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「種の保存にあらがっている」のはLGBTではなく自民党が進めた少子化だ

2021年05月25日 | 社会・経済

差別する政党に効果的な「理解増進法案」が作れるのか?

「朝日新聞DIGITAL 論座」2021年05月25日

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 超党派の議連で合意した「LGBT理解増進法案」を審査した2021年5月20日の自民党会合で、簗和生(やな・かずお)衆議院議員(栃木3区)が、「生物学的に自然に備わっている『種の保存』にあらがってやっている感じだ」という差別発言をし、大きな批判が起こっています。

 かつて2018年7月に「LGBTは生産性がない」という主張を雑誌に寄稿した杉田水脈衆議院議員(比例中国ブロック)や、2020年9月に「同性愛が広がると足立区が滅びる」という発言をした足立区の白石正輝区議会議員も大きな問題になりましたが、またしても自民党内から性的マイノリティに対する差別発言が繰り返された形です。

 差別であるのは当然のこと、生物学の専門家からも反論が上がっているように、この発言は明らかな誤りです。病気に対して科学的根拠を示さずに効果があるように謳い患者を惑わせる治療を「トンデモ医療」と言いますが、このように生物学的に誤っているにもかかわらず、まるで正しいかのように主張する言説は、「トンデモ生物学」とでも言うべきでしょう。

「種の保存」に背いた自民党政権の少子化無策

 仮に、「種の保存」を目標とするのであれば、それに最もあらがっているのは、何十年もまともな少子化対策をせずに、産みたくても産めない社会や産みたいとは思えないこの社会を作り、日本の人口減少という結果をもたらした歴代の自民党政権ではないでしょうか?

✅教育に対する公的支出を先進国最低レベルに留めている

✅保有資産や年金給付額等における巨大な世代間格差や、正規・非正規格差等を積極的に生み出して、親になることのリスクを大幅に高めた

✅ひとり親が以前よりも増えているのに、手厚い支援をせず、世界でも突出したひとり親世帯の貧困率の高さを招いた

✅フリーランスや個人事業主になる人は増加しているのに、育児休業給付金が雇用保険に加入する労働者に限定されている等、支援の枠組みから排除し続けている

✅男女の賃金格差を放置しているがゆえに、「離婚したくても子供のことを考えるとできない」という状況の人(主に女性)が非常に多く、独身の同世代や若い世代に、子供のいる人生に悪いイメージを持たせている

✅若者支援を十分にしてこなかったことが、経済的に安定してから子供を持つという晩産化の要因の一つを作り出した

✅夫婦における家事育児の分担率が不平等な家父長制的家族観を温存してきた

✅「マミートラック」のように、子供を持つ人が“罰”を受けるかのような仕組みを放置してきた

✅マタハラやパタハラに対していまだに効果的な規制を設けていない

✅世界最低レベルの長時間労働問題をいまだに解決せず、一部の親が育児の時間を持てないような状況を放置している

✅「包括的性教育」や「ポルノに対する適切な規制」を避け続けたことで、適切なパートナシップを構築する能力や、ライフプランニングを持ってお互い話し合う能力が育まれていない

✅「産むor産まない」は全て当事者が決めるという自己決定権を軽視し、「産めよ増やせよ」的に圧力をかけるセクハラ発言を議員が幾度となく繰り返し、子供を持つことに対する希望を持てない社会を強化した

✅様々な少子化対策を実施している世界の国々から学ぼうとせず、婚活支援策のように、子を望む人たちからのニーズが高くはないことは積極的に行おうとする

✅育児を妻に丸投げしている政治家ばかりを公認候補に選び、子育て支援政策を「公約の一丁目」に据える候補者をほとんど公認しない

 これらは全て自民党政権がなしてきたことです。あくまで思いついたものを列挙しただけですので、他にもたくさんあることでしょう。

児童手当の廃止で子供を諦める人も増えるだろう

 たとえば、5月21日には、一部の高所得者世帯(年収1200万円以上)の児童手当を廃止する改正児童手当関連法を成立させたばかりです。先進国でも脆弱な子育て支援をさらに削るわけですから、ますます子供を産み育てにくい社会にしている愚策だと思います。

