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俳優・勝地涼くんのこと。

『四つの嘘』(1)(注・ネタバレしてます)

2012-09-06 19:43:52 | 四つの嘘
2008年7月期放映。人気脚本家の大石静さん原作の小説を、大石さん自身が脚本化。それなのにというかだからこそなのか、放映開始前に読んだ小説とドラマ版では大胆な改変が成されていて、その違いっぷりに驚きました。
先に取り上げた『キャットストリート』も、主要キャラの一人を存在自体消してしまって代わりにオリジナルキャラを投入するという大きな変更を行っていて、それに比べれば『四つの嘘』はまだしも主要キャラ4人の顔ぶれは同じだし第一話の展開は比較的原作通りなんですが、その後の展開が後へいくほどオリジナル度を高めていく。原作を知っている人にもまるで先の展開が読めないという、なかなか特異な作品になっていました。

その改変具合の傾向として、原作に比べて全体的に作品の空気感が明るくなっていることが挙げられるでしょう。原作に比してコミカルな場面が増え、それは主としてメインヒロインの原詩文とサブヒロインの一人・西尾満希子のキャラクターの変化に負う部分が大きいと思います。
少女の頃から男たちをやたらと惹きつけ、41歳の現在もなお28歳のボクサーと恋愛関係―それも精神性よりもっぱら体の交わり、肉欲によって結ばれた関係―にある詩文は、原作ではその刹那的な生き方ゆえの孤独や年を取るにつれて生まれた焦り、友人への嫉妬などの暗い部分がしっかり描かれ、逞しさを感じさせる一方で後半では自殺を図ったりするような意外な脆さも露呈しているのですが、ドラマの詩文ははるかに明るい。
家庭の状態は父が痴呆症になったり娘を養女に出さざるを得なくなったりと原作以上に深刻化しているのですが、時に孤独感や経済的困窮に頭を抱え重い溜息をついても、少し後のシーンではしれっとした顔で食パンかじったり夜食食べたりしている。第三回で美波のナレーションが「やっぱり死ぬ気はないのね、図々しい女」と評したように、ドラマの詩文はどんな切羽詰った状況であろうと、自ら命を絶とうとするところなど想像もできない(原作の自殺未遂シーンもトラマではすっぱりなくなっていた)。
あまり重苦しい展開はテレビドラマには向かないという配慮もあったのかもしれませんが、ドラマの詩文の明るさと生命力は主として詩文を演じた永作博美さんに由来するもののように思えます。
原作もドラマも詩文は男心を惑わす魔性の女として描かれていますが、泣き顔に格別の魅力がある設定の原作の詩文がどちらかといえば陰性の色香を放っていたのに対し、ドラマの詩文は明らかに笑顔が印象的な女という位置付けになっている。
といっても慈母的微笑や無邪気な天使の笑顔ではなく、もっぱら小悪魔的な悪戯っぽい笑顔。それもにっこり系から目も口も大きく開いた肉食系の笑顔まで、視線や口元の微妙な動きも含めてバリエーションが豊富。
笑顔に劣らず頻繁に見せるわずかに憂いを含んだ物思わしげな顔が、上述のようなしれっとした顔やいたずらっぽい笑顔にすっと切りかわったかと思えばまたふっと真顔に戻ったりして、その表情変化の多彩さに思わず引き込まれないではいられませんでした。この永作さんの“陽の魔性”が、ストーリーの方向性をも原作とは別の方向に動かしてゆく牽引力になったんじゃないでしょうか。
また彼女が狙った男を落とすについても、原作ではいろいろと計算を用いているのが地の文で説明されていますが、ドラマでは映像で見せるだけなので(映像作品で地の文的役割をするのはナレーションでしょうが、死んだ美波の語りという形式を取ったナレーションは美波の主観を語りはしても詩文の内面に踏み込めるわけじゃない)手練手管が見えない分陰湿な感じがしないのも大きかったと思います。

一方、満希子のキャラの変化は「永作詩文」に引っ張られるように作品全体のトーンが明るいものに変わっていくうえで、その明るさをより明るく、コミカルに演出するうえで要求されたものだったのかなと想像しています。
原作にあっては41歳時点の四人の中で最も地味で暗い雰囲気(詩文のような色気にも通じる翳りではなく陰陰滅滅とした感じ)だった満希子が、欲求不満の専業主婦なのも家族に無視された存在なのも社会経験がないゆえの精神的鈍さも原作と同じでありながら、欲求不満ゆえにドラマティックな恋に憧れる様子や精神的鈍さの部分を戯画的なまでに強調して描かれることで、一気にコメディ的存在になってしまった。
その厚かましさ、反省のなさ、良識を振りかざしながらひたすら自己保身に汲々としてる姿など、もう言動のいちいちにツッコミを入れたくなるほどでした。きっと満希子役の寺島しのぶさんも、台本を見て「こんな台詞言うのー?」と思うことたびたびだったんじゃないでしょうか。
しかし視聴者をいらだたせるほどのその身勝手さゆえに、第一回から自分の名推理(実質ゴシップ的興味)を披瀝したさにネリの貴重な時間に図々しく割り込んできた満希子は、後半では旦那の浮気騒動や自身の駆け落ち騒ぎで詩文やネリ(とりわけ詩文)をさんざん振り回す形で物語を動かす役まで担ってゆくことに。
そして最終的には自分の浮気については見事に隠しきって旦那の浮気をのみ責める形で優位に立ち、ほころびが出そうな部分は全部詩文に押しつけて平然と元の生活に返ってゆく。そのあまりにもちゃっかりした態度には一周回っていっそ爽快感さえ覚えてしまいました。それは眉を寄せ歯を剥いた愕然顔や自身の妄想にうっとりする顔、拗ねた顔、哀願する顔など一つ一つの表情をコントラストくっきりと見せてくれた、ある意味悪役な満希子をふっきって演じた寺島さんの表現力によるところが大だったんじゃないでしょうか。

もう一人のサブヒロイン・灰谷ネリは大病院の脳外科医というポジションと英児との関係以外は、ストーカー被害や教授選の話などオリジナルエピソードが大半を占めていたキャラクターでした。演じてるのが高島礼子さんというのもあってか、原作よりさらにさばさばした印象でありつつ同時に円熟した色香があって、後輩医師たちに対する姉御肌なところも含め、長年男っ気がない設定に説得力がないほどでした。
だからなのか、英児との関係も一度のことに終わらずより深入りして不安定な恋に執着する、ボクサー復帰の夢を捨てられない英児に行かないでとすがるシーンなど、女っぽさが原作より強められている感触でした。
それも41歳の成熟しきった、むしろ早めの更年期障害に差し掛かってることに焦りを覚えてる状況からすればもっと女の情念を発散させててもおかしくないところを、ただひたむきに少女のような初々しささえ感じさせる演技でネリを健気な女として成立させ、先には説得力がないと感じた男性経験が少ない設定をも(初恋同然だからこうも計算抜きでひたむきなのだなと)納得させてくれました。64年生まれの高島さんは撮影当時、41歳のネリよりさらに年上の43~44歳だったはずで、それであの初々しさを出せるのだから見事なものです。

さてそしてわれらが勝地涼くん演じる安城英児。28歳という年齢設定、野性的・肉食系のボクサー、永作さん演じる年上女性との愛欲に溺れる役という前評判に、またえらくハードルの高い役が来たと思ったものです。というよりなぜこの役柄に勝地くんをキャスティングしようと思ったんだか?
勝地くんは当時まだ21歳(放映中に22歳に)で、外見的にも目力は強くとも全体としては優男の方で、これまでの出演作も愛欲に溺れるどころかせいぜいキス止まりの初々しい純愛路線ばかり(『1980』は例外ですが、あれもベッドシーンそのものは出てこなかった)。
むしろ上のような評判から想像したのは若かりし頃の渡辺裕之さん(勝地くんが主人公の少年時代を演じた『新・愛の嵐』で「旦那様」こと伝衛門を演じた方です)みたいな野性的なマッチョタイプだったんですが、原作を読んだら英児の外見は「ボクサーにしては美しい顔」「目も切れ長」と表現されていて、それならまあ納得できるかなと思ったのでした。
しかし実際ドラマを見てみると「やっぱりちょっと若すぎるかなあ」という印象は否めなかった。単純に年齢が若いということではなく、年上の女二人との過激かつ乱暴な(「暴れろよ、いつもみたいに、キャーキャーわめけよ」という台詞に象徴されるような)ラブシーンを演じるにはいかに美形設定とはいっても男臭さが足りない、勝地くんの持つ透明感がここでは仇になっているような感じをうけたのでした。
しかし作品を見返すうちに、これで英児のキャラは正解なんじゃないかという気が次第にしてきました。ボクサー稼業や乱暴な言動から男臭いイメージの強い役柄とはいえ、詩文やネリより13歳年下という設定は「年下の可愛い彼氏」というニュアンスを含んでいるのだろうし、さらに詩文を演じる永作さんが実年齢より相当お若く見える方なので、本当に28歳前後の役者だとこの「年下」感が出なくなる可能性がある。そう考えれば20歳すぎの俳優をキャスティングするのが自然な流れだったのだろうと。
加えて英児と性的関係を持つもう一人であるネリは男性経験が少ないわけで、いかにも男臭い男だったら生理的に警戒してしまい、自分の方から接近してゆく展開にはなりそうもない。ほぼ初対面から押し倒されるような目にあっているのだし、英児の意識が混濁してたといっても日頃から恋人(詩文)にあんなふうに振る舞ってる男には違いないわけで、それでもなお近付きたい気持ちにさせるような要素――ネリの恐怖心をさほど喚起しないようなどこか初々しい、可愛気がある男であってこそネリと英児の関係が成り立ちうるのだと気付いたのでした。

