を目標に避難指示を解除する方針を閣議決定した。

  「復興の加速化のため」としているが、解除によって両区域からの避難者は「自主避難者」となる。自主避難者への住宅の無償提供は来年3月で打ち切られることが決まっており、避難を続けたい世帯の負担は増える。さらに、両区域から避難している住民への精神的損害賠償も2018年3月に一律終了となる。

  「これでは避難者に『早く帰れ』と強制しているのと同じです」。そう憤るのは、11年夏から2年間、福島県富岡町から県外に避難した被災者に、生活実態の聞き取り調査をした経験があるからだ。

  「廃炉まで30年以上かかるのです。それまでに新たな危険が持ち上がるかもしれないし、健康への長期的な影響も分からない。公の場では互いに遠慮して口にしませんが、避難者は『本当に帰れるのか』と不安と疑念を抱いているのです」。それに、避難生活が長引くほど、避難先で新たに始めた仕事や子供の学校の都合で、帰るかどうかの判断は難しくなる。

  県内には、避難指示の解除を遅らせてほしいと、住民が要望している自治体もある。「それなのに早期解除にこだわるのは、東京五輪を前に『原発事故は終わった』と国内外にアピールしたい思惑もあるのでしょう」

  被災者のためにならない「復興」が、なぜ止まらないのか。「当初から『ボタンの掛け違いが起きている』という声は政府側にもありました。現場の声と政策のズレを認識しながら、修正しないままここまで来てしまった。それどころか、世間には『復興の早期完了という国家目標のためなら、一部の地域や国民が犠牲になるのは仕方がない』との考え方さえ広がっている」。山下さんは懸念する。

 震災から3年後の14年、ある報告に衝撃を受けた。

  増田寛也元総務相ら有識者でつくる日本創成会議が「2040年に896の市区町村で消滅の可能性が強まる」と自治体名を挙げて指摘した、いわゆる「増田リポート」だ。地方分権と少子化対策の必要性を政府に提言する内容だが、頻繁に登場するのが「選択と集中」という言葉だ。

  「『すべての町は救えない』という切り捨ての論理に結びつけ、地方を都合よく利用しようとしているのではないか。政府や東京の事業者が、地方でやりたいことをやる口実になりはしないか」と危機感を覚えた。

  増田リポートの公表後、政府は地方で雇用を確保し、人口増を目指す「地方創生」を打ち出す。安倍晋三首相は「故郷を消滅させてはならない」と語っているが、一方で政府は、雇用創出策などで地方同士を競わせ、補助金で差をつける仕組みも設けた。既に体力のない自治体はジリ貧になりかねない。

  不気味なのは、そんな手法を許容する空気が、社会にも広がっているように思われることだ。実際、若い学生や研究者が「どうして地方を残さないといけないのか」「頑張っていない地域を残すのはおかしい」と口にすることが増えていると感じる。「お国のために誰かが我慢したり、犠牲になったりするのは仕方がないというのは、戦時中と同じです。経済成長のために地元の反対を押し切って原発を再稼働させたり、米軍基地を沖縄に押しつけたりするのも同じ考え方によるものでしょう」

  そして、こう続ける。「福島への帰還政策を巡り、与党関係者の中には『住宅提供があるから帰還しない住民もいる。ならば、支援をやめなければならない』という意見すらあるそうです。それなのに、世論の大きな反発も起きていません」

  なぜなのか。「私たち国民も、経済や効率ばかり重視しているからではないでしょうか」

  経済が上向かないことには何も始まらない−−。そんな発想に支配され、いつの間にか「小さな犠牲」に鈍感になっている、ということか。「でも、経済とは本来、人々の暮らしを良くするための手段に過ぎない。経済成長のために国民生活を犠牲にするのは間違っています」

  国は15年度までの5年間を「集中復興期間」とし、さまざまな復興事業に計26兆円もの予算をつぎ込んだ。福島県では「イノベーション・コースト構想」と呼ばれる事業が進められている。「ロボットや新エネルギー産業の集積地として、原発事故被害の大きかった浜通り地域を再生させる」との青写真が描かれる。

  「国や福島県は『新たな産業や公共事業を投下すれば、雇用が増えて人口も回復し、すべて解決する』と考えているのでしょう。『地方創生』もこれと同じ発想です。でも、それは住民が望む復興なのか。東北地方には『高収入は得られないけれど、地元の農産物を食べ、家族そろって暮らす』という都会にはない豊かさがありました。経済しか見ない政策では、そんな社会は取り戻せないのではないか」

  戦後の日本は奇跡的な経済成長を遂げたが、地方は過疎や不況に苦しみ、原発のリスクも押しつけられた。「今また、復興という国家事業のために地方は忍従を強いられるのか。それでいいはずはありません。勇気を持って『これまでの復興は失敗だった』と認め、もう一度、住民にどんな地域にしたいのかを聞きながら政策を作り直す。そして、原発事故への対応は30年続くのだと覚悟を決める。そこから再出発すべきです」

   「失敗」という言葉が、今度は力強く響いた。【小林祥晃】

 ■人物略歴
やました・ゆうすけ

  1969年、富山県生まれ。九州大大学院社会学専攻博士課程中退。弘前大准教授を経て2011年から現職。過疎地の実態調査や地方の活性化の支援もした。著書に「東北発の震災論」「地方消滅の罠(わな)」など。=内藤絵美撮影


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