人生、成り行き―談志一代記 (新潮文庫) | |
立川 談志,吉川 潮 | |
新潮社 |
☆☆☆
噺家としての立川談志と、一人の人間としての松岡克由の二人が垣間見れる。
談志さんの本は、時として、くどく、それでいて話はアチラコチラに飛びながら、
強く言いすぎたところは自己制御し、緩急の噺っぷりに、疲れる時がある。
今回、この本は吉川潮さんが、ナビゲーターと、核心に触れながら、
こと細かに、それでいて、小よし、小ゑん、談志と順序だてて、紹介している。
その時、その時、時代の寵児を目指しながら、常にライバル、目標をおきながら、
各ステージを生き抜いてきた。
今のライバルは、我弟子の、志の輔、談春、志らくであり、己のDNAを引き継がれ
誇らしげでもあり、それでいて、我分身であるがゆえに、細部にわたる微妙なる優劣に
興味を示す。
そんな談志さんでも、勝負ならないのが、パートナーである妻の、則子さんである。
談志師匠のおかみさんというより、単なる松岡克由の妻だという態度。
「ノン子」さんと呼ばれ、自然体で、すべてが気持ち良い。
その師匠が書き留めた「ノン子語録」を列記すると、
・「 パパは一番大切。でも何もしてあげられない」
・師匠がひきつけを起こした時、なぜか真っ先にガスを止めた。
「地震じゃねぇや」と、突っ込んだのは、言うまでもない。
・「パチンコへ行こうかな、ひとり会へ行こうかな」。
パチンコと亭主の会を同列に考えている。
・競馬の八百長事件を知って、「馬がどうして、八百長できるの」
「騎手がやるんだよ」
・「お弟子さんが増えちゃって、顔も名前も覚えられないわ。
でも、お弟子さんは私の顔を覚えるのよね。」
・師匠が、冷蔵庫の掃除をしてたら、寝そべって眺めていた彼女が、
「そっちもやったら。あ、そこそこそこ」なんか言うから、「あ、君はよくないな
それは亭主を顎で使うって行為だよ」・・・・・「違うわ。アドバイスよ」。
うまい。掃除することが前提なら、これは不精だけどね、掃除しないというのが
前提ならアドバイスだよな。・・・・あの、談志師匠を手玉にとってしまう。
談志師匠にでてくる、女性像のかわいさのルーツはここに・・・。
家庭とは無縁のような、談志さんにも、自我を通すのを憚る伴侶がいるなんて、
まあ、奥さんの天然さは、聞いていても、ほっとしますな。
立川談志の弱味まで、知ることができる「人生、成り行き」、必読でおますな。