かくて当初の違和感が消え、“勝地英児”を全面的に受け入れてしまったら、彼が時折(特に詩文がらみで)見せるナイーブな表情の美しさにすっかり吸い込まれてしまいました。
洒落たことは言えない、基本的に拳と身体で語ることしか知らない英児は総じてぶっきらぼうで言葉も乱暴ですが、その眼差しが、切ない表情が英児の胸の内を伝えてくれる。言葉が少ない分を繊細な表情で補う、それはまさに勝地くんの得意とするところであり、勝地くんがキャスティングされた意図もそこにあったのかも。
試合中のケガがもとで現役続行不可を言い渡されるのは原作もドラマも同じですが、原作の英児が悩み苦しみながらも引退を決意しトレーナーとして再出発したのに対し、ドラマの英児は単身未知の国であるパナマに渡ってまで現役続行にこだわった。そんな原作以上の“青臭い”性格を示す展開も、もしかしたら勝地くんの“若さ”がもたらしたものだったりするのかもしれません。

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『キャットストリート』(2)-6(注・ネタバレしてます)

2012-09-03 23:11:40 | キャットストリート
〈第六回〉

・会社の玄関をくぐった浩一の携帯に電話が。今大丈夫かと聞かれて「これからプレゼン始まるんですけど」。敬語で話してるところからすると相手はスクール長か。今何が起こってるか考えてもいない緊迫感のない声が何だか切ないです。

・ドアを開けようとそのへんの物をぶつけてみる恵都。息切れしたところに別のドアからマーサが入ってくる。食べ物を差し出すが、恵都はそれを払い落とし牛乳瓶が砕けて割れる。「どうして、マーサ」尋ねる恵都に「ぼくは奈子さんに恩があるんだ」「奈子さんに拾ってもらって今まで仕事が続いてる」。元モデルだったというマーサがモデルを続けられなくなった理由は不明。モデル時代奈子とどんな縁があって拾われるに至ったのかも不明。
しかし「奈子さんは今苦しんでるんだ。ぼくは苦しんでる人が好きだ。高いところでいい気になってる人間よりね」と続くところからして、恩義があるからというより奈子本人への好意、彼女の苦しみへの共感から肩入れしてるように思えます。となると奈子や彼の視点からは苦しんでなさそうに見える恵都にはやはり反感があるのか。これまでの態度、この先の行動からすると決して恵都を嫌ってるようじゃないんですが。

・浩一も含めた三人+スクール長がリストンの庭に走りこんでくる。紅葉は恵都が本番前のトラウマに襲われて逃げたのではというが、浩一は冷静に「いや、それはないよ。あいつは戦ってるはずだ。きっとどこかで」。
以前PV撮影の時に逃げかけたのを知っているのに、今の恵都はそうはしないはずだと信じている。恵都が浩一を信じているのにも劣らない信頼の固さ。やはりいいバートナーだと思います。

・ロケ現場。主演他まだ待機中。「いい度胸してるわよね~」。恵都への怒りが充満してます。そろそろ始めようとスタッフが言い、監督は無言だが仕方ないかという雰囲気を出している。今後の恵都への風当たりが心配になってきます。

・部屋で座ってる恵都はヒールの音を聞いてドアに向かい、ドア越しに「奈子」と声をかける。ドアのあっちとこっちを同時に移すアングルで二人の会話と表情を追う。こうした手法をとることで会話の中での二人の感情変化を詳細にたどっています。

・「あなたが、立ち直ったからよ。あんたに負けたくなくてずっと必死だった」「でもいつも最後には言われたの」「おまえは恵都にはなれないって」「もう二度とあたしの目の前に現れないで。あたしがあんたを超えようと歯を食いしばってきた7年間、意味ないじゃん」。
血を吐くような奈子の言葉。彼女が恵都と比べられ続けたのは7年も前のことなのに奈子にとってずっと最大のライバルは恵都であり続けた。奈子も7年間恵都とは別の形で呪縛されていた。
恵都目線で見れば「私の行く手にもう一度現れたのは」奈子の方ですか(遊園地での再会のとき)、奈子にとってはマーサがオーディション会場で恵都と出会ったこと―恵都が再び自分のフィールドをうろうろしてたことを恵都側からの侵犯と感じてしまったんでしょうね。

・「意味なくなんかないよ。奈子が頑張ってきたの。あたし知ってるよ」「でもあたしも頑張ってきたんだよ。奈子の知らないところで。日の当たらない世の中の隅っこで」。
恵都が頑張ってきた「日の当たらない世の中の隅っこ」はリストンを指すのかそれとも7年引きこもってた家のことか。7年間確かに恵都は苦しみに耐えてはいましたが、その苦しみから逃れる、克服するために何か努力をしたわけではなかった(だからこそ7年も苦しむはめになった)。だから大事な仲間と出会ってその苦しみを乗り越え、失恋を乗り越え今まで経験がないほどの怒りや憎しみを経験しそれらへの対処法を学び、7年間の空白を埋めるべく子供がやるような漢字ドリルや料理などの一般常識の勉強、発声の練習にも取り組んでるリストンに出会って以降の生活を指してるとするほうが妥当そうです。
奈子や世間が人生の敗残者の逃げ場所、甘やかされた空間と見なすフリースクールは、自分にとって世間と戦うための足場であるのだと、そう宣言してるわけですね。

・恵都の言葉を聞きながら奈子は泣きそうな顔。その後ろで途中からマーサも聞いている。「怒りや憎しみで人に当たりそうになる。でもそれじゃダメなんだ。自分に勝たなきゃって。そばにいてそういうこと言ってくれる友達がいるからあたしは今頑張れてる。転んだら起き上がればいい。それも友達が教えてくれた。負けないよあたしは」。
穏やかだが芯の強さを窺わせる表情で言う恵都。ここまでやってもあきらめない、倒れてもまた立ち直ってみせると言い切る恵都にもうどうやれば勝てるのかもわからない。奈子が小さく嗚咽を始めたのはいわば敗北宣言といえるでしょう。

・もはや潮時と見たか、マーサは「奈子さんもうやめませんか」「彼女を痛めつけてあなたが気が済むならいい。それであなたが一歩でも前にすすめるなら」と言いながら奈子の体を強引にどかしてドアを開ける。
彼は最初から奈子の「気が済むなら」と恵都監禁に加担した。そんなことをしてもおそらく奈子は前に進めない、かえって自身を傷つけることになると察していながら。それはまさに奈子に恵都に敵意を燃やすことの空しさを知ってほしかったからでしょう。そしてもしかしたら恵都がへこたれず奈子に立ち向かってくれて結果奈子の呪縛を解いてくれるかもしれない、そんな一縷の望みもあったのでは。
そのためには恵都の都合は(気にしてないわけじゃない、十分申し訳ないとは思いつつも)完全に後回し。彼にとって一番大切なのは奈子だったから。結果マーサが狙った以上の効果があがったようです。

・マーサは恵都の腕をつかんで建物から出ていき、車に恵都を乗せる。「ありがとう」「奈子大丈夫かな」。この状況でマーサに礼を言い奈子を案じる恵都。優しさ-精神的余裕において完全に恵都勝利です。
「・・・大丈夫。・・・ぼくがそばにいるから」。これは恵都が「そばにいてそういうこと言ってくれる友達がいるからあたしは今頑張れてる」と言ったのを受けて、自分が奈子にとってそういう存在になると宣言してるんでしょう。これまでだって彼はずっと奈子のそばにいて、彼女がどんな我が儘を言おうと邪険にしようと彼女の味方でありつづけた。苦しむ奈子を支えるためせめて自分だけはどんな状況でも絶対的な味方であろうとしたんでしょうが、そうして彼女を甘やかしたことは結局奈子の苦しみを軽くすることには繋がらなかった。相手を思えばこそあえてキツい忠告もするべき、それでこそ相手を支えられるんだと恵都の言葉で思ったのかもしれません。
だからマーサは初めて奈子に逆らって、力づくで彼女を押しのけて恵都を連れ出した。それが奈子のためになると信じて。これだけ想ってくれる相手がすぐそばにいることを奈子が実感できるのはいつなんでしょう。自分が持っているものに気付かず恵都をうらやんでばかりいるのが奈子を不幸にしてるわけで、落ち着いて自分の回りを見回すのが今の彼女に一番必要なことなんだと思います。

・「いつか舞台で、仕事場でまた奈子に会いたいってそう伝えて」と恵都は言い、マーサは車を発進させる。一人建物の中で泣きじゃくる奈子。この涙が過去のしがらみ、今の苦しみを洗い流す、生まれ変わるための涙になればいいですね。

・ロケ隊が撤収するところにやっと恵都到着。スタッフ皆に詫びて回るがだれも返事をしない。それでも監督を追いかけて懸命に頼みこむ。「この仕事がどうしてもやりたいんです。もう一度よろしくお願いします」。
以前奈子は久々にやる気が出る役を奪われたとき無念ながらもそのまま諦めてしまった。もし恵都のように「この仕事がどうしてもやりたいんです」と監督に直訴でもしていれば、もしかしたら事態は違ったかもしれない。恵都と違って役を降ろすとはっきり言い渡されたのだから覆すのは難しくても、少なくともやる気が伝わって次の仕事に結びついたかもしれない。恵都は「あたしにはないガッツが奈子にはあった」と評したけれど、今やそのガッツ、役への執念も恵都が上を行っています。

・ちょっと間があってから監督は「今日おまえは全員を敵に回した。一度信頼を失った人間が信頼を取り戻すには人の十倍の努力が必要だ」と言い渡す。「頑張ります。私頑張ります」と強い目で訴える恵都に対して監督は何も言わないまま立ち去りますが、役を降ろすとは言わなかった。何も釈明をしない、遅れた事情を説明しないのは問題ですがその代わり言い訳もしない恵都を、もう一回信じようとしてくれてるのがわかります。
そういえば、この時点で恵都は事務所に所属もしてなければマネージャーもいないみたいですね。そもそもマネージャーがいたらマーサに送ってもらう状況にならなかったでしょうから。つまりフリーで仕事してる状態。それで映画のそこそこ重要な役についてるわけですから結構すごいことかも。そういやハンバーガー屋のバイトはどうしたんでしょう。完全にやめちゃったのかな。

