スペシャルドラマ、連続ドラマ、舞台にもなった大ベストセラーだけに世間の注目度も高く、映画雑誌など方々で特集が組まれたりしたものです。
2006年の秋ごろだったか、ロケに参加したエキストラの方が自身のブログで、勝地くんが撮影に参加していたと書いてらしたのを読んで、以前勝地くんがおすすめ本として『東京タワー』を挙げていたこともあり、確度の高い情報として密かに期待を寄せていました。
その後公式サイトがオープン、キャストの写真一覧を見て確かに勝地くんが出演してることを確認したんですが・・・髪型が衝撃的すぎた。
モヒカンってあなた。(当時原作未読だったので、モヒカン頭の人物がいるとは思ってもいなかった) パソコンの前でたっぷり一分間は抱腹絶倒しました。
キャストの髪型で見るのをやめようかと悩んだ映画は初めてだ(笑)。
などと思いつつも2007年3月、翌月の全国公開に先駆けて行われた試写会のチケットをとある方からお譲りいただき、いそいそと見てまいりました。
結果・・・見てよかった、とつくづく思いました。
2時間半近い長さのストーリーを淡々とした描写で見せるため、正直集中力が切れるところもありましたが、自堕落だけど気の優しい母親思いの青年とひたすらに息子を思う母の物語を、過剰にならず抑えた演出で描く手法はとても好印象。
大仰な仕掛けで誤魔化すことのできない作品だけに、メインの役者がヘタだとグダグダになりかねないところですが、主演のオダギリジョーさん、オカン役の樹木希林さんをはじめとするキャスト陣――ケレン味なしに演技力で観客の心を掴むことのできる俳優さんたちが揃ったことで、しっとりした情感を持った映画に仕上がったと思います。
そして勝地くん演じる平栗くん。てっきり小泉今日子さんや宮崎あおいちゃんのようなカメオ出演なのかと思っていたので、思ったより出番が多い&重要なポジションだったのが嬉しかったです。
平栗くんは原作には登場しない(つまり実在しない)キャラクターで、ボクの後輩「バカボン」を土台に幼馴染の「前野」のキャラを融合させ、プラスいろんな要素(オカマのゲイとか)を付け加えたものだそう。
舞台挨拶で松岡錠司監督が勝地くんを起用した理由について「何でもできる役者ということで、以前から目をつけていた」と仰ってたそうなので、
「平栗役、高校から30代まで一人の役者で通しちゃおう。勝地なら何とかするだろ」
→「どうせならフラッシュダンス踊らせるか。勝地なら何とかするだろ」
→「平栗、オカマのゲイ設定にするか。勝地なら(以下略)」
のような過程で平栗くんのキャラが出来上がっていったのかなーと妄想。
昔から勝地くんは実年齢より上の役を演じることが結構多いですが、30代というのはさすがに初めてだったはず。
それだけに「20歳の勝地涼がオダギリジョーと同じ年というのは無理がある」という感想も大分見ましたが、個人的には不思議なほどに違和感を感じませんでした。
初登場時は高校生(回想場面)、直後に30代(現在)、後にボクと東京で再会→同居する20代(モヒカンスタイルはこの時期の髪型)、再び30代と年齢が移り変わってゆきますが、ちゃんと各年齢にあわせた役作りがなされている。
高校の時はカマっぽいキャラだからというだけでなく20、30代に比べて声が高めだし仕草の可愛さ度合いも高い。
その後、ボクと東京で再会し『フラッシュダンス』を踊ってみせる20代の彼には、自分の可能性を(ボクによるナレーションを聞くかぎり到底見込みがありそうではないのに)根拠なく信じて突き進める青年期の無鉄砲な若さが溢れていました。
そしてダンサーの夢は破れたものの自ら店を構えるまでになった30代の平栗くんにはしっとりした落ち着き、数々の苦労を乗り越えてきた人間ならではの深み――年輪のようなものを濃厚に感じました。
こんな円熟した雰囲気を弱冠20歳の若者が醸し出せるとは。改めて彼の表現力に舌を巻いたものでした。
(さすがにお葬式の場面だけは喪服着用のため服装でごまかせないので、高校生みたいに見えちゃいましたが)
平栗くんはゲイ&オカマ設定のキャラですが、女言葉を使ったり男にしなだれかかったりのいかにもさがないので(やたらにボクの手や膝に触ってはいるが、決定的な言動がない)、単にいささかスキンシップ過剰な、ものすごーくソフトな性格の持ち主というようにも取れる。
だからでしょうか、私にとって平栗くん、とくに30代の彼は、すこぶる魅力的な大人の男性として映りました。
映画を見るまではあれだけモヒカンヘアが目に焼きついていたのに、実際に観た後印象に残ったのはもっぱらフラッシュダンスのシーンおよび30代の時のふわっとした髪型の彼。
当時女性的な平栗くんの男っぷりにすっかりメロメロになったものでした。
4月29日に行われた監督&勝地くんの舞台挨拶をご覧になった方によると、勝地くんは「ゲイということを意識するより、オカンやボクのことを大好きな心優しい男の子を演じました」と話していたとのこと。
演じる役を表層的な個性でなく(ゲイ&オカマという強烈な個性を持った役であってさえ)一つの人格として捉える勝地くんらしいコメントだなあとしみじみしてしまいました。
彼のこうした役に向かう態度が、特に内面を掘り下げて描かれてるわけでもない平栗くんを、あれだけ魅力的なキャラクターたらしめたのだと思います。