短歌の友人 (河出文庫) | |
クリエーター情報なし | |
河出書房新社 |
☆☆☆
普段、エッセイで、へなへなの誠に駄目男を演じている穂村弘さんの、短歌の歌論集。
みなおしたというか、やはり本業での活躍、これだけ、短歌を分析し語ることができるとは。
第19回伊藤整文学賞受賞作品・・・・
いつもの穂村さんの本とは違って、3倍も5倍も読了するのに時間を要した。
短歌に疎い私でも解るところを紹介すると、
一読して、なるほどと思う、「なるほど短歌」という章では
一回のオシッコに甕一杯の水流す水洗便所オソロシ・・・・・・・・・・・・・・・・・・奥村晃作
運転手一人の判断でバスはいま追越車線に入りて行くなり・・・・・・・・・・・・奥村晃作
「東京の積雪二十センチ」というけれど東京のどこが二十センチか・・・・・・奥村晃作
に対し、天然っぽい愛嬌があると評し、
音もなくポストに落ちし文一通あと数時間ここにありなむ・・・・・・・・・・・・香川ヒサ
角砂糖紅茶に落とせば立方体しばし保ちて突然崩る・・・・・・・・・・・・・・・・・・香川ヒサ
ごみとして段ボールあまた置かれをりそのうちの一つをごみ箱として・・香川ヒサ
を、考え抜いた非天然型の高い精度で打ちだす「なるほど」と。
痩せようとふるいたたせるわけでもなく微妙だから言うなポッチャリって 脇川飛鳥
そして、私でも一番解りやすいのは、俵万智さん
逢うたびに抱かれなくてもいいように一緒に暮らしてみたい七月・・・・・・・・俵 万智
「勝ち負けの問題じゃない」と論されぬ問題じゃないなら勝たせてほしい・・俵 万智
そして、第二章では口語短歌の現在、第三章では〈リアル〉の構造
第四章、リアリティの変容と、他の作者の作品を愛情をもってあらゆる角度から分析、
紹介されている。
第五章の前衛短歌から現代短歌で、紹介されている、塚本的幻想の現実化では
未来予知や警告のニュアンスがあり、東日本大震災が現実におきている今、
ナマナマしく感じてしまう。
さみだれにみだるるみどり原子力発電所は首都の中心に置け・・・・・・・・・・塚本邦雄
久しき危機まひるめし屋に人充ちて見入る墓石のごときテレヴィに・・・・塚本邦雄
酸素自動販売器などありやなし因幡國気高郡青谷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・塚本邦雄
地下売場に溢れんばかりの食品がかき消えているわが昼の夢・・・・・・・・・・松村洋子
繁栄のこの夜を熱き涙もて思い出す日の来たるかならず・・・・・・・・・・・・・・林 和清
もっと、焦げたり、傾いた、東京タワーとか、吹き飛ばされたり、血まみれになったりの
句も紹介されているが、時が時だけに、ナマナマしくて妖しすぎる。
やはり、お口直しに、ほのぼの系、癒し系の俵 万智さんの句を紹介。
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ・・・・・・・・・・俵 万智
自転車のカゴからわんとはみ出してなにか嬉しいセロリの葉っぱ・・・・・・・・俵 万智
なんでもない会話なんでもない笑顔なんでもないからふるさとが好き・・・・俵 万智
この日常の平凡さの「ありがたさ」を痛感している今日この頃ですな。
短歌の「面白さ」から、その背後にある世界の「面白さ」が見えてくると、
短歌入門には、いや短歌の懐の深さを知るにはもってこいの本でおます。