・夜。帰り道の恵都。途中の階段に座って待ってた紅葉と剛太が気づいて駆けてくる。「どうしたの?」と驚く恵都。「どうしたもこうしたもないよ。撮影所に来ないっていうからみんなでさんざん探して」。
地下のろくに窓もないところに閉じ込められてたから携帯繋がらなかったのかと思ってましたが、「どうしたの?」という言葉からして、皆に連絡して助けてもらおうという発想さえなかったぽいですね(そう思ってできなかったんなら、「ああみんな知ってて捜してくれてたんだ」みたいな反応になると思うので)。一人で戦わなくてはという思いが強かったゆえかもしれませんが、そこは友達を頼ろうと思いついてもいいところ。たしかに「どうしたもこうしたもない」ですね。

・「警察に連絡しようとしたら園田奈子のヘアメイクだとかいう男が連絡してきて事情を説明してくれたんだけど、園田奈子のやつ、あいつ、どういうつもりだよ!」 
はたして恵都は自分の失跡についてどう説明するのか、奈子をかばって仲間にも言わずにおくのか、と思いめぐらしてたんですが、紅葉たちはすでに事情を知っていたという形にもってきました。恵都が自分でなんらかの説明をしなきゃいけない展開だと、言えば奈子を裏切るみたいだし言わなければ仲間に対して不誠実みたいだし、というジレンマが生まれるのでいい落としどころです。
マーサがあえて奈子のやったことをバラしたのは(マスコミにでもバラされれば一大事だというのに)警察沙汰にされたらなおさらまずい(恵都にその意図はないでしょうが、恵都を心配した周囲が早々に連絡してしまう可能性は大いにある)という配慮でしょうが、それだけなら全部正直に話す必要はない(自分の独断で、とか奈子をかばうこともできた)。これはマーサなりの恵都周囲の人間に対するせいいっぱいの誠意だったように思います。

・浩一は恵都の無事を聞いて先に帰った、恵都を捜すためにゲームソフトのプレゼンすっぽかしちゃったみたいだと聞いて目を見張る恵都。自分の責任とはいえないにせよ、結果的に自分がさらわれたために浩一のチャンス(リストンの経営危機を救うためだけではない、彼自身のキャリアにとってもチャンスだった)を潰してしまったのだから、そりゃショックですね。

・浩一の家を訪ねる恵都。まだワイシャツでネクタイ緩めただけの姿の浩一が出て、驚いた顔をする。勝地くんがスーツ着る役のときは短髪のことが多いですが(サラリーマン役の一環としてスーツ着るケースがほとんどなので必然的に短髪になりがち)、長髪にワイシャツネクタイの取り合わせが(『カムフラージュ』もそうでしたが)似合う似合う。あまり見る機会がないのが残念なくらいです。
・「ソフトに欠陥が見つかったんだ。今それを直してるところだから気にしなくていいよ」。要は恵都の行方不明騒ぎに関係なく自分のミスゆえにプレゼンに行かなかったのだというニュアンスの発言。無表情だが優しい声音です。見え見えのこんな嘘で恵都の気持ちを楽にしようとしてくれる。本当に後にいくほど浩一は優しくなっていきます。それも恵都の影響か。

・「何か作ろうか」という恵都に「洗剤で米、洗うなよ」。まあ前科がありますからね。「あたし覚えたよ。ごはんの炊き方」。浩一がちょっと驚いた顔をする。「お味噌汁のつくり方も」「ちょっとずつできないことを減らして。できることを増やして。浩一のおかげだよ。浩一とみんなの」。ちょっと微笑む。ちょっとずつ、でも確実に一歩ずつ進む。何事につけそれが一番大事なんですよね。
浩一は少ししてから目をそらして「その年でそれくらいのこと、できなきゃ仕方ないだろ」と水を差すようなことを言いますが、それは「浩一のおかげ」と言われたことへの照れ隠しなんでしょうね(あとからちょっと反省してるみたいな顔してるし)。ぶっきらぼうになりきらない口調にもそれが表れています。
恵都もそれが浩一なりの照れの表現だともうわかっているからむっとしたり傷ついたりはしない。いつのまにか恵都の方が大人みたいです。

・「友達っていいねー。友達ってすてきねー」。「サニー」の歌を口ずさみながら料理する恵都。ちょっと前なら考えられなかった行動。恵都が完全に過去の傷を克服したのがわかります。ノリノリの恵都はだんだん振り付けまで入ってきて、キッチンの入口で浩一がそれを見てる。気づいて「あ」と止まる恵都。
「それから先、どうすんの」「えっと」。続きを踊ろうとする恵都の横をすりぬけた浩一が「踊りじゃなくてカレー」。ちょっと笑えるやりとりです。

・作り方を恵都が説明するのですが、「ルーを入れます」とか教則本口調になってるのが可笑しい。それじゃこげつくと浩一は冷静に指摘して(さすがに一人暮らしが長いだけある)あとは自分がやると交代する。恵都不承不承な顔。せっかく自分が料理作ると張り切っていたのに。家で何度か試してから再トライですね。

・浩一のパソコンの前に座って打つふりしてみる恵都。勝手にいじっちゃいけないと思うゆえの打つふりというより、多分本当に打ち方知らないんだろうなと思わせる。そこへ新着メールが。しかも開いちゃうあたりがタイミングよすぎです。

・「映画楽しかったね。お金いっぱい使わせちゃってごめん」 口に出して内容を読む恵都。ちゃんと漢字が読めるようになってる、とこんな場面ですがちょっと感動ものです。しかし「ダーリンへ プリンセスより」って(笑)。
この「浩一がバソコンでバーチャルデートしてた設定」、放映当時わりと評判悪かった記憶が。いわゆる「キモオタ」的行動ですからねえ。原作の“長らく血の繋がらない姉に片想いしてた”設定を(話が長くなるから)省いたのはいいとして、こんな形で浩一の恋愛ネタを持ってくるとは。恵都側から見れば浩一への恋心を自覚するためのステップとなるエピソードですが、それだけなら「身内の女の子とのやりとりを恵都が彼女相手と誤解した」みたいなところに落としてもよかったはず。
女に興味なさそうな顔して女と付き合いたい気持ちはあった、現実の女の子はめんどくさいけど、気分だけいいとこ取りできる恋愛はしてみたかった浩一が、そのめんどくさい現実の女の子(恵都は普通の女の子にありがちな面倒くささは希薄そうですが、別の意味で面倒ではありそう。お米洗剤で洗っちゃうとか男に無防備についてって監禁されるとか)との付き合いに踏み出せるほどに成長した、そういう部分を描きたかったゆえの設定でしょうか。

・一人夜の道をダカダカと歩く恵都。そういや誘拐事件のあと家に帰ってないのでは。両親こそすごく心配してるだろうに。
「私はものすごく早く歩いた。でないと今見たことが今知ったことが心に突きささってしまう。きっとあとですごく痛くなる」。恵都にとって浩一が友達という以上に特別な存在になっているのを視聴者にはっきり知らせ、かつ恵都も自覚に向かっていくきっかけとなるシーン。その場で吐き気を催し心の整理がつかず行方不明になった大洋への失恋のときに比べ、どうすればショックを少しでも軽くできるか考え実行してるあたり成長著しいです。

・リビングに戻った浩一が「あと十分くらいでできるよ」と声をかけるが恵都がいない。閉じてたパソコンを開けてメールが開いたままなのを見つける。この時点で彼は事態(メール読まれた)を察してたはずですが、追いかけもせずメールで釈明もしなかった。バーチャル彼女の存在を話すのが恥ずかしかったのか、それを告白することはそのまま恵都への気持ちを話すことに直結しそうでまだその覚悟が定まらなかったのか。

・リストンにやってきた恵都。紅葉と剛太が雑誌広げて何の映画見るか話してるのを後ろから見つける。「一緒に映画行くってのはさ、付き合ってることになるんだよね」。いきなりの言葉に振り向く二人。ちょっと気まずい感じ?
パッと離れた二人は「そ、そ、そんなんじゃ」と二人して否定気味ですが、あくまで「気味」であって完全否定でないあたりもう認めてるようなもんですね。はたしてお互い同士の間でははっきり彼氏彼女という合意ができてるんでしょうか。

・「銀座でご飯食べたりバッグ買ってあげたりするのも恋人にすることだよね」。いきなり自分たちから離れた、しかも妙に具体的な話を振られたことに首かしげる二人。一人歩き去る恵都を紅葉が追いかけ、「誰が誰と銀座行ったの?」と問い恵都が答えない前に「・・・浩一!?」と解答にたどりつく。なかなか鋭いというかそれくらいしか選択肢がないというか。
「違うよ。ていうか知らないしあたし。浩一がだれとつきあってるかなんて」。ここで否定したのは浩一がみなに話してない、偶然知ってしまった秘密を勝手に話しちゃいけないと思ったからでしょうね。肯定することで現実を認めるのがイヤというのもあったでしょうが。
浩一じゃないと聞いてじゃあ誰という風に紅葉は首かしげてますが、あとで浩一の家を訪ねてるのでやっぱり浩一のことだと察したわけですね。

・リストンの屋上。「もう二度と、人を好きになって傷つくのはいやだ。でも」「恵都。あなたは強くなったんじゃなかったの。今のあなたなら立ち向かえるんじゃないの。たとえどんな答えが待ってるとしても」。
台本開いて台詞練習しながら考えてる恵都。あわや失恋かという時にも目の前の仕事、やるべきことから逃げてない。恵都が本当に「強くなった」ことを感じさせる場面です。

・ロケ現場。恵都はロケバスに笑顔で「おはようございます」と入っていくが、中の会話が止まる。そして無視。想像された結果ではありますけれど。真顔になってメイク中の主演女優の隣りに座った恵都は「あの、誰か」とヘアメイクに話しかけるが、メイクの女はぎょろっとした目で「自分でやれば」と意地悪く笑う。見事な悪役演技です。結局自分でメイクやっんだろうか。

・一人浩一の家を訪ねた紅葉は浩一に(恵都が食べそびれた)カレーを振舞ってもらう。「浩一って付き合ってる人いるの」「人に言う必要ないだろう」「意外と経験少ないんじゃないのー浩一 ?」なんて会話が、もろに恵都のために探り入れにきた感じです。浩一もすぐそれと察したことでしょう。
浩一は横目で紅葉を軽くにらみながら「面倒なんだよ」「答えの出ないことは嫌いなんだ」と答えますが「それって自分が傷つきたくないんじゃん。結局プライドが大事なんだよね」と即座に返される。
浩一は呆れたように溜息をついて見せますが、急所をつかれたわりに傷ついたようではない。自分でももともとわかってる、特に恵都がメールを見て帰ったあとは改めて自分のそのへんの心理とずっと向き合ってたんでしょうから。

・立ち上がって「もう帰れよ。おれ仕事だから」という浩一に「恵都今頃メイクもおわってスタンバイしてるころかなあ」「恵都が今なにを求めてるかわかる?」「励ましてもらうこと。それから好きだって言ってもらうことだよ」とじわじわ押していく紅葉。「赤ん坊じゃあるまいし」と流そうとするのへ「恵都は赤んぼと同じだって言ったのは浩一じゃん」「7年ぶりにカメラの前で台詞しゃべるんだよ。足が震えるくらい怖いんじゃないかなあー」と追い打ちをかける。
浩一は顔をしかめますが、それから何か決意したような表情になり、立ち上がるとポケットに手を入れて「ちょっと買い物」と部屋を出ていく。なんだかんだ言っても彼も恵都との恋愛へ向かって一歩を踏み出すため誰かに背中を押してもらいたい気持ちがあったんでは。紅葉もそれを悟ってぐいぐい攻めてみたんでしょう。しかし鍵の置き場所を教えとかないと(外へ出ると自動的に施錠するタイプならいいけど)紅葉が帰るに帰れませんよ?