 社会保障や税の負担が重いのに加えて、様々な支援に所得制限が課されているため、高所得者といえども、教育資金に余裕がある家庭は必ずしも多くはないと思います。教育行政学等を専門とする末冨芳氏は、今回の改正を高所得者に対する「子育て罰の厳罰化」(「児童手当の特例給付を削って待機児童対策にあてる日本では、少子化解消しない」Yahoo! ニュース)と称していました。

 実際、手当廃止の対象となる人からは、「頑張って働いて納税しているのに、子を持つとこういう仕打ちを受けるんだと思うと、仮に自分がまだ子持ちではなかったら、おそらく子供を持つのを諦めるか、2人目以降は諦めていたと思う」という声を聞きました。「自民党政権がしていることは『種の保存』にあらがっている」と言わずして何と言えばよいのでしょうか?

西田昌司氏は「差別する自由」を守りたいとしか思えない

  次に、同会合における西田昌司・党政務調査会長代理(参院京都選挙区)の発言も酷いものです。西田氏は、「(性的少数者の当事者も非当事者も)お互い我慢して社会を守る受忍義務がある」と主張。こうした「道徳的な価値観」を無視し、「差別があったら訴訟となれば社会が壊れる」という趣旨の発言をしたとのことです。

 仮に、社会を守るために「我慢すべき」という「道徳的な価値観」があるのなら、どうして加害者側にそれを求めないのでしょうか? 社会を壊したくないのであれば、加害者側が差別的考えを持っていたとしても、それを内に秘めたままにしておけばいいだけです。

 西田氏は「お互い」と言いながら、我慢すべきという「道徳的な価値観」を無視して差別をした加害者側には何も求めず、それに対する被害者のカウンターにだけ我慢すべきという「道徳的な価値観」を強く求めています。

    つまり、「やられてやり返したら、やり返したほうだけが悪い」という無茶苦茶なことを言っているわけですが、それこそ反道徳的です。「差別する自由」を守りたくて仕方ないとしか思えません。

西田氏は以前から性差別発言を繰り返している

  西田氏の性差別発言はこれに留まりません。たとえば、2016年11月16日に開催された、「政治分野における男女共同参画推進法案」について議論をする自民党の部会合同会議でも、女性の社会進出が少子化を加速させているとの考えを背景に、「女性の社会進出で、社会全体が豊かになっているとは思えない」と主張していました。

 これも差別発言であるばかりではなく、事実として誤りだと思います。おそらく女性の社会進出で育児の担い手が減ると言いたかったのでしょうが、夫の休日の家事育児をする時間の長さに比例して、子供の数が増えるという厚生労働省の統計が示すように、少子化を加速させているのは女性の社会進出ではなく、「男性の家庭不進出」です。

 西田氏は、今回の会合でトランスジェンダーへの差別を煽るような発言をした山谷えり子参院議員(比例区)と同様に、人権や差別解消の問題になると、しばしば登場する抵抗勢力の筆頭という印象を受けます。

 ちなみに、西田氏は、北陸新幹線延伸ルート(敦賀~大阪間)を決める際、整備検討委員会の委員長だったにもかかわらず、(自身の地盤である京都の)舞鶴を経由するという大きく歪んだ「我田引鉄」的路線案を提案していました。人権感覚だけではなく、交通政策におけるバランス感覚も大きく歪んでおり、国会議員としての能力が著しく欠如しているとしか思えません。

理解増進法案」を作っているはずの政治家が一番理解していない

 なお、簗氏、西田氏、山谷氏等の発言に対して、撤回と謝罪を求める電子署名が始まり、既に8万人を超えました。会合は非公開だったとはいえ、国の政策を話し合う公的な場での発言ですから、問題視されるのは当然のことでしょう。

 「LGBT理解増進法案」を作っているはずの当事者が全く「理解」をしていないどころか、差別の加害当事者であり、加害体質が自浄されずに毎年のごとく同様の発言が続く状況は異常です。そのような政党も関わる「理解増進法」に差別をなくす実効性があるのか、疑わざるを得ません。

 自民党の中にも差別を無くそうと考える議員が一部いるようですが、結局のところ、このような状態が放置されている現状を鑑みると、これが「自民党政権の限界」なのではないでしょうか?


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