・マンションを出た浩一はいきなり全速力で走り出す。こんなに本気で走るの足のケガ以来なのでは。ていうか走れないわけじゃないんですね。

・雨のシーンの撮影スタート。シャワーが降る中を駆け出していく恵都。ヒロインに声を投げかける恵都のシリアス演技にスタッフもうなずいている。そして一発OK。監督は「声が出るようになったな。明日の撮影8時からだ。遅れるなよ」と暖かな言葉を。恵都の努力を認めてねぎらい、皆の信頼を取り戻せるだけの演技を彼女ができたとさりげなく伝えてくれる。さすが上に立つ人だけある心配りです。
恵都はちょっと笑顔になって「はい」とうれしそうに答える。いつも真剣な目真面目な顔つきで監督に向かってきた恵都がやっと監督に笑顔をみせられた初の瞬間なのでは。

・監督はスタッフに恵都のためにタオルを持ってくるよう指示する。監督を見送ってじわじわ笑顔になった恵都は明るくスタッフにお疲れ様ですと挨拶し、スタッフも今度はちゃんと返してくれる。これは彼ら自身が恵都の演技を認めたせいもあるし、監督の恵都への態度を見て彼女の扱いを考え直した面もあるでしょう。監督もそこまで考えて恵都にねぎらいの言葉をかけタオルを持ってくるよう指示したりしたんだと思います。

・ヒロイン役の女優がスタッフが渡したタオルを礼もいわず受け取っている向こうで、同じようにタオルを受け取った恵都は「ありがとうございます」と丁寧に返す。芸能界での立ち位置が全然違うとはいえ、スタッフにも礼儀正しく接する恵都が今後現場でどんどん評価が上がっていくだろうことを予感させます。
まあこのヒロイン役の女優も「お疲れさまです」と声をかけてきた恵都に「また明日ね」とちょっと笑って歩いていくのでそう悪い人じゃなさそうですが。あるいは今後芸能界で伸びてくる、あまり粗末に扱わない方がいい相手だと思ったんでしょうか。

・恵都は見物客の中に浩一の姿を発見する。浩一にしてみれば、紅葉に恵都は不安で震えてるかもなんて脅されて飛んできたら、恵都は堂々たる演技を披露してスタッフとも和気藹々という、心配して損したみたいな状況ですね。喜ばしいかぎりではありますけども。
それだけに「おれ必要なかったじゃん」的な、ちょっと居心地悪そうな表情したもののちょっと笑顔に。恵都も最初はこわばった顔(最後に会った時があれでしたから)だったものの、やがて薄く微笑んでいます。自分を心配してきてくれた、その事実をひとまず嬉しく受け止めることにしたんでしょう。

・夜。恵都が歩く少し後ろを歩く浩一。「よく頑張ったな」「うんすごい緊張したけど」「そんなふうには見えなかったけど。プロの顔になってた」。駅で漢字ドリル渡した頃ならエピソードのメインにもなったろうやりとりですが、ここではもっと肝心な言葉が待っている。二人ともその肝心なところをあえて外しながら仕事の話に逃げてる感じです。

・「あのね、浩一」とついに恵都が言いかけるのをさえぎって「おれさ、プライド高いし。マイペースだから女の子と付き合うの苦手なんだ」と浩一の方から切り出してくる。この台詞だけ取り出すと「だから付き合えません」と続きそう。
そもそも女と付き合ったこと自体あるのか、とも思いますが、考えてみればサッカー部時代はもてていたに違いない。ファンの女の子にうるさく群がってこられて、付き合う以前に苦手意識もっちゃったんじゃないかな。「だからネットで、バーチャルなデートしてた」「ごっこだよ全部」。この告白から「ごっこ」じゃない本当の恋愛に踏み出すわけですね。ともに星空眺める姿が彼らの洋々たる前途を思わせます。

・「うちすぐそこだからここでいいよ」「いや。送るよ玄関まで。大人のマナーだろそれ」。ただの“友達”なら必ずしも女の子を玄関まで送り届けるのがマナーということもないでしょう。今までも夜道だからって家まで送ってきたことなんてなかったし(恵都が二話冒頭で車に轢かれかけたときとかも)。
“男と女”だから女の子をエスコートするのが当然という、要は玄関でのお付き合い宣言より一足早くもう告白してるようなもんです。

・玄関というから玄関外かと思えば玄関の中まで入ってくる浩一。出てきた母親に目礼。ちょうど父親と知佳もコンビニに行こうと出てきて顔合わせてしまう。中まで入ったのは母親に挨拶するつもりだったんでしょうが、父親まで(さらに妹まで)出てくるとは浩一もよもや思わなかったでしょう。
さすがにちょっと気後れした顔になったものの、「こんばんは」「恵都さんとフリースクールで一緒の峰と申します。恵都さんとお付き合いさせていただいてます」。おおしっかり言い切った!恵都が堂々たるプロの顔で大勝負をものにしたのに触発されて自分を鼓舞した部分もあったか。

・驚いた顔で浩一を見る恵都。そりゃ抜き打ちもいいところですからね。こちらも動揺しつつも上がってお茶でもという母親に「今日はもう遅いので帰ります。」と浩一は出て行く。見送った恵都が正面に向き直ると父の困惑顔と知佳のショック受けた顔が。俯いてしまう恵都。
まさかの展開ですから恵都的には俯くしかない。言うだけ言って自分は帰っちゃうんだからある意味「言い逃げ」だよなあ浩一。そもそも親に宣言するより先にまず恵都にちゃんと告白しろよ。
・恵都が浩一を追ってくる。「何走ってきてんだよ。意味ないじゃんせっかく送ったのに」「でもどうしても言いたいことがあって」。ここの会話ちょっと距離離れたままで話していて、今さら他人行儀ぽなあと思ったら会話の流れに応じて距離を縮めていくための伏線でした。いい構図です。

・「嘘ついちゃだめだよ浩一」。この言葉に浩一はちょっとショック受けた顔に。そりゃメール読んで無言で帰った恵都の態度とかわざわざ家まで押しかけてきての紅葉の言葉とか、恵都が自分を好きなのはもう決定事項だと思ってたでしょうから。さらに「あたしたち付き合ってなんかないじゃん」と追い打ちをかけるような言葉に「そっか・・・」と力なく呟く。
こんな誤解されそうな言い方じゃ浩一が可哀想みたいですが、いきなりの宣言に驚かされた仕返しってことで(恵都にそんな意図はないでしょうが)相殺ですかね。

・「これから付き合うんだよ」。浩一も視聴者も一気にほっとさせてくれる一言。「浩一はいつもそばにいてくれたよね」「あたし、今まで浩一にしてもらうことばっかりで、してあげられることとか本当に悲しいくらい何もなかった。だからせめて今日はあたしから言わせて」「浩一、あたし、あたし、浩一のことが、好きです。付き合ってください」。
ゆっくり、本当に一言一言を一生懸命に考えながら口に出してるのがわかる恵都の告白。洒落た台詞より何より胸にずんと響いてきます。浩一幸せ者だなあ。浩一も真顔の感動顔でそんな恵都を見つめています。
そして無言で目の前に立って「こちらこそ、よろしく」と右手を差し出す。恵都はその手を握りかえし、そのまま二人は自然と寄り添い浩一が恵都を抱きしめる。二人の周りをカメラがぐるぐる回りながら抱き合う二人をじっくりと映す。駅の別れと並ぶ気合いの入った名シーンです。
・リビングで晩酌する恵都の両親。「泣いてるの?」「こんなこと心配できるようになったと思うとさ。ボーイフレンドだぞ」「そうね」。二人の会話が暖かい。恵都の場合7年間があれだっただけに何をやっても親に喜んでもらえる許してもらえるところがあって、また知佳がひがむんじゃないかとちょっと心配になるくらい。

・舞台でもう一人を相手に踊る剛太。客席で見てる紅葉たち。例のヒップホップコンテスト本番てことですね。客席の反応は上々な感じ。
剛太がコンクールに出た直接の動機は賞金でしたが、他はなんもないんでしょうか。大きな事務所から声かかるとか自動的にテレビ番組への出場決定とか。まあ新人賞ってものは往々にしてそれだけでは後のキャリアに繋がらなかったりするらしいですが(それを足がかりに積極的に売り込みしたり運良く向こうから声かけてもらえたりしないと)。
まあここはドラマでもあり、きっと(作中では描かれてませんが)どこかの事務所から声かかって華々しくデビュー、人気ダンサーへ、というルートを歩むんでしょうが。

・そして優勝者発表。剛太の名が呼ばれて恵都たち三人は微笑むが、喜びの一言をどうぞ、とマイクを向けられた剛太の姿に恵都たちの顔こわばる。応募から審査までの間、良くも悪くも吃音が発覚せず来ちゃったわけですね。
案の定声が震えてしゃべれない剛太。感激のあまり、というには不自然な様子にさすがに客席もざわつきはじめるところへ、紅葉が「剛太サイコー!さすがあたしの彼氏ー!」と大きく声をかける。これには恵都たちも剛太もびっくりですが紅葉は晴れ晴れとしたいい笑顔。
紅葉と剛太もいつのまにか自然と付き合ってるぽくなってた感じのカップルなので、もしかしたらこれは浩一の交際宣言同様の抜き打ち告白だったのかもしれません。

・紅葉の勇気ある、堂々たる宣言を受けて浩一が、ポーカーフェイスの彼としては嘘みたいにいい笑顔で、続いて恵都が大きく拍手する。浩一は恵都と本式に付き合い出してからまた一つ殻を破ったというか表情が豊かになったような気がします。ラスト恵都のステージで涙ぐんでたことといい。

・やがて周りにも拍手広がる。これでいい感じに収まったと思ったら、なんと剛太が一歩前に出てマイクを引ったくると「ありがとう」と一言だけながら震えずにはっきり告げる。紅葉の勇気ある行動に背中を押されて自分も、と奮起したのが伝わってきます。
紅葉は驚きの顔から笑顔になり、剛太も二重の意味で嬉しそうに頭下げる。これをきっかけに完全に吃音が治ってしまったりしないのも、かえって勇気が呼んだ奇跡という感じで胸に響きます。

・リストンの自室でダンボールを整理するスクール長の部屋に恵都たち四人がどかどか入ってくる。はっきり触れられはしませんが明らかに身辺整理、リストン廃業は決定したと示す光景です(実際にはこの建物が使えなくなるだけで規模縮小して営業は続けるとわかりますが)。
剛太がどもりながら「優勝した」。剛太の賞金の20万、紅葉がフリマで稼いだ金と恵都のギャラ、浩一のソフト売れたお金が次々差し出される。先にプレゼンすっぽかした会社なのかはわかりませんが、無事ソフトがものになったんですね。

・スクール長は「立派になったなあおまえら」と感慨にふける。自力でお金を稼ぐというのは一人前になったことのバロメーターの一つですからね。しかし「じゃあこうしようか。これから卒業式やろうか」とスクール長は思いがけない提案を。
一人前になった=卒業というのはスクール長的には当然の考えですが、スクールを存続させるため、自分たちの居場所を守るために頑張った恵都たちにしてみれば、卒業=リストンから追い出されるというのは不本意な結果としか言いようがない。「卒業式?」と問い返す恵都がちょっと泣きそうな表情になっています。

・スクール長は食堂で「それでは今から卒業証書を授与します」と各自にお金を返す。「それは全部君たちへの卒業祝いだ」。
自宅を新しいエル・リストンにするなら家賃はいらないでしょうが、改造費用とかもろもろの維持費は必要なはず。そんな時なのに4人もの、それもリストンに人一倍の愛着を持ってくれてる生徒たちを卒業させたうえ、貴重なお金も全額返してくれる。ここであっさり受け取っちゃうようじゃ確かにお話にならないんですが、スクール長の勇気ある決断が感動的です。

・「息子の話したことあったかな」。スクール長の事情については第3回で浩一の口からすでに語られていますが、この建物のオーナー(スクール長の理解者)というのが死んだ息子の同級生の親というのは初耳。もしかするといじめた当事者の親だったり?
そうではないとしても同級生の親というなら、いじめに苦しむ子供を見殺しにしてしまった罪悪感があっての行動だったのかもしれませんね。

・そのオーナーが去年亡くなった、だからもうすぐこの建物は使えなくなる、それは残念だが「だけど君たちにとって一番大切なことはこういう場所がもう必要じゃなくなるということなんだよ」「君たちはもう十分やっていける。自分の意志と力で」。
まだまだ手助けの必要な子のために我が家を改造してエル・リストンを続けるつもりと続けるスクール長。あくまでリストンは一時疲れた心を休め新たに羽ばたく力を育むための場所。その考えはストーリーを通じて一貫しています。

・「ここに来る子たちはみんな何か一個足りないものを抱えてる。その分人にはないものを持っている。おれはそう信じている。信じてやりたいんだ」。
確かに恵都も浩一も紅葉も剛太も人にはない才能をもっていた。フィクションだけに彼らの才能はわかりやすい形で示されていますが、それ以外の子供たちも、現実世界でフリースクールに通ってる子たちもきっと何かを持っているはず。そういうメッセージを篭めた、視聴者へ当てた台詞なんじゃないでしょうか。

・浩一は「ありがとうスクール長。おれたちエル・リストンを卒業します。これからは一人一人自分の足で歩いて頑張っていきます。な?」 
上で書いたように自分たちの居場所としてのリストンを守りたいために頑張ってきた4人にとって「卒業」は不本意な結末のはず。特にいち早くリストンの経営危機に気付いた浩一はそれだけ努力した期間も長かった。なのにその彼が真っ先にリストン卒業に同意する。それはスクール長の言う通り今の自分たちに羽を休める場所としてのリストンは必要なくなっている、リストンを守るための戦いを通して自分たちはリストンがいらなくなるくらい強く成長できた、その手ごたえをはっきり得たからでしょう。
それは彼のみならず4人に共通する思いであり、浩一もそれをわかってるから「おれたち」と発言したのだと思います。実際剛太・紅葉も続けて頑張る宣言しましたしね。
・そして最後の「な」は恵都の方を向いてとても優しい声音で言う。こういう何気ないところに二人が付き合ってる感が出てます。スクール長は一人一人の頭に手を置いて別れの挨拶。恵都は涙目の笑顔でそれを受ける。またとない素敵な卒業式です。

・四人で手をつないで並んで歩く。右から浩一・紅葉・恵都・剛太という並び順。恋人同士が手を繋がない並び順なのは4人の友情を示す場面だからですね。
「それでも人生の散歩道はまだ遥かで、あたしたちは迷うこともあるだろう。そんな時は隣りにいる友の手をそっと取ればいい。暖かな手がきっとそこにあるから」。エンディングテーマの映像を彷彿とさせる並んで歩く4人の姿も恵都のモノローグも実に美しい。見事な幕切れです。

・そして後日談とも言うべきラストシーンは恵都の舞台。恵都のメイクはマーサが手がけてる。恵都誘拐事件のとき「奈子のヘアメイク」と電話してきたそうだから奈子専属なのかと思ってました。二人の繋がりの強さからいっても普段はそうなのかも。
恵都の(大人になってからは)初舞台ということで特別に奈子が貸してくれたってことなんじゃないですかね。だったらちょっといい話。

・客席に浩一たち三人。離れて青山一家。奈子とマネージャーの姿も。さらにあわてて開演ぎりぎりに飛び込んでくる大洋。彼女同伴じゃないんですね。恵都はきっと二人分チケット用意しただろうから大洋もしくは彼女の方で遠慮したのか。
恵都にはもう浩一がいるんだし、何より大洋のキャラ(というか友達として恵都と自然に付き合いを続けたいという宣言内容)とそぐわない気がするんですが。

・そして開始のベルが鳴る。奈子はちょっと泣きそうな顔に。幕が上がる。セリで一人出てくる恵都。真剣に見入る剛太。胸で手を組み笑顔こぼれる(わくわくしてる感じの)紅葉。そして頬杖ついて一見クールそうでいながらもう涙ぐんでる浩一。
正直この表情にやられました。泣いちゃいますか!浩一は実に魅力的なキャラクターで、ここまでもいい表情がいっぱいありましたが、最後の最後でとどめをくらった感じです。民放の連ドラ枠で放送してたら、一気に人気沸騰していたかも。まあその場合、これだけの作品のクオリティは保ててなかったでしょうけど。

・ステージ中央に一人堂々と立つ恵都。過去の自分を思い出しながら、隣に立つ子供の自分と手を繋ぐ。過去を捨てる、忘れるのでなく、向き合いながら前に進んでいこうとするそんな決意が見えるようです。ライトを浴びて笑顔になり前へと走って大きく手を広げる姿も恵都の前途を象徴しているように思えます。


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『キャットストリート』(2)-5(注・ネタバレしてます)

2012-09-01 22:50:07 | キャットストリート
〈第五回〉

・「生まれてはじめて携帯電話を買った」恵都。リストンの庭で一人携帯をいじりながら「途方にくれるほどあたしにはなにもない。少しでも自分の力で七年間の空白を埋めないと」。
現代必須のコミュニケーションツールである携帯を買ったのもその第一歩ということですね。確かに今どき何の仕事するんでも連絡先として携帯なしってわけにはまず行きませんからね。

・紅葉と剛太がやってくる。人生初メールを送った相手は紅葉。紅葉いわく「よ、読みづらい」。
紅葉が剛太に渡した携帯の画面が映ると、なんと文字が全部ひらがな。浩一じゃないけど「これはひどい」。一応小学校4年までは学校行ってたんだからもう少しくらい漢字使えないものか。

・浩一にもメール送れと言われた恵都は戸惑った様子でまた今度と言ってしまう。いい別れ方とはいえなかったし、「一人でも耐え抜け」が彼のメッセージでしたからね。
「まだどうなるかわからないけど一人で頑張ってみるんだ」という恵都の所信表明は、浩一の名前を聞いて改めてその思いを強くしたからでしょうね。

・一人コンビニで買い物する浩一は恵都のPVが流れてるのを見つめ、その後雑誌棚の雑誌に「話題のPV女優 天才子役からヒッキーに」なる見出しを見つけてはっとする。
まあPVが話題になれば過去のネームバリューも含めて当然考えられる展開でしたね。学校まで批判にさらされるのは予想外でしたが。

・いつものようにリストンに来た恵都はみんなに妙に見られてるのをいぶかる。飛び出してきた紅葉はあわてた様子で事情説明しないまま恵都を連れていこうとするが、そこに女の子二人が二階から降りてきて雑誌をつきつける。
紅葉は雑誌を押しやり恵都には関係ないでしょと女の子たちを睨みつけますが、「関係なくない、そのせいでこの学校のことまで書かれてる」。しかもその内容たるやリストンが恵都を広告塔にしてお金儲けするいんちき学校だと。恵都が愕然と目を見開くのも無理ありません。

・カメラマンがリストン看板の写真を取りまくり、ちょうどやってきた剛太にもインタビューしようとする。剛太は何も言わず(言えず)スクールに入っていく。
リストンの中でも紅葉が恵都を奥へ連れて行くのを女の子たちがついてきてなおも攻め立てる騒ぎが起きている。紅葉が怒って向き直ったところへさらにカメラマンたちがどんどんと入ってくる。
恵都に気づいた彼らが写真を取ろうとするのを、紅葉が恵都を奥へ連れていき剛太はカメラマンを体で止める。不登校になった直接の原因はクラスメートのいじめでも、外の人間全般に対する恐怖心があると思われる剛太が恵都を守るためにその外の人間を相手に体を張っている。剛太の勇気が胸に沁みるシーンです。

・騒ぎの中スクール長がやってくる。すがるようにスクール長に寄っていく剛太。そこへカメラマンたちも群がってくる。出ていってくれとスクール長が言うのに「取材に来ただけじゃないですか」「楽しそうな学校ですよね。来るのも帰るのも自由。おまけに芸能人も」といけしゃあしゃあとしている取材陣。特に「楽しそうな学校ですよね。来るのも帰るのも自由」という言葉にはフリースクールという存在自体への揶揄、反感が篭っています。

・「そういう考え方が子供らを追い詰めていくんだろう。誰でもすんなり生きられるわけじゃない。道を見失うこともある。ここはそういう子供たちのための場所だ。あんたらが興味本位で来ていい場所じゃない」と強く言い切るスクール長。スクール長が一番格好よかったシーンかもしれない。
スクール長自身も自分の息子がいじめで不登校になり、最終的にいじめっ子たちに殺されたことでフリースクールを立ち上げようと考えた。自分の身近な人間が傷つかないかぎり、なかなか「逃げ場所」を肯定はできないものなのでしょうね。

・生徒の母親がスクール長に、夫からこんな騒ぎになる学校ならやめさせろと言われたと話に来る(子供自身は本意じゃなさそうでしたが)。こういう親は一人ではなかった模様。
改めて記事を読み腹立てた紅葉は出版社に乗り込もうと息巻く。ただでさえ経営が苦しいのにこのままじゃどんどん生徒がやめちゃう、という紅葉の言葉はすでに現実になりつつあります。
「そんなことしたって無駄だよ」と呆れたように言う浩一。おや浩一がエル・リストンにいる、さすがにこの騒ぎが気になって久々に顔を出したのか、と思ったら背景からして実は浩一の家に紅葉たちの方が出張ってきたらしい。ということはこの騒ぎでさえリストンに来なかったんですねえ。

・「なんでそんな冷静なの!エル・リストンがつぶれてもいいの!」と怒る紅葉。「だいたい薄情だよ。こんな騒ぎになってるのにスクール来ないしさ」。浩一は無言で恵都に目をやるだけで何も反論しない。しかしそれだけで何事か察した恵都は浩一の作業を邪魔しようとする紅葉を止める。
「もしかしてスクールのため ?急にソフトを商品化するってがーってやってたのってスクールの経営が危ないって知ってたからじゃないの」。恵都だけが早く浩一の真意に到達できたのは、これも浩一に対する根本的信頼感の強さがなせるわざなんでしょう。

・浩一はリストンのオーナーが亡くなったために経営が苦しくなった事情を語る。さすがはパソコンオタク、紅葉以上の情報通です。「そこに今回の事件でダメ押し」。
この一言がスクールの現状に責任感じてる恵都への「ダメ押し」になったらしい。「あたしもなんかする。スクールのためにお金儲けする」と恵都は決意表明し、紅葉は恵都のせいじゃないというが浩一は「いいんじゃない。あんな記事は放っときゃいいけど経営危機はマジだし」と恵都の「お金儲け」をむしろ推奨。
浩一は恵都を常に楽じゃないほうへ背中を押しますね。逆に紅葉(剛太も)の言動はたいてい恵都を甘やかす方向に向かってますが、それはそれで悪いことじゃない。恵都の辛さを我が事のように怒りかばってくれる紅葉がいるからこそ、心慰められた恵都は浩一のキツい助言を受け入れられるのでしょうし、恵都自身にも楽なほうに流されない強さが備わってきてますしね。紅葉と剛太がいて浩一がいることでちょうどいいバランスが取れてるんでは。厳父と慈母みたいな感じで。
・紅葉はちょっと考えてからみんなでお金稼ごうと言い切る。「紅葉は洋服やアクセサリーを作ってフリーマーケットで売ることになった」「剛太はヒップホップの大会に出て優勝賞金を狙う」「あたしは・・・あたしには何ができる?」 
リストンの看板を見つめる恵都は久々にやってきた浩一に出会う。いわく「資料置きっぱだったの取りにきた」。二人で門の前で話してるところに男三人組が。例によって恵都目当てらしく本当にいたと騒ぐが、続けて「ていうかあれ浩一じゃね?」「何あいつヒッキーになったの」。実は昔浩一を痛めつけたというサッカー部の連中だった。久々にリストンに来た日に限ってこんなのに遭遇するとは浩一もついてない。

・無視して門をくぐる浩一にからんでくる男たち。「おれたちのことバカだクズだ言いたい放題だったよな」「人生終わってんな」「終わらしちゃえば」。
これだけ言われながら毒舌の浩一が何も言わない。以前反省してたように、自分が言われて一番嫌だったひどい言葉を彼らにぶつけてきたことに引け目があるからか、ここで怒りに流されちゃいけないと思ってるのか。
おそらくはそれ以上にもっと単純な理由、一年も入院するほどの傷を負わせた相手に対する恐怖感で体がすくんでいるというのが正解なのでは。強いことを言っても、強がってみせてる分だけナイーブな男だと思いますし。
・いっさい反撃しない浩一と反対に恵都は一人走っていき、ホースを持つと勢いよく男たちに水をぶっかける。「人のこと言えるくらいあんたたちはすごいの!?浩一をバカにしたらあたしが許さない」。
前にも書きましたが、仲間を守ろうとする時の恵都の行動の思い切りの良さには胸がすく思いがします。たまらず門から逃げていく男たちに「バカー!二度とくんなー!」と叫ぶあたりも。
そんな恵都を窓から見てるスクール長。そして目を見張る浩一。基本クールな浩一がこれくらいはっきり顔色変えるのは初めてかも。それが次第に泣き出しそうな表情になっていく。微妙な表情変化が見事です。

・久しぶりにパソコン部屋にいた浩一のところにスクール長が。経営危機を心配する浩一にスクール長は浩一が気持ちを素直に出せるようになったことを指摘。「変わったな。とくに恵都がきてから」。この台詞にはさっきの恵都の奮闘とそれに対する浩一の反応を見ていたゆえの感慨も含まれてるんでしょう。
ここで振り向いた浩一がちょっと目を見開き驚いたような表情に。それも単純な驚きでなく動揺や照れも含まれた複雑な表情。無口とはいえない(長台詞も案外多い)けれど肝心な感情はもっぱら表情にのみ表れる浩一を演じるうえで勝地くんの表現力はまさに最適ですね。

・ハンバーガー屋のアルバイト募集のちらしを見て「逃げちゃだめ」と三回自分に言い聞かせて中に入ろうとした恵都は、出てきた店員にバイトさせてくださいと搾り出すように言う。芸能界でなく一般バイト方向に行きましたか。
その後報告メールを受ける浩一。「けいとです」とタイトル。全部ひらがなでバイト決まったことが書いてあるのを見て「これはひどい」と呆れながらも嬉しげに笑う浩一。決してバカにした感じではありませんが、でもその後ちょっと考えるような表情になっています。
バイトが決まったこと、それも他人にもまれて働くことを選んだ(浩一も紅葉も剛太も皆以前からの特技を生かした一人でできる作業を選んでる)恵都の勇気には素直に感心している、しかしこの漢字力のなさはどんな仕事をするにもマイナスになると危惧してるんでしょうね。

・恵都は自室で浩一の返信を受ける。「頑張れ」と一言だけ。でも読めない。
浩一は読めないと承知のうえであえて漢字で送ったんでしょうね(紅葉や剛太ならきっと恵都に合わせて全ひらがなで送るところだろう)。読むために辞書を引くことを覚える、それ以上に漢字が読めない不便さを知るべきだという親心でしょう。
・食事準備してる母は恵都がリビングで辞書を探しているのを見つける。最初から母親に聞かず自力で調べようとしたのは恥ずかしかったからにもせよ立派。
「読めない字があって」という恵都に「どんな字 ?」と尋ねた母は携帯を見せられ「お友達から?」「頑張れって」と教えてくれる。
この時母親はずっと笑顔ですが、「頑張れ」さえ読めない娘がさすがに心配にならなかったものか。頑張れと言ってくれるような友達が出来たことを単純に喜んでるだけでしょうか。

・リビングに入ってきた知佳は「あんたお母さんに言うことないの」「お母さんも、ちょっと普通になってきたからって遠慮しちゃってさ」「お母さんの気持ち考えろっていってんの。週刊誌にあんな記事が載れば心配するの当然でしょ」。きっと自分も迷惑したのにそれを持ち出さないのは知佳の成長か。
恵都はずっと家族と話す習慣を失っていたから素で親へのフォローまで気が回らなかったんでしょうが、両親があの状況で恵都に何も尋ねないのは確かに不自然ですね。そこを知佳が指摘したのは以前のように恵都への敵意で彼女を弾劾するためだけではなく、恵都と母の関係を正常化したいと(恵都のためでなく母のためだけだとしても)思っての行動のように見えます。

・「恵都ちょっとこっちにきて」と座らせた母は、スクール長から電話もらって事情を聞いて安心した経緯を話す。「ごめん心配かけて」「でも全部うそだから」「お金は大変みたいで。それであたしも友達も力になりたいと思ってる」「だから明日からバイトはじめるんだ」。
思い切り事後報告な恵都。未成年がバイトする場合は契約書に親のサインが必要だった気がするんですが、そこはどうしたんだろう。勝手にサインして出すなんて恵都は性格的にできないだろうし?

・翌日?外を歩く浩一は一人恵都の働く店の前へ。ろくな食事も食べずプログラム作りに邁進してる浩一も、さすがに恵都のバイト初日がどうなるかは気になった模様。
カウンターの恵都は「お願いします」とやや震え声でオーダーを奥に取り次ぐ。カップに氷入れたりしてる恵都を浩一は窓越しに覗く。出てきた料理に自分が作ったオレンジジュースを添えて「お待たせしました」と渡す恵都に客が札を出す。おっかなびっくりだけどまあ問題なくやってる感じです。
しかし店の従業員も客も誰一人恵都が誰なのか気付いてないんでしょうか。特に店の人はフルネームも(履歴書見たはずの店長なら学歴も)わかってるはずなのに。

・レジ゛を操作しておつりを返す恵都に後ろについた先輩が「声が小さい」とキツめの声で叱る。声が小さいのは単に接客にびびってるからかとこの時は思いましたが、映画のオーディションで声が出てないと言われる場面を見たあとだと、伏線だったのかと思えてきます。

・少し大きく声を出した恵都は動揺して釣銭を落とす。浩一があちゃーという顔になるがしょーがないなって感じで笑う。
そんな時マーサが登場。窓ごしに恵都の顔を確認すると(ここで浩一が訝しげにしてる)中へ入って床の釣銭さがす恵都に小銭拾って渡す。恵都はその顔を見て「マーサ」と驚く。
「学校行ったらここだって聞いて」とマーサは言うが誰が教えたんだ。浩一が面白くなさそうな顔で引き返していきますがやっぱり妬けるんでしょうか。前に一度見かけたヘアメイクの男だと気づいてるのかな。

・マーサは店の外で「映画のオーディション、知り合いに頼まれちゃったんだよね」と恵都にチラシを手渡す。恵都はバイト抜けてきたのか?PVはまぐれだと断る恵都に、受けるだけでもどう、こんなこと行っちゃあれだけどギャラだってケタがちがうし、と説得にかかるマーサ。ひょっとして恵都のバイト理由まで察しているのか。
「ギャラ ?」とつぶやいた恵都は、帰り道歩道橋?の上から踊る剛太を見つめて微笑み、そして決意の顔をあげる。剛太も賞金のため頑張ってる、あたしも稼がなきゃ、ということでしょうね。

・オーディション会場。大勢集まった中に恵都の姿も。配られた台本を開くが全然読めない。台本が読めないというのは恵都的には盲点だったんでしょうね。子役のときはお母さんが台本にふりがな振ってくれてたんだろうし。
そういやバイト先のメニュー表はちゃんと読めてるんだろうか。ハンバーガーショップはほとんどカタカナのメニューだから問題ないのか。

・思わず「どうしよう」とつぶやく恵都に周りの子がなんだろうと聞いてくる。「あたし漢字読めなくて」「だって中学で習う字ばっかだよ」「小学校しか行ってないから」「バカな子って多いのかねえ」。
まあこういう場だと小学校しか行ってないと言っても、芸能界の仕事が忙しくてなかなか授業に出られないという意味に取ってもらえそうです。

・「・・・あれ ?もしかして青山恵都 ?」 周りの視線がなんとなく恵都に。右隣の子も「マジで ?あたし子どものころファンだったよ」。
この会場に来てる子たちは多くはどこかの事務所に属してる、すでに多少のキャリアはある子たちばかりかと思いますが(主役のオーディションなんだし)、それでも過去の人と言っていい恵都にこれだけ注目集まるんだから、かつての恵都はよくよく名が売れてたんですね。

・右隣の子の台詞に奈子にも最初ずっと大大大ファンだったと言われたことを思い出す恵都。思わず立ち上がった恵都にその子が「待ってて。すぐ振り仮名ふってあげる」と微笑む。「この世界みんなライバルだっていうけどさ、いい作品を作りたいって思う気持ちはみんな同じなんだから」。
優しい言葉に「ありがとう」と安堵の笑みになる恵都。なんか悪い予感の漂う展開です。

・恵都の版が回ってくる。「よろしくお願いします」と一礼して台詞をシリアスに読み始めるが、審査員がみな顔しかめて台本に目を落としたりしてる。ついに途中でストップをかけられ「君ふざけてんの?」。
「え?」と台本見直して固まる恵都。向こうの椅子で順番待ちしてる例の女の子たちが笑ってる。ああやっぱりこうなったか。「たまにいるんだよねこうやって目立とうとする子」「だいたい発声がだめだって。子役辞めて何年経ってるの」など口々に否定の言葉をあびせられる。
PVとは違うんだから勉強し直した方がいいよ、とも言われてますが、確かにあのPVは台詞がなかったので漢字読めなくても発声ダメでも関係なかった。あの仕事以外だったらあの時点の恵都に代役務まったかどうか。

・「監督すみません変なのまぎれこんじゃって」と審査員の一人が笑いながら詫びてますが、監督は案外真面目な顔で履歴書?を見直してる。あとでリストンを訪ねてきたときの感じじゃ、客寄せパンダに恵都を使おうというのは上の判断で監督はいやいやみたいでしたが、ここで恵都に注目してるぽいシーンがあるのは何なのだろう。
本当は恵都の7年間の経歴(のなさ)、にもかかわらずある程度のクオリティを保っていたことに見るべきものを感じて、客寄せパンダだからってことで回りを説得して友達役に抜擢した、とかなんでしょうか。
・リストン屋上に一人立つ恵都は「ばかやろー!ふざけんなー!」と大声でさけぶ。恵都を嫌ってた子たちは今日は休みなのか何も言ってこない。騒ぎが収まるまでは登校を控えてるかもしくはすでに辞めちゃったとかなのかも。
「うるせえよ」と庭を歩いてきた浩一が言う。またリストンに顔出すようになったんでしょうか。恵都がどうしてるか気になったから?

・「ほんとうにうるさい?」 「うるさい」と答える浩一が訝しげなのは恵都が「うるさい」と言ってもらいたがってるようだったからですね。
恵都は「発声がもうだめだっていわれたー」とまた叫ぶ。ということは浩一にオーディションのこと知らせてたんですね。「ぜんぜんダメだって。勉強しなおせって」。「それで?どう思った?」と浩一が問い掛ける声が何だかとても優しい。恵都が叫びつづけてるだけにコントラストが鮮やかです。

・「かーって胸のところが熱くなって初めての気持ちでわけわかんなくて」。ここで「悔しかった。このままじゃ終わりたくない」とモノローグ。
ダメだと言われて落ち込み諦めるのでなく、悔しい終わりたくないと感じる。怒りや悔しさは人が行動し成長するうえでのまたとない原動力。この二つをしっかり持っている恵都はきっと挽回するに違いないと確信させてくれる。
こうした恵都のバイタリティを見るにつけ、子役時代奈子の裏切りに打ちのめされ7年も引きこもってしまったのが信じられない気がしてきます。それだけ当時はお母さんに頭押さえられて萎縮しきって生命力が弱まってた、フリースクールに通ってることで世間的には敗残者と見られてる今の方がいい友人もできて心が強くなってるってことでしょう。スクール長がエル・リストンに託した願いを一番体現してるのが恵都なんじゃないでしょうか。

・駅での別れ際に浩一が何か袋を渡してくる。「一応。小3から中1まで買っといた」。出してみると漢字ドリル。「間違えた漢字は20回は書く」「うん」「わからなくてもすぐ後ろの答えを見ない」「うん」「腹筋も毎日30回」「ありがとう浩一」。浩一は無表情に見えるがちょっと照れてるような。言い方も事務的に聞こえますが恵都への気遣いが詰まっています。

・「それより紅葉にメールしとけよ、心配してたぞ」「うん。あ、マーサにも謝っておかなきゃ」。ここでわずかに浩一の表情がこわばり、「じゃ」と去ろうとする。「え、もう?」「忙しいから」。
恵都にこのへんの機微はまだわからないでしょうね。浩一も剛太には全然妬かないんですけどね。

・「本当にありがとう」と後ろから声かける恵都に浩一は振り向かず足も止めず。恵都もちょっとさびしそうです。踵を返しエスカレーターに向かおうとすると、ちゃらちゃらした男が「こんなとこでなにしてんの」と声かけてくる。駅にいる人間に何してるもないもんだ。
無視して向こうに行こうとする恵都の肩を男がつかんでくる。その手は割とすぐに離れるのですが、後ろ向いたままの恵都が理由に気付くのはもう少しあと。

・今度は肘を掴まれてはっと振り向いた恵都はそこに浩一がいるのを見る。男は「男連れか」と面白くなさそうに去っていく。結局浩一も恵都を無視するような態度取ったの気にして振り向いてみた(だから男に絡まれてるのに気がついた)わけですね。
しばらく無言で視線をさまよわせていた浩一は「わからなかったら、してもいいから」と唐突に言う。意味わからずきょとんとする恵都に、意を決するようにちょっと眉根寄せて「電話でも。メールでも」。なんかこう、素直じゃないところが可愛いんですよね浩一は。「・・・たぶん、すぐするよ」「すごく、いっぱいするよ」。逆に恵都は実にストレート。でもお互い別の形で不器用。なんとも微笑ましい。
ちなみに浩一は恵都のたどたどしい台詞のあいだ、無言真顔だが情熱を秘めたような目で恵都を見る→ちょっと目が微笑む→目をそらし口元も笑う、と表情が変化していき「してもいいけど、句読点、つけろよ」。ああほんと微笑ましいです。
浩一の言葉にしばらく目をさまよわせる恵都。何か言いたげにしばらく唇を動かす浩一。そして「がんばったな、オーディション」の言葉に恵都の目がうるむ。浩一も優しい真顔。恵都の右頬を涙が伝う。二人の表情をかわるがわるじっくりと捉え微妙な感情の機微を描く。
そして最後は夕日の中立ち尽くす二人のシルエットを斜め上(エスカレーター上)から見下ろすアングルの美しい画面で締める。このドラマの白眉というべき名シーン。

・学園ドラマ?の撮影現場。一人端の椅子で台本を読んでる奈子のところに足早にマーサがやってきて横にかがみこみ、「オーディション落ちましたよ青山恵都」と報告。「そおお」と気がなさそうに答えた奈子はちょっと笑って「この台本結構いける。久々にやる気わいてきた」。
「久々」なのか。奈子がやる気を失ったから演技が叩かれてるのか演技を叩かれるからやる気を失ったのか。ともあれ一時的にせよあれだけライバル視してた恵都のこともさほど気にならなくなってるようなので、悪循環を断ち切り女優として評価を取り戻すチャンスだったんですけどね。
・少し離れたところで奈子のマネージャーが携帯で「待ってください。奈子もせっかくやる気になってるしスケジュールだって空けてるんですよ」と不穏な会話を。電話切られたマネージャーは意を決したように奈子のもとへ歩いていく。
「この役気に入った。クランクインいつから?」と尋ねる奈子に「・・・ごめんね奈子。その役なくなった」。変に言いよどまずきっぱり言い切るのは、どう優しく言っても役がなくなった事実は変わらない、しっかり受け止めさせないと、という彼女なりの気遣いでしょう。
あんな騒ぎを起こしたのに事務所内で仕事干されてるでもない奈子は、多分小さな事務所一番の稼ぎ頭なんでしょうね。その奈子がこれだけ低迷してたら事務所全体も危ういんじゃないのかなあ。

・マーサも含めしばし沈黙の後、「急にスケジュールが変わっちゃって。困るわよね。ちゃんと言っといたから」と目をあわせず手帳をめくりながら言うマネージャー。
「違うんでしょ」「はっきり言ってよあたしじゃダメだって言われたんじゃないの」。奈子に詰められて「・・・その通りよ。もっと旬な子が欲しいって」とやむなく教えるマネージャー。
泣きそうな顔になってスタジオを出てく奈子。ずかずか歩いて前にいた子を突き飛ばしながら謝りも振り向きもしない。ショックなのはわかりますが、こういうところで評判落としてますます自分を追いつめてるんじゃないのかなあ。この役降ろしの一件がなければ、恵都を閉じ込めようとまではしなかったでしょうに。

・リストンに笑顔で入ってきた剛太はベンチで本読んでる恵都の肩を後ろから叩く。「な、な、何の本」「オーディション。こうなったら受けまくってやろうかなって」。おお気合いが入っている。ドリルと腹筋も頑張ってるんでしょうね。

・そこへ紅葉が走って部屋に入ってくる。「ごめーん !集合かけておいて遅刻した」「フリマ用の服が出来たから見てもらおうと思って」。
このときなぜか剛太は笑いながら出ていこうとする。「剛太逃げるの」と牽制した紅葉は「紅葉ブランドメンズ部門オープンしましたー!」と黒いレースの服を見せる。顔ゆがめて後ずさりする剛太。そんなに嫌なのか。それほど悪いデザインじゃないと思いますが、まあヒップホップ的感性とは対極な服って気はしますからね。

・剛太を追いかけて強引に服を脱がす紅葉。裸になった上半身に恥ずかしがる剛太と意識したのか立ちつくす紅葉。初めてこの二人の間にわかりやすいフラグが立った瞬間です。

・そんなところへスクール長が来て「恵都。お客さん」。訝しげに恵都が食堂?に出て行くと男が二人掛けている。一人が立ってきて「いやーこの間はお疲れさま」。座ってるもう一人は恵都の履歴書を見返していた審査員。ここでこの人が例の映画の監督だったとわかります。腕組みして難しい顔してる姿から頑固そうな人柄を台詞のないうちから予感させます。

・「実はあれから相談して、やっぱり青山恵都ほどの子を落とすのはもったいないと」「どうかな。主役じゃないけどその親友役をやる気はある?」 あたりさわりない表現を選ぶ男と反対に監督は「言っとくが欲しいのは君の演技力じゃない」「元天才子役で今は引きこもりの青山恵都。話題作りのための依頼だ」。
あまりにストレートな発言にもう一人の男が頭抱えたそうな顔をする。さらに続ける監督をさすがに男がさえぎり監督も「まあいい」と黙ったものの「とにかく君は単なる客寄せパンダだ。それでもやる気はあるか」とダメ押しのひどい言葉を。しかしこれは監督なりのフェアプレー精神ゆえだと思います。恵都に彼女の置かれた立場、回りの見る目をはっきり知らせたうえで、それでもやるか、という。
恵都はしばし黙ったもののしっかり目をあわせて「はい」と答える。監督はこの時点で状況を弁えつつも自力で立ち直ろうとしている恵都の決意のほどを見定め、彼女を気に入ったんじゃないか。だから後で結果的に撮影初日をすっぽかす形になったときもチャンスをくれたのでしょう。

・部屋の入り口で心配して見てる紅葉と剛太。監督たちが帰るのとちょうど入れ違いに浩一が外から入ってくる。剛太が浩一の腕つかんで恵都の方を指差す。興奮ぎみの剛太に対し紅葉は「恵都。大丈夫なの?」とまず心配そう。しかし「やってみる」と恵都は静かな笑顔で告げる。覚悟完了済みってことですね。
「それから私たちは、びっくりするぐらい頑張った。それはもちろんスクールのためだったけど、自分たちのためでもあるとわかりはじめてて」。リストン=自分の大切な場所をあって当然のものと思うのでなく守るために戦おうとする。はからずもリストンの経営危機が急激に彼らを大人にしています。

・ついに撮影初日。恵都が台本持って家を出ようとするとリビングのドアが開いて心配そうな両親が出てくる。あせりがちな声で頑張れよという父、頑張れなんていったらだめだという母。恵都は振り向いて「知ってたんだ」。
ていうか知らせてなかったのか。バイト始めたことを話の流れとはいえ報告した時点で、これからはちゃんと自分のやってることやろうとしてることを親に話すようにするかと思ってたんですが。芸能界に復帰するなんていったらバイトの比じゃないくらい心配させると思ってあえて秘密にしたんでしょうか。

・笑顔になって「ありがとう」という恵都を両親は「頑張れよ」「行ってらっしゃい」と見送る。駅でも皆が見送ってくれる。浩一はなぜかスーツ姿。電車の乗り換えなどが心配だという紅葉たち。「浩一がついてってくれるっていうから安心してたのに」「・・・悪かったな」「仕方ないよ、浩一だってすごいチャンスなんだから」。
何でもこれからずっと作ってたゲームソフト買ってもらえるかどうかのプレゼンに行くそう。思えば元子役の肩書きがあり学歴はあまり関係ない(今回の仕事など引きこもりだったことが逆に売りになった)恵都、フリマに出品する紅葉やヒップホップコンテストに出る剛太と違って、一番高校中退(休学?)の学歴が問題にされそうなのは一流企業(建物からの類推)に営業しようとしてる浩一ですね。
彼もなみなみならず緊張してるはずですが、それを出さずに恵都を応援してくれる。浩一も本当の意味で強くなっていきつつあります。しかし電車の乗り換えが心配なら紅葉や剛太が代わりについていくってことにならないのか。

・「頑張ってね。先に頑張ってくるね」おどけて敬礼する恵都。それぞれの返答。浩一は無言で少しうなずく。
会場へ向かう恵都のそばにマーサの車が止まる。送ってくよといって恵都を車に乗せてくれる。何度か面識のある相手、それもメイクしてくれたりリストンまで送ってくれたりオーディション紹介してくれたりプラスの事をしてくれた相手だけに恵都も気を許してしまってますが、車の扉を閉めるときのマーサの顔は冷たい感じ。あの表情を見てたらさすがに警戒する気になったでしょうか。

・会社への階段を上がる浩一は車の耳障りなブレーキ音に足を止めて振り返る。虫の知らせというべきか。視聴者も悪い予感をあおられます。

・恵都は「結構遠いんだね」「ここで撮影?」「ねえ場所がここってだれに聞いたの。確認してみたほうがいいんじゃ」と不安気な言葉をたびたび口にする。マーサの様子や場所の雰囲気に不審なものを感じてるんでしょうね。どのみち車に乗っちゃった時点でまずアウトですが。

・マーサの後について部屋に入った恵都は後ろから奈子が現れたのに驚く。「つくづくしぶといよねあんたって。つぶしてもつぶしても出てくる」。
恵都の自信を失わせるためにわざと出来レース(本当は誰が選ばれるかもう決まっていた)のオーディションをマーサに勧めさせたのに予想外に他の役で抜擢された事情を暴露する。あの時点では恵都に芸能界復帰の意志はなかったんだから、正直余計なことしなければ恵都は普通にハンバーガー屋のバイト続けてたはずなのに。失踪騒ぎの時といい、結果的に奈子が恵都にチャンスを与えてしまってるんですよね。
本人もその自覚があるから、まして自分が気に入ってた役を失った直後に恵都の映画出演が決まったものだから、それでキレちゃったんでしょうね。

・「さすが、腐っても青山恵都」。恵都の側に歩み寄る奈子。横顔同士のアングルが子役時代の「友達一人もいないなんて気持ち悪い人」のシーンをちょうど二人の位置を反転させて撮った構図にしてある。
明らかに意識的に構図を踏襲しながら二人の位置が逆になっているのは、二人の立場が当時と逆転している、あの時はポジション的に追う立場だった奈子が恵都を追いつめていたが今度は追う立場の恵都が結果的に奈子を追いつめてることを示唆しているのでは。

・「行かさないよ。撮影なんて」。出ていこうとする恵都に先回りしてマーサが扉を閉める。「今度はあんたが苦しむ番」「あんたの居場所なんて、あたしがぶっ壊してやる」「あの雑誌に記事を載せたのはあたし。目障りなんだよ!あんたもあいつらも」。
次々と酷い言葉を並べる奈子をひっぱたく恵都。「あたしに何したっていい。けど仲間を傷つけることは絶対に許さない」。殴り返した奈子は「あんたなんていなくなればいい」と泣きそうな顔。
おそらく彼女視点では敗残者のはずのフリースクールの人間が自分よりよほど生き生きしてる、かつて友達がいないことがコンプレックスで叩けば簡単にへこんでしまった恵都が仲間のためにこうも強くなったことが奈子にはたまらなく辛かったんでしょう